婚約破棄を覚悟した私は、お菓子の嘘を懺悔する
私の嘘は最初は小さなものだったの。
彼に喜んでほしくてついた小さな嘘。
あの日に戻れるのなら、私は嘘ではなく真実を伝えたい。
今は本当に心から思うの。
だって私は彼が好きだから。
だって私は彼に嘘をついたままにしたくないから。
だって私は彼の、、、。
婚約者だから。
「君の作るお菓子はいつも美味しいよ。僕は君のお菓子のお陰で、君のような可愛い女の子に出会えたんだ」
「大袈裟よ。お菓子はオマケよ」
「オマケじゃないよ。君もお菓子も僕に必要なんだよ。君とお菓子は僕の癒しだよ」
彼の顔は本当に幸せそう。
でも私は心から笑えない。
だって嘘だから。
彼の好きな私の作るお菓子は、本当は私の双子の妹が作るお菓子なの。
私はお菓子なんて作れないし、本当は甘いものは苦手なの。
最初の嘘が間違いだったの。
私は図書館で働いている友達に、双子の妹が作ったクッキーをあげようとして、図書館の机の上に忘れたの。
クッキーを忘れたことを思い出して取りに行った時に、それを彼が見つけてくれたの。
彼は私にクッキーを渡す時に、大きなお腹の音を響かせたわ。
だから私は彼にそのクッキーをあげたの。
彼は美味しいって言って笑顔で全部食べ、誰が作ったのか聞いてきたから、私が作ったと言ったわ。
それから彼は図書館に何度も来て、私にお菓子の本を見せ、次はこれが食べたいって言うの。
そんな彼が可愛くて、私は双子の妹にお願いをしていつも作ってもらっていたの。
そんな日が続き、私達は惹かれあって恋人になったわ。
そして私は彼にプロポーズをされて婚約者になったの。
結婚式が近付くにつれ、私は後悔の気持ちが大きくなり、結婚することを諦めようと思うようになったの。
だから婚約破棄をされることを覚悟して、自分で初めて作ったクッキーを持ち、彼に会いに行ったのよ。
彼は私のクッキーを見て驚いていたわ。
だって私の作ったクッキーは黒く焦げてて、形もトゲがたくさんあるハートのようになっていたからね。
彼はそれを何の迷いもなく口に入れたわ。
苦いだろうし、トゲが口に刺さって痛いだろうし、だからとても美味しいという顔ではなかったわ。
でも彼は言ったの。
「愛情がいっぱいだよ」
それでママはパパと結婚することを決めたの。
そしてあなたが生まれたのよ。
「ママとパパのお菓子は私なの?」
「どうしてお菓子になるの?」
「だって私は、愛情をいっぱいもらっているからね」
「そうね。あなたはママとパパの大好きな甘いお菓子ね」
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ほっこりしていただけましたら幸いです。