大事な話。
誤字、脱字報告に感謝致します。
「っつ!!そんな訳無いだろう!!」
勢いよくオリヴァーが立ち上がり、メルサに叫ぶ。
「家族全員だと?何をバカなことを!!皇国語は努力とかそういう次元で扱える言語ではない!!」
外交官になってからもオリヴァーは学ぶことを続け、様々な言語をマスターしてきた。バリトゥ語もその一つで、タスク皇子がわからない王国語はオリヴァーを通しバリトゥ語で会話を補填していた。
オリヴァーも当初は皇国語を話すべく、畏れ多くもタスク皇子に協力してもらい勉強を始めるも手も足も出なかったのだ。それが、何故スチュワート家には出来るのだ。
100歩譲ってメルサだけなら分かる。
学園で唯一自分の上にいた彼女ならば、あるいは可能なのかもしれない。
「スチュワート伯爵!あなたが、話せるわけないでしょう!?あんな、あんな、ギッリッギリの成績で、ギッリッギリでやっと卒業できたあなたが皇国語どころか、二か国語をマスターするなんて不可能だ!」
……酷い言われようである。
ゲオルグがこちらを見ているのを気配で感じてはいるが、レオナルドは目を合わせることを意図的に拒否する。
息子の前でなんて事を言ってくれるんだオリヴァー、少し配慮と言うものを覚えて欲しい。
「オリヴァー……言葉はね、成績じゃあないんだよ?」
ふぅ……とレオナルドはオリヴァーを見てため息をつく。
わかってないなぁ君は……とでもいうような仕草にオリヴァーの声がもうひとつ大きくなる。
「では!なんだと言うんだ!!!」
「愛だよ」
「…………………………………………………………………………………………は?」
「だから愛だよ愛。エマへの愛があれば、どんなことも不可能ではないんだよ?」
どや顔でオリヴァーに教える。
そもそも彼も、うちの娘を見たはずだ。あの超絶愛らしい天使を。
天使があれば、なんでもできる!1、2、3、ダー!ってなもんである。
ふふんと勝ち誇った様に笑い、うっかりゲオルグの方を見ると、実の父親に向かって物凄く残念なモノを見るような視線があった。
息子達もそれぞれ重度のシスコンの癖に酷い見られようである。
まぁ、仕方がない。それが思春期というやつだよとレオナルド独自の視点で勝手に納得する。
「ぐすっ。わかるよ!スチュワート伯爵!私もヤドヴィのためなら何でもできるからね!」
くしゃくしゃになったハンカチで更に乱暴に顔を拭いながら、国王陛下が賛同する。
………………国王、まだ泣いてたんだ……。
あっゲオルグ!国王にも同じ様な視線はやめなさい!不敬罪で捕まっちゃうから!!
「ま、まあ、百聞は一見にしかずですから……タスク皇子、少し皇国語でお話し致しましょうか?」
大人達のわちゃわちゃを黙って聞いていたタスク皇子に声をかける。
本人も色々と聞きたいこともあるだろうに、国王を立てて静かに座って発言の機会を待っている。
「はっはい。では……何を話せば……?」
挨拶程度では、どこまで言葉がわかるか判断し辛い。
よく英語の得意な芸能人が何か英語喋ってみなよと雑な司会者に言われて困っているのをテレビで見るが、ああいう心境かもしれないと勝手にタスク皇子の表情を読み取る。
しかしながら、レオナルドとタスク皇子が国王やオリヴァーに聞かれたくないであろう話をするのに皇国語は都合が良い。
早速、謝ろう。家の猫と蜘蛛だって家族なのだ。家長であるレオナルドが謝らなければ……。
『あー……申し訳ないけど、屋敷に侵入してきた忍者19人は、預からせて貰ってるよ』
レオナルドの言葉を受けて、ガタンっとタスク皇子が立ち上がる。
『おっと、外交官に混じってる忍者は動かない方がいい。国王や、オリヴァーに不審に思われるからね』
レオナルドの言葉と立ち上がった皇子に、未だ土下座中の忍者が反応する前に釘を刺しておく。
今まで殆んど表情を変えることのなかったタスク皇子の顔に緊迫感が生まれ、頬に汗が一筋ツーと流れる。
「タスク皇子?何かありましたか?」
涙を拭い終わった国王が急に立ち上がった皇子に声をかける。
「い、いえ、陛下。あまりにも完璧な皇国語に驚いてしまっただけです。失礼致しました」
コクンと、つばを飲み込みゆっくりとソファーに座り直す。
『で、何が目的でしょうか?』
わざわざ皇国語で伝えてきたのだ、このスチュワート伯爵は王国側には、皇国の人間兵器とも言える忍者の存在を隠してくれるつもりがあるのだろう。
交換条件によっては…………。
そもそも王城で全く気付かれなかった忍者が、訪問中のこの短時間で一人を除いて捕まるなど信じられなかった。
残った一人でさえ、把握済み……。
《忍者》が何かすら分かっているスチュワート伯爵の物言いに恐怖すら覚える。
皇国が他国に差し出せるものなど、魔石しかない。
バリトゥは島国であり、魔物の危険に晒されてないために円滑な国交が結べたが、王国はつい一年程前に局地的結界ハザードが起きたばかりと聞く。
魔石はいくらあっても困るものではない。
食糧難に陥った我が国を救って貰えるのなら、国王とごく一部の外交官にだけ魔石を譲っても良いと打ち明けたのは失策だったかもしれない。
忍者すら、歯が立たない場所があるなんて想像できなかった。
世界は広いのだ。
皇国は、皇国の魔石は王国と、このスチュワート家に蹂躙される運命にあるのだろう。私は失敗したのだ。
無意識に座っているソファーの布を握る。
「ひぃっ」
後ろのオリヴァーが小さく悲鳴をあげたが、絶望の中にいる皇子には聞こえない。
国王も悲鳴で、皇子の握られた手に気付き、息を飲むが何とかお小遣いで許してもらおうとスチュワート伯爵にアイコンタクトを送る。
にっこりと、国王とオリヴァーからすれば国宝級のエマシルクを握られた持ち主とは思えない笑顔でレオナルドは話を続ける。
『目的…………?ああ、それなら多分先に家の者が忍者に聞いているでしょう。期待通りにいけば良いのですが……』
ギリギリと更に布を握る手に力が入る。
忍者達が、魔石の鉱脈の場所なぞ吐くわけがない。どんなに拷問をされようが死んだとしても、いやその前に自ら命を絶っているはずだ。彼らは忍者なのだから。
皇国最強の忍者達がいとも簡単に…………。
レオナルド・スチュワート……なんて恐ろしい男なんだ。
…………ギリギリと更に更に力が入れられるエマシルクに国王とオリヴァーが、青くなっている時を同じくして、食事を終えた忍者達にエマが声をかける。
『はーい。では、皆さん。ちゅうもーく!これから重要な、とっても大事な話をします。きちんと答えて下さいね』
このエマの一言に一斉に忍者に緊張が走る。
皇国を裏切る事などできない。
たとえ、こんなに旨い食べ物を馳走になったとしても、爪を剥がされようとも、片目をくり抜かれようとも、目の前で仲間が生きたまま焼かれようとも、口を割ることはできない。それが忍者だ。
『エマ殿……我々が、皇国の機密を話すことなぞ…………』
ハットリが断る前に、エマが口を開く。
『お味噌、作れる人ーーーー?』
『『『『『『…………………………ん?』』』』』』
『だから、おー味ー噌ー。作れる人ー!!?』
『『『『『『…………………………ん?』』』』』』
スチュワート家が皇国に求める物。
味噌
醤油
漬物
豆腐
納豆
餡子
etc.etc.etc.etc.………………。
転生から一年半過ぎ、日本食に飢えていた。
『あっあと白米!!!小麦粉いっぱいあげるから、ちょっとで良いから、お米と交換してくれない?』
『姉様!!だったら明太子!明太子ありますかね?』
お米と聞いて、ごくりとウィリアムが喉を鳴らす。
『『『『『『…………………………ん?……んんんんんん?』』』』』』
予想外の質問をやっと忍者が理解した後、ぽつり、ぽつりと味噌、醤油の作れるものが手を挙げる。
材料は死に物狂いできっとヨシュアが集めてくれる。
我々に必要なのは、味噌や醤油を作れる人材。
味噌汁が出来るなら豆腐が欲しい!とか欲張ったために質問が多くなったが、忍者は王国の男と違い料理もこなせる様で、エマには嬉しい答えが沢山返ってきた。
そして、今日一番の天使のスマイルが更新されたのであった。
いつも読んで下さりありがとうございます。
『田中家、転生する。』の番外編として、『恋の話。』を短編で書いてみました。よろしければ覗いてみて下さい。
そして、畏れ多くもありがたいことに、『恋の話。』が日刊ランキングに入りました!
それに続いて、『田中家、転生する。』もランキング入りという、誰にお礼を言って良いかもわからない位の幸せな結果を頂きました。
嬉しいを飛び越え、心臓の動悸がおさまらない日々を過ごしています(小心者)
皆様、本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。