3.ミレイラのトラウマ。
いつか加筆したい。そう思ったり。
ただ、思いのほか作業が捗りそうです。
応援いただけると幸いです。
「え、暗殺……!?」
「ちょっと、声が大きいですわよ!」
「ご、ごめん! でも――」
ボクは思わぬ言葉に、声を上げてしまった。
すると、アミナは慌てて叱責する。かなりデリケートな話題に違いない。軽率に大声を出してしまったことを謝罪しながら、それでも気になることを訊ねた。
「それって、二人のお母さん――亡くなった王妃様のこと、だよね?」
そうなのだ。
世間では彼女たちの母親は、病に倒れたことになっている。
それがいったい、どういうことなのだろう。首を傾げていると、少女は難しい顔をしながらこう言うのだった。
「まだ幼かったので、わたくしも詳しくは知りません。ただ聞きかじった限りでは『見せしめ』だ、と。誰かが口にしていたのを聞いたことがありますわ」
「見せしめ、だって……?」
「はい、そのようです」
「…………」
そこまで聞いて、ボクの中でピースがハマるような感覚があった。
もしかしなくてもそれは、先日聞いた派閥に関係することなのではないだろうか。そう考えると、辻褄が合うように思われた。
つまりその当時すでに水面下で争いがあり、王妃様は見せしめに。しかし世間に内部分裂を覚られないよう、彼女の死は病によるものだとされた。
「そんな……」
その結論に至って、ボクは眉をひそめる。
そこへ、さらにアミナは続けた。
「実は――」
心苦しさを、隠しきれない表情で。
「お姉様はその時に、お母様と一緒にいたそうなのです」――と。
◆
『暗殺が起きた夜、お母様とお姉様は一緒の部屋にいました。そこへ何者かがやってきて、お母様を殺害したようです。幸いお姉様は隠れることに成功し、見つかることはなかったのですが……』
――その時のトラウマが、今でも蘇ることがあるようです。
想像しただけで、寒気がした。
ミレイラは、目の前で母親を殺されたのだという。
異変に気付いた兵士が駆け付けた時。そこには王妃様のことを起こそうと必死になって、彼女の血にまみれたミレイラの姿があったらしい。
アミナの話は、あくまで伝聞だ。
だから、どこまでが真実なのかは分からない。
ただたしかなのは、ミレイラの心はその時に深い傷を負ったこと。
「………………」
それだけでもう、ボクは我慢できなくなった。
アミナとの話を途中で切り上げていてもたってもいられず、一直線にミレイラの部屋を目指す。そして今、彼女の部屋の前に立ち尽くしていた。
果たして、ボクに何ができるだろう。
ここまできて、そう思った。
だけど、もう迷ってはいられない。だから――。
「ごめん、ミレイラ? 起きてるかな」
数度、ノックをしてからそう問いかけた。
すると静かに扉は開かれる。
「リンク……?」
「ごめん。起こしたかな」
「いえ。眠れずにいたところですので」
「そっか……」
短い会話を交わしてから。
ボクは、ミレイラにこう訊ねた。
「少しだけ、二人で話せるかな」
「はい。大丈夫です」
ミレイラはあっさり了承し、警備を務める兵士に一言声をかける。
彼らは一時的に持ち場を離れることになり、ボクはその後に部屋の中へと通された。アミナとは対照的に、簡素な印象を受ける整った場所だ。
椅子を用意してもらい、腰掛ける。
彼女はすぐそばにあるベッドに座って、向かい合う形になった。
「…………」
そうして、黙り込むミレイラを見る。
先ほどは落ち着いたように見えたのだが、やはり無理をしていたようだ。
瞳には光が感じられず、いまにも倒れてしまいそうな印象を受ける。この短時間でここまで衰弱するものなのかと、彼女のトラウマの深さを思い知らされた。
「すみません、リンク」
「え……?」
そうしていると、不意にミレイラが謝罪を口にする。
完全に予想外の言葉に、ボクは思わず声を失った。しばしの沈黙があってから、ミレイラはゆっくりとこう話し始める。
「私は貴方を巻き込んでしまった。やはり、駄目なのです。私は口だけで、この程度のことで簡単に心が折れてしまう」
「ミレイラ……」
「世界を、この国を変えると大見得を切ったくせにこの体たらく。幻滅されたことでしょう? こんな女の戯言に付き合って、自分は命を懸けたのか、と」
「………………」
黙っていると、次第に彼女の声は大きくなっていった。
そして――。
「本当に情けない。私はこうも弱い、情けない女なのです。なにをやっても空回りをして、理想だけを口にして、その実は自信がなくて、それで――」
「ミレイラ!」
「え……!?」
彼女が自分を責め始めた時。
ボクは、とうとう我慢できなくなった。
気付いた時には、ボクは彼女のことを――。
「リン、ク……?」
無意識のうちに、強く抱きしめていた。
とりあえず、夜の間にせめてもう一話()