第一部 序章 1話 それぞれの始まり
はじめに必ず前書きを見て良く理解したのちお読みください。息抜きと勢い、そして思い付きで始めたものなので、設定に矛盾が生じたり、ご都合主義、残酷で流血沙汰の描写や表現が有ります。後、人によっては、差別的に感じられる言葉や表現、描写もあります。書いている本人が気付いていないだけで他の方々に嫌悪感や不愉快に感じる言葉、表現、描写があるかもしれません。少しでも嫌悪感や不愉快に感じる方はご控え下さい。
かって八つの大陸で神々と数多の人種を巻き込んだ戦いがあった。激戦の末、多くのものを失い未知なる禁忌を生み出すことで人種がかろうじて勝利を治めた。戦いに負け敵対していた神々はこの世界を捨て何処か遠い地へと旅立った。其から、長い年月が流れ、短命種には遥か昔、長命種にはつい先日の様な出来事となった。
シリウスside
その男は、切れ長の目に精悍な顔立ちだが不機嫌で無愛想な雰囲気が顔に張り付き、フードの付いた光沢のある漆黒の糸で不気味な紋章を刺繍された黒地のマントを羽織っていた。髪も瞳も吸い込まれる様な漆黒で、日に焼けた肌は褐色。鎧、衣服、ブーツに至るまで黒で統一されていたが、帯剣している二本の剣のうち一つが蒼白い水晶の様に透き通った剣だった。
男は大股で歩きながら傭兵ギルドに入って行くなり、依頼掲示板の方へと向かう。掲示板の前で屯している他の傭兵達が男に気付くなり、我先に逃げ出す様に散って行く。そんな様子を気にする事も無く、掲示板の上方にある高難易度、高報酬の依頼書を見付け内容を確認するなり引き千切るように依頼書を奪って行き、当然のように依頼書と傭兵の証であるメダルをカウンターに突き出す。
「相変わらず無愛想ですこと何とかなりませんか。後、当然の様に殺気を放つのも止めて下さい。いつも言っているでしょう。何時に為ったら判って下さるのですか。他の傭兵やギルド員が怯えて仕事に為りません。はっきり言って迷惑極まりなく営業妨害です。シリウス!」
臆する事無く堂々と正面切って、言い放つ言葉が後になるにつれて怒気と刺を孕みカウンターに座り驚きを隠す白銀髪でやや垂れ目の金銀の瞳を持つ童顔の女性が眉間に皺を寄せ目を吊り上げて下から睨み付けながら言い放つが元来の垂れ目のせいで全く怒っているように見えない。普通にしていれば其なりに美人なのだが彼が来ると決まって不機嫌に為る。
「いいから黙って手を動かして依頼の承認をしろ。仕事だろうが。時間が惜しい。エリエール=エル=メルディバッサ=ハウトディール。さっさとしないとギルマスを呼ぶぞ。」
そう言い放ったシリウスは、止めとばかりにエリエールの前髪を払うかたちで横目で見つめながら右耳元に顔を寄せて小声で言葉を重ねた。その様子は、端から見ればまるで女性を口説いているようで、様になり何処ぞの恋愛小説の挿絵さながだった。
「誰のお蔭でここで仕事ができ、働き続けられていると思っている。」
エリエールは、右耳を両手で押さえ慌てて椅子から立ち上がると、シリウスから僅かに距離を取り色白の顔を真っ赤にして頬を僅かに膨らませ更に怒気を込めて静かに鋭く睨み付けた。 その仕草は、年の割に大人びて美人に見える彼女を年相応にしていた。そして、辺りから注目を浴びていることに気付き、静かにゆっくりと何事も無かったかの様に椅子に戻って依頼受託の手続きを手早くし、依頼書とメダルを突き返し悲しげに瞳を閉じて下を向き静かに呟いた。
「其れを言うのは卑怯ではありませんか。何故、いつもその様なことを言うのですか。」
「言われたくなかったら、黙って仕事をしろ。それと良い男を見付けてとっとと嫁に行け。」
「そんなこと余計なお世話です。放って置いて下さい。それとフルネームで呼ぶのは止めて下さい。」
言ってはみるが、力無く弱々しく呟かれた。シリウスは聞こえていないかの様にさっさとギルトを出て行った。エリエールは、そんな彼の後ろ姿に消え入りそうな小さな声で語りかける。
「昔みたいに可愛いがって下さらないのですか。甘えてはいけないのですか。また、愛称で呼んでは下さらないのですか。」
その問い掛けに答えが帰って来ることはなく、代わりに同僚の女性ギルド員から声が掛かる。
「エリー、相変わらず厄介な相手に絡まれていたわね。今度は何を言われたの。いくら高位の色持ち傭兵だろうがあまり酷いことを謂われるようならギルマスに相談したら。皆心配してるわよ。」
軽く周りを見渡すと同僚の皆から憐れみと同情の入り交じった心配の眼差しが向けられていることに気付いた。
「あっ!すいません。大したことではありません。ご心配をお掛けしました。有難うございます。」
そう言って軽く会釈をした。ここに居るギルド員達や屯している傭兵達は、私と彼の関係を知らないのだ。知っているのはギルマスだけなのである。だから、こういった誤解を招くのも仕方がないことだと思っている。そんなことを思いながら彼の心配をしていた。今回、彼が依頼で行く場所は曰く付きの古の古戦場の一つ〈黒き森〉である。近年、物騒な事故や事件が相次いで起こっている場所である。何事もないことを願いながら無事に戻ることを祈った。
少女side
蒼穹のようなローブに若草色の旅装束、そして、変わった素材の軽装鎧を身に纏い、髪、耳、首元、手首、指に、それぞれに簡素で質素な装飾品を身に付け、腰には短剣、手には身長と同じ長さの古の紋様を施した杖を持ち、膝上まであるブーツを履いて左肩から右斜めに掛けた少し大きめの旅行鞄を持った少女は陽気に初めての一人旅を満喫していた。
その様子は、風に踊る蒼銀の腰より長い髪をそのままに靡かせ、その隙間から特徴的な耳の上部と耳朶が風切り羽の様に尖っており、幼いながらも整った顔立ちにサファイアの様な深くて青い瞳をキラキラと耀かせ、ほんのりと朱く頬を染め血色の良い深紅の唇で唄う様に口を動かし小気味の良い軽快なステップで誰かと舞い踊る様に草原を歩いていた。身長は低いが体つきの発育はとても良いという不釣り合いなところがある。
「わぁ。なんてきれい。自然に群生しているラザエスがこんなに力強く咲き誇っていて。彩り鮮やかで香りも強い。やはり、温室で育てているのとは違う。少し採取して行こう。」と、声に出すことなく思っていた。
脇道に逸れて休憩しようと木陰に入れば群生しているラザエスを見付け、採取道具と晶石を出して自由気儘に採取し始めた。時間が過ぎるのも忘れて。
視るもの全てが色鮮やかで真新しく周りに目を奪われながら時折、地図を見て道を確認していたが、只、問題なのは、少女自身が方向音痴であることを自覚していなかったことだ。少女が目指していた場所とは全く正反対の方向に自信満々に鼻歌混じりで進んで行く。それに加えて道から外れ、川や草原、森や岩場等でその道に長けた専門家でも、見付けられない貴重な素材を当たり前の様に見付け採取に没頭して行く。そんなことをしている為か、野宿や狩りが当たり前の様になっていた。
少女が余りにも目的の場所に着かないことに気付いたのは、前の街を出て三週間が過ぎた頃だった。道を間違えていなければ四日で着く場所だ。寄り道をしていた自覚があったので、かなり着くのが遅くなるだろう。と思っていたが流石に着かないので、旅人か、商隊を見付けて道を訊ねることにした。暫く、歩いて探していると、運良く休憩をしていた商隊が視付かり、駆け寄って行った。
前の街を出て始めて人と合うのである。久しぶりの人につい嬉しくなり警戒心の欠片も無く、無防備に無邪気で陽気な瞳をキラキラと輝かせ上目遣いで、若い商隊員に手を忙しなく動かし大陸共通手話で語り掛けた。
「あのぉ、すいません!ラティスカーニャに行きたいのですが、この道で良いですか?」
無防備に駆け寄って来た余りにも警戒心がない無邪気な瞳を輝かせる少女に若い商隊員は、警戒をしながら、忙しなく動く少女の手元を見て、大陸共通手話での問い掛けを理解し、驚いて大声で答えてしまった。
「ラティスカーニャ! 全く方向が違うよ。正反対だよ。お嬢さん。」
若い商隊員の大声に驚いたカルバ族の商隊長と商隊員達が集まって来て、少女からこれまでの経緯を大陸共通手話で語られ、少女が物凄い方向音痴であること、旅に対して計画性がなく行き当たりばったりで警戒心が皆無であることを理解すると共に脱力し呆れ果てた。そして、各商隊員達が知恵を出し話し合いこの少女でも迷わずもっとも解り安い最適な旅路を大陸共通手話で示す。
「もし確実に着きたいのなら、寄り道をせずこの道を只ひたすらに真っ直ぐ行って森を抜けた先にホウラルの街があるから。先ずは、そこを目指そう。」
「途中、人に会ったなら、良く注意し観察して警戒を怠らず道を訊ねて確認をするように。」
「ホウラルに着いたら、門番か兵士に乗り合い馬車の停留所に連れて行ってもらって、ラティスカーニャ行きの乗り合い馬車に乗せてもらうといい。決して自分一人で決めて乗らないように。迷ったら周りの人に良く聞いて確認を何度もする事。」
「少し高くなるが急ぐなら、渡場に連れて行ってもらい、船に乗せてもらってアルステル大河を下り、都市リモーラから海路を使いラティスカーニャ行き高速帆船で行けば十日で着く。陸路だとどうしたって二週間以上は掛かるから。」
「リモーラからラティスカーニャへの船の乗り換えは、着いた渡場の人に連れてってもらうか、人に良く聞いて乗る前に何度も確認するように。」
各商隊員達は、まるで自分達の幼い子供か弟妹に言い聞かせるように心配しながら注意した。少女は、元気良く笑顔で頷いて応えた。
其から、少女は商隊から腰に着けるポーチを買い、陽気な笑顔でお礼を言って別れた。
道を聞き軌道修正したにもかかわらず、それでも、全く違う方向に無邪気で陽気な笑顔で鼻歌混じりに元気良く何処から来るのか分からない自信満々な態度で進んで行く。
更に道を間違え迷っていることも自覚せず、この道が正しいと信じて。商隊長達が知恵を絞り最も解り安く示した道とその想いは無惨にも意味を為さず、方向音痴な迷子は、只ひたすらに突き進んで行く。
その先に、曰く付きの古の古戦場の一つ〈黒き森〉があるとも知らずに向かっていた。
ラザエス 第一大陸東部全域に生息する動植物の毒を解毒する。他にも解熱、幻覚や目眩を抑える効果が有る貴重で珍しい植物。花、蜜、葉、茎、球根全てが薬となる。育成条件が詳しく判っていないが研究機関等の一部で栽培に成功するが大きく群生して育つことがなく香りも効力も低い。見つければ一財産になる。
カルバ族 首側面、肩から肘にかけて動物のような短い毛と尻尾を持つ人種。俊敏で意外と力持ち。男性は尻尾の長さ、女性は尾の数、後、男女共通するのは毛並みの美しさで高貴さが決まる。獸人を祖にもつ。
異世界転生&転移ものを期待していた方々は、もう暫くお待ちください。一部後半頃から出す予定です。
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