スターを夢見て
私は子供の頃から憧れていた役者の道に進む為、両親を説得して今現在劇団に所属していた。
募集していたオーディションに合格したからだ。
嬉しかった。
でも、知り合いはいない。
当然っちゃあ当然。
誰にも話していないから。
2週間に一回のレッスンも苦にならなかった。むしろ楽しかった。
でもね、苦労したところもあったよ。
セリフ覚えがね。
言葉と動きを考えながら自分で動かないといけない。そこがちょっと苦手だった。
感情を入れるのが苦労したのだ。
レッスンを受けているうちに友達もできた。
集まって飲み会なんかも開いたりもしたよ。
でも結局はみんなライバル。
私は必死になって頑張った。
そのおかげかドラマのオーディションの話をいくつかもらった。ちょうどその時は仕事が忙しく受けることができなくて悲しい思いをした。
友達の何人かにもオーディションの話がきていた。
受けたものもいたようだがすべった子もいた。
それはそうだ。ほんのちょい役でも熾烈な競争になる。
友達もその一人だった。
そんな日常が当たり前だった頃、ある些細なことが起きた。友達が一人レッスンにも参加していないという。辞めたのか?とも考えたが、関係者に聞いてもそんな話聞いてないという。じゃあ何があった?
連絡先を聞いてなかったのが悔やまれた。
3ヶ月レッスンには来ていない。
そろそろ何かあってもいい頃だ。そう思い、仲間とともに関係者に聞いてみた。すると内緒という事で教えてもらうことが出来た。
どうやら何か事件か事故に巻き込まれたらしい。今は病院にいるという。
ただ昏睡状態からは抜け出していない為話をすることはできないという。
一体何があったんだ?
不安しかない。
病院の名前は聞くことはできなかった。教えてもらえなかったのだ。個人情報の関係らしい。当たり前か。今のご時世、何かと物騒だからねぇ〜。
ただ待つしかなかったが、ある日皆で集まった時に退会したと説明を受けた。なんで?あんなにスターを夢見ていたのに…。
納得がいく訳なかった。
スタッフに詰め寄るも逃げられてしまう。
仲間達で色々と話し合った。
で、スタッフの後をつけて病院を探そうと考えたのだ。ただそれにはスタッフが病院に行くということが前提なので、どうやってその方向に持っていくかが課題だった。
だから一芝居打つということになった。稽古の成果が試される。ガチの一本勝負。心臓がドキドキした。
「今日、病院に行かれるんですか?じゃあ、お見舞いを持っていってもらえませんか?私達は病院知らないので…。」
「ああ、いいよ。それに行くのは今日で最後になるからね。お見舞いの品はそれかい?」
「あっ、はい。そうです。お願いします。」
そう言って荷物を渡した。
緊張で汗が出てきた。
仲間の1人が今、さっきのスタッフを見張っている。
何かあればすぐに知らせてもらえるよう手配済みだ。
マナーモードにしてあるので片手はポケットに突っ込んだままだ。
握りしめた携帯が震えるのを待っている。
壁掛け時計の針が気になって仕方がなかったが、レッスンもある為そちらに集中する。
その時が突然やってきた。
バイブの振動を手に感じたのだ。
揺れはすぐに切れた。
その間わずか3秒ほど。
体調が悪くなったと言ってその場から動いた。
仲間が尾行を始めている。
すぐに合流した。
どうやら電車に乗るようだ。
切符を買うようなのでさっと後ろに回り込み指の動きを確認した。どうやら近くの病院のようだ。
さっと離れ少し離れた場所で人数分の切符を買う。
慌てて追いかけるが、相手がゆっくりと歩いていたから見失う事はなかった。
電車に乗り込み様子を伺うも1つ目の駅で降りた。こちらも慌てて降りる。
今度は少し早歩きをしている。
10分ほど歩いた所に病院があった。
中に入っていくので後を追いかける。
広い病院内は結構な患者がいた。
だが目的がある為スタッフを探す。
いた!
慌てて小走りになるが、一定の距離はとったままだ。
エレベーターに乗るようだったので、さっと回り込んで後ろに立った。ドキドキしてる。今見つかるわけにはいかなかったから。
ただ帽子をかぶっている為相手には顔を見えないようにこちらも体だけは見るようにしていた。
8階で降りるようだ。
私たちも後から降りる。
そのまま後ろを見ることもなく目的の部屋に歩いて行っているようだ。
そして一番奥の部屋へ入っていく。
私達はサッと部屋の入り口に行くと、名前を確認した。どうやらあっているようだ。でもここ…一般病棟だよね。面会謝絶じゃないのになんで来させなかったんだ?
確かに部屋への入り口は二重になってた。
その時、風が吹いた気がした。そして、何かが目の前を通過する感触が…。
感じたのは私だけではなかったようで、皆一様に不安を隠さないでいる。
「な、なぁ、なんか感じなかったか?何かこう…誰かが通過するような。」「それそれ、僕も感じたよ。」「私も感じた!」「何なんだよ、一体?」
ここで騒いだら見つかる可能性もあると考え、一旦場所を離れることにした。場所がわかったからもうつける必要もないのだ。
でも気になる…。
何しにきたのかが。
近くまで行って様子を伺うと、話し声が聞こえてきていた。
「…なので…となります。仕方ないですよね。私たちも諦めてますから。」
「残念ですが……。ではこれで…。」
ヤバイヤバイ、こっちに来る!
みんなで走って隠れたよ。
こっそり覗くとちょうど歩いてくる所だった。
通り過ぎるのを待って皆で病室に向かった。
そこは個室になっており、どうやら母親らしき女性が1人椅子に腰掛けていた。
友達の顔をじっとみている。
そこにゾロゾロと皆で入っていった。
「こ、こんにちわ…。」
「あら、貴方方は?」
「同じレッスンを受けていた友達です。入院しているって聞いて心配だったのでご迷惑かと思いましたが伺いました。」
「あ、もしかしてさっき持って見えた方の荷物、貴方方が用意したものだったの?」
「は、はい。そうです。悪いかとは思ったのですが、後をつけてきました。」
「ごめんなさいね〜。この子、ずっと眠ったままで、起きないのよ。救急搬送された時には少し意識はあったのよ。でもね、今はちょっと…。何がどうなってこうなったのか私にはわからないのよ。ずっと変わらないから一般病棟で様子を見ることになったの。」
「そう、だったんですか…。役者になるのが夢だっていってたのに。起きてくれないのかな。」
「お医者様はわからないって。その時が来るのを待つしかないそうなの。だから事務所は退所させてもらったのよ。ごめんなさいね。せっかくいらしたのに話もできないなんて。」
「いえ、そんな…顔を見れただけでも。」
「貴方達はレッスン頑張ってね。この子の分まで。」
「はい…。じゃあ私達はこれで。」
「ありがとね〜。」
病院を後にした私達は皆黙ってゾロゾロと歩いていた。その時またあの感触が。
何かが通り過ぎる感じだ。
振り返ってもそこには何もない。
何だ?
正面を見た時遠くに知った顔があったような気がした。そう、あの友達だ。そんなバカなと思う。でも確かに友達の顔だった気がする。結構離れていたのによくわかったなと言いたい。
なぜかそう思ったのだ。
仲間と喋りながらふとまた前を向いた時、友達の顔が近づいた気がした。
また喋って振り返るとまた近づいている。
もうこれはおかしいとしか思えない。
徐々に近づく友達の顔を見るのが怖くなってきた。
友達は今もベットに寝ているはず。だからこんな場所にいるわけがない。じゃあ何?生き霊?まさか…ね。
たまたまだよと怖がりな子が言う。
そう思いたい。
思ったよ。
皆足早になっていくが、誰一人として口を開かなくなっていた。
怖いのだ。
誰だってそう思う。
ニタァ〜。
笑った顔を見た気がした。それも不気味な顔だ。
皆顔色が悪くなり、早歩きを始めていた。そんな気は全くなかったんだけどね。
その日はそれ以降何事もなく過ぎた。
そしてそれから一週間後。
遅くまでレッスンをしていたレッスン生が見た…。
真っ青な顔でレッスンをしているあの子を。そう、退所した元のレッスン生だ。
悲鳴をあげるとスーッと消えたそう。
同時刻に携帯の音楽が鳴った。
その電話は元のレッスン生が亡くなったと親からの電話だった。理由までは聞けなかった。
ただただ不気味だなと思った。
だってさ〜、亡くなった同時刻に見た子が居たんだよ。怖いじゃん。
それ以降、噂が噂を呼び、遅い時間でのレッスンはなくなった。きっと今も教室で一人レッスンを続けているのかもしれない。




