プロローグ 落ちこぼれ、本を見つける。
新作です。
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あとがきに次回の更新予定が書いてあります。
「おい、そこの木偶の坊! 今からちょっとサンドバックになれ!」
「そ、そんな!? どうして――」
「理由なんてねぇよ! お前が弱っちいからに決まってるだろ?」
「そんなの横暴――がはっ!?」
同い年の上級生が、ボクの腹を殴った。
力加減なんてない。思い切りだ。一瞬だけ呼吸ができなくなり、目の前がチカチカとする。膝から力が抜けてうずくまり咳き込むと、それを見て彼は笑った。
「ホントに弱いよな、リンク。さすがは落第を繰り返してるだけはあるぜ」
「うぅ……!」
本当にただの憂さ晴らしだったらしい。
その上級生はこちらに唾を吐きかけながら、こう続けた。
「いつまでたっても成長しない【大器晩成】なんて、誰も相手にしてくれないよな。それでもオレ様のサンドバックになれるんだから、名誉に思うんだ――な!」
「うわっ!」
そして、今度はボクの顔面に蹴りを見舞う。
鼻っ柱が折れた。血が噴き出して、意識が遠くなっていく。
「でも、いまいち耐久性に欠けるよな。そこだけは難点だぜ」
朦朧とする視界。
最後に聞こえたのは、人を人として扱わない少年の言葉だった。
◆
人間の成長速度は、それぞれ異なる。
いわゆる【早熟】と呼ばれる者もいれば【大器晩成】という者もいるのだ。その二つであれば、評価されるのは圧倒的に前者だった。
大器晩成の者はどうせ、どこかで気持ちが折れる。
だから、最初から誰も期待しない。
この世界では、早熟の即戦力ばかりが持て囃されていた。
「本当にお前は、何年この学年に留まるつもりだ?」
「………………」
魔法の実践授業中のこと。
ボクは同級生の前で、教員からそう叱責されていた。
新学期が始まってからというもの、これがもはや日常となっている。他の学生の前で恥をかかせることで、暗にボクを自主退学させようとしているのだ。
「さっさと消えてほしいのだがな。それを強制できないのが、面倒だ」
「…………すみません」
その証拠に、教員はハッキリとそう口にする。
この魔法学園では、生徒を強制的に追い出せない規則になっていた。だからボクが逃げ出すまで、延々と嫌がらせが続く。
「もういい。次の者、基礎の炎魔法を――」
適当に手で追い払われ、ボクはその場を後にした。
このように、授業の途中で抜け出しても何も言われない。それもそのはず、ボク――リンク・リーデアスは、誰にも期待されていないのだから。
ボクを見てくれる人なんて、誰もいなかった。
「はぁ……。もう、キツイよ」
学園内を歩き回りながら、ボクはそう呟く。
入学してから、かれこれ三年が経過していた。成績はいつも最下位で、進級試験にすらまともに進めた試しがない。
落第を繰り返して、いつの間にか『落ちこぼれ』と呼ばれていた。
「……なにか、読むか」
ふと、図書館の前で足が止まる。
放課後まで、どうにか時間を潰さなくてはいけなかった。
だからボクはとくに目的もなく、そこに足を踏み入れる。入ったことはなかったけど、一目で分かった。
「どれだけ、人に使われていないんだろう?」
埃まみれの棚に、蜘蛛の巣が張っている。
乱雑に本が重ねられた細道を進むと、椅子とテーブルがあった。
「誰も来ないし、ここで時間を潰そう」
ボクはそう思って、適当に本を探す。
すると――。
「ん、なんだろ。この本は……」
多くの本の中で、ひときわ古ぼけたものがあった。
埃を払って手に取る。そして、表紙に書かれた題を読んだ。
「えっと――【超速成長】……?」
なにかの魔法についての本、だろうか。
その時のボクは、そう思った。
だけど、この本との出会いがボクの運命を変えることになる。
そんなこと、知る由もなかった。
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