モチモチ餅とアンの実
ふと、書きたくなったので書きました、明けましたおめでとうございます。
初めましての方は今年からよろしくお願いします、そうでない方は今年もよろしくお願いします。
とある肌寒いを通り越して、肌凍り付くほどの日の朝、ようやく商人の護衛から解放されて精神的にも身体的にもボロボロになって依頼の報告に行く。
「ふぃ〜…さみぃ〜」
「ね、眠たい…」
「目が開かない……」
「あ〜、マジでありえねぇよなぁ、食費あっち持ちって言っておいて最低品質の保存食しか用意されてないなんて」
「それな、ったく、こんな事なら自分達で用意した方がよかったよ」
「だから言ったじゃないの、あまりいい噂聞かない商人だから、用意した方が良いって」
「でも、ユウだって用意してなかったじゃんー」
「そうだそうだ」
「あんたらねぇ、もし私が用意していても私だけいいもの食べてたらあんたら文句言うでしょ?」
「むー」
「そ、そんな事ない…多分」
「多分じゃなくて、絶対言うわよ、全く感謝して今度からはちゃんと忠告聞くように」
「「はーい」」
そんな話をしていると、目的地であり、自分達の所属するに【ギルド】着く。
まだまだ日も登り切っていない朝方だが、受付嬢兼マスターのメリーが迎え入れる。
「メリーさんお久しぶり」
「はい、お久しぶりですね、ユウさん、コナタさん、オオマさん、寒かったでしょ?あちらの暖炉の近くで身体を温めながら報酬のお話でもしましょうか?」
「そうしてくれると助かるわ……ほら、あんたらもゆっくり動かずキビキビ動く!」
「うぃー」「はーい」
「ふふ、相変わらず仲がいいのですね」
「まあ、そう言う事にしておくわ、はいコレもお願いね」
「はい、今回は随分多いですね?」
「途中で馬鹿商人が馬鹿みたいに魔物を刺激したせいでね…全く…」
「それは…お疲れ様でした、ご無事で何よりです」
「ん、ありがと」
そう言って暖炉に火を焚べて、奥の方に向かっていく。
初めの方はゆっくり動いていた2人も火が燃え上がるにつれて、一番いい席を取るために動き出していく。
「お待たせ致しました、今回の依頼の報酬と買い取り素材、合わせて8900Gになります」
「いつも通り4等分で1等分を預けるわ」
「はい、かしこまりました」
そう言うと手慣れた動きで貨幣を小袋に分けて1つずつ渡していく。
「ありがとね、そう言えば部屋って空いてる?」
「はい、皆さんの部屋は空けておりましたし、この時期だと皆さんご実家の方へ帰られる方も多いので」
「あー、そういやもうそんな時期か…今年は帰らなくていいかなぁ…」
「そうなると孤児院の方も手伝いに行かなきゃね〜」
「はいはい、そう言うのは疲れを取ってから考えるように、それじゃあ部屋、使わせてもらうわね」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
3人は自分達の泊まっていた部屋に戻ってゆっくり眠りにつくのだった。
数日後
ユウは長旅の疲れを癒したあと、何か手頃な依頼がないか探すため、ボードの前で依頼書を眺めていた。
……が、こうも寒い日だと猫も出ておらず、水路もある意味綺麗で魔物も静かなのである。
「ないわね」
「この時期だと依頼書も少ないですからね…」
「そうよねぇ、あーあ、こんなんで今年のこの寒い時期は越せるかしら?」
「ユウさん達はしっかり貯えてるんですから問題なさそうですけどね?」
「まあ、お金関係で失敗してる奴らなんて飽きるほど見たしねー…仕方ない、私も孤児院の手伝いでも行ってくるかなぁ」
「そうした方がいいかもしれませんね」
「じゃあ、あの寝坊助が起きてきたらジョーゼン孤児院に来るよう言っておいてください」
「はい、分かりました」
「おいおい、寝坊助はないぜ…ふぁあ〜」
「お昼時に起きてくる方を寝坊助じゃなかったら、何て言うのかしら?」
「う、ま、まあ、いいだろ?いつもより早いんだから」
「全くね、さっさと身だしなみ整えて「あ、そう言えば」あら?どうしたのメリーさん」
「丁度良い依頼がありました!」
そう言ってカウンターの中から一枚の紙を取り出す。
そこには『討伐もしくは捕獲依頼』と書かれていた。
「この依頼あまり緊急性もなくて、この時期にしか出されてなかったので忘れてました」
「えーっとどれどれ…『モチモチ餅』?」
「はい『モチモチ餅』です」
「なんだその名前?」
「それに緊急性がないってどういう事なの?討伐依頼でしょ?」
「まあ、名前はともかく『モチモチ餅』はスライム系統の魔物で人を襲うのですが、この時期にしか生きられない特殊な魔物で、この時期にわざわざ外に出る人も少ないので緊急性が低いんですよ」
「なるほどねー、まあ、少しでも報酬が出るなら行くきゃないわね」
「スライム系統かぁ、斬ってもあんま手ごたえなくて嫌なんだがなぁ」
「受けてくださるのであれば、モチモチ餅について情報を出しますが、モチモチ餅はスライム系統に珍しい打撃が通るスライムなんですよ」
「へー、それでそれで?」
「それで、火に弱いんですが、それ以外だと耐性があるようで殆ど効かないんですよね」
「火しか通らないって珍しいわね?」
「ですけど、そのモチモチ餅って火を好むそうで、自分から焼かれに行くんですよね」
「え」
「嘘だろ?スライムってそんなに馬鹿じゃないだろ?」
「不思議なんですよねー、だからか学者さんが捕獲依頼を出しているんですよね」
「ふーん面白そうだな」
「受けますか?」
「そうね…流石にコナタが帰ってこないと「ふひぃ…ちゅかれた〜」あら、コナタ早いわね?って何?その袋」
「孤児院の子供達と遊んで、ジョーゼン院長がお土産にって、アンの実を一袋貰った〜」
「もらったって…アンの実だけじゃまともな料理できないわよ?」
「そうだけどさー」
「はぁ、まあ、いいわとりあえず依頼受けたから、明日は朝早くから動くわよ」
「え!?朝から!?」
「はーい、じゃあ夕食まで寝てるから」
「明日の準備しておきなさいよー」
「いや、朝からはキツイって!」
「これから何度か受けるかもしれない依頼なのよ?それにそろそろ朝に起きることを覚えなさいよ」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
翌日
「うう〜さみぃし、ねみぃ〜」
「オオマったら猫みたいに縮こまったって、孤児院の子供達はこの寒さの中でも遊んでたり、仕事もらってやってるのよ〜」
「コナタだって猫みたいに縮こまってんじゃねぇか!」
「な!私は元からコレなの!」
「はいはい、そろそろ目的範囲に入るから騒がないの、それに今回は火を使うんだから寒さも少しはマシになるわよ」
「ううう、早く温かいギルドに戻りてぇ」
足首が埋まるほどの雪が積もる森の中、目的範囲に入って少ししたところで雪を掘り出し、ユウが予め持ってきていた焚き木を置き火を灯す。
小さな火種だったが次第に大きくなり、3人が温まれるほどになってきた。
その時であった。
ぐぅぅぅぅぅ………
「そう言えば朝ごはんまだだったな…」
「馬鹿オオマが寝坊するからよ」
「ぐっ」
「全くだ、まあ、日もあることだし少し温かいスープでも作るか」
「やった〜、あ、そうだ、これも入れようよ!」
そう言うとコナタは小さい袋を取り出してユウに見せる。
その中には昨日もらったアンの実が入っていた。
「アンの実…まあ、甘くなるけどその方が良いわね」
「甘いスープかよ…」
「なによ?嫌なら食べなくていいわよ?」
「イタダキマス」
「とりあえず、バックから底の深い器を取って」
「はーい」
手際よくアンの実を軽く潰して、グツグツと茹ってきた水の中に入れる。
鍋からは微かに甘い香りが漂い、空きっ腹に刺激する。
「さてと、これくらいで「待て」…全くタイミング悪いわねぇ」
オオマが短く注意して、ユウもコナタも察する。
オオマの見る方向には2体の白いモチモチ餅が居たのだ。
ゆっくりとだが跳ねながらこちらに寄ってくる。
「まあ、さっさと倒して朝飯にしようぜ」
「さんせ〜」
3人が迎え撃つ準備を整え、オオマが片方のモチモチ餅に襲い掛かる。
気の抜けた鳴き声と共に飛び跳ねた瞬間を剣で流し斬ると、スッパリ2つに分かれた。
「ん?結構あっさりだな?分裂…にしては動かないぞ?」
「核でも斬れたんじゃないの〜?」
「もう片方は私が燃やすわね、燃えよ!」
短く軽い呪文を唱えると、モチモチ餅から火が出る。
情報通りモチモチ餅は火をどうにかしようと身体をうねらせる。
「火もいい感じに通るわね」
「そうだけど…なんか膨らんでない?」
「ぷーーー…………ーーーーーク」
「?………!全員しゃがめ!」
「プック!!」
オオマがそう言って伏せると2人もすぐに伏せ、モチモチ餅の膨らんでいくのが限界に達したのか少しの爆発音と共に四散する。
「あ、危ねぇ…」
「あと少しで破片に当たっていたわね」
「オオマのくせに気づくなんてやるじゃない」
「くせには余計だ!」
「まあまあ、さっきの朝ごはんの…つづ……ああ!」
ユウが鍋を見ると蓋が外れており、モチモチ餅の破片が入っていた。
「モチモチ餅が…入ってる…」
「で、でも、モチモチ餅って一応スライムなんだし食べれ…る?」
「確かにスライム系統は殆どが食べられるけど、私たちの食べてる食用スライムは人の手が加わっているから…野生の雑食スライムは…」
「ま、まあ、勿体無いし物は試しだ!案外問題ないかもだろ?前もあっただろ?」
「うーーーーーーん………まあ、食材が無駄になるより冒険した方が良いわよねぇ」
「うぇ〜、食べるの〜」
コナタの心配を他所にユウは3人分のモチモチ餅入りアンの実スープを用意した。
「じゃあ、食べるわよ」
「お、おう!」
「うう…い、いただきます」
「「「ゴクリ………」」」
その時だった、モチモチ餅が入ったから余分に火を通したからか、それとも、アンの実がモチモチ餅とあったのか…。
アンの実の甘さ、そしてモチモチ餅のスライム特有の柔らかさが相まってその味は…
「「「美味しい!(うまい!)」」」
かなり奇跡的に合っていた。
「モチモチ餅が具材になって甘味が絡んで美味しい!」
「さっきまであんなカッチカチのスライムとは思えない奴がこんなに柔らかくなるなんて!」
「案外スライム特有の味のなさが生きてるわね!」
そう、これはこの世界初の『おしるこ』である。
「これなら普通にモチモチ餅入れても問題なさそうだな!」
「そうね、まあ、今のところ不調はないけど、変なものを含んでそうなモチモチ餅は避けないといけないかもね…って!」
「ん?ああ!」
オオマがユウの視線の方を見ると、先ほど斬って動かなくなっていたモチモチ餅が火に当たって徐々に膨らんでいたのだ。
「やべ!早く逃げ………ん?」
「ぷーーーー」「ぷーー……ぷーーーー…」
「何してるのよ!早く離れなさいよ!」
「い、いや待て、コイツら、膨らんでいるが、破裂しそうにないぞ?」
「はぁ?何言ってんのよ?」
「いやだってこれ見ろよ」
そう言って近くにあった火鉢で拾って上げると、確かにモチモチ餅が膨らんでいるが、破裂寸前ではなく程よく膨らんでいるといえるくらいになっているだけだった。
「どういうことかしら?」
「さあ、まあ、とりあえずこの状態で捕獲しておくか?」
「うーーーん、もう少し大きい個体でも良さそうだけど、あまり敵意なさそうだし、それくらいなら予備の鍋の中に入りそうだから、メリーさんのお土産にでもしましょうか」
「いいね〜、メリーさん甘いもの好きだからね〜」
「そうと決まれば、鍋出してくれよ」
「はいはい」
「ぷーーー?」「ぷくぷーく?」
「なんて言うか、スライム特有の魔抜けた声よね〜」
「流石、愛好家まで出てくる魔物よね」
とりあえず残りを食べて、も少しだけ確保しておくか」
「そうしましょ…って言ってるそばから来てるわね」
「よーし、軽く斬って持って帰るぞー」
「頑張れ〜オオマ〜」
その後、最初に入れておいたモチモチ餅が引っ付いて離れなくなり鍋がダメになったり、マスターがモチモチ餅を気に入って養殖に乗り出したり、モチモチ餅入りアンの実スープが流行ったりするのはまた別のお話。
ちなみに、おしるこは餅と小豆だけではなく砂糖で甘くしないといけませんが、アンの実は元から少しだけ甘い。
それではまた別のお話で、おやすみなさい。