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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と皇国
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マーサのじい様。

すいません、ちょっと説明多くて読みにくいかもしれません。

ピローンッ!


皇国とは

王国から見て東に位置する国。

天皇家を建国の礎とし、神格化。

300年以上鎖国状態にあったが、昨年の天候不良により食糧難に。

王国に支援を求め、現在天皇家の第一皇子タスク・ヒノモトが入国している。

使用言語は皇国語。

皇国人以外は誰も理解できず外交の妨げとなっている。


すらすらとグー◯ル……ヨシュアが答えてくれる。最初のピローンは幻聴だ。


「なのに、どうしてエマ様は皇国語ができるのです?皇国との貿易はロートシルト商会をもってしても不可能でしたのに!」


もっと早く教えてくださいよとヨシュアが嘆く。

ロートシルト商会ですら無理なら王国も相当困っているのはわかる。わかるが……。


「どうして皆出来ないのか、こっちが知りたいんだけど……?」


皆もっと勉強しなよ……と、前世全く英語ができなかった航ことゲオルグが自分を棚に上げて言い放つ。


「皇国語に関してはもう、勉強不足とかではないんですよ。ロートシルト商会が総力を上げて調べた結果、皇国人には他の国の人間と違う言語器官があるのではないかと思われるのです。生まれたばかりの外国の子供を皇国で育てても皇国語を理解できず、逆にバリトゥで育った皇国人は勉強すれば皇国語が出来るようになったという事例がありました」


地味にエグい人体実験してるな……。皇国で育てられた方が可哀想すぎる。


「では、そのバリトゥ語と皇国語が話せる人がいれば何とかなるのでは?」


王国にもバリトゥ語の話せる者はいるはずだ。


「残念ながら、その実験が行われたのは80年も前の事らしくその人物がどこにいるのかもわからない状態です。しかし、そのお陰で皇国は鎖国中でもバリトゥだけは交流があり、挨拶程度の簡単なバリトゥ語を話せる皇国人もいるようですね」


80年前……確かに異世界と言えども近年は、人権だの何だの騒がれるご時世だ。人体実験は憚られるのだろう。


「でも、皇国人は外国語できるんでしょう?」


ヨシュアの話によれば皇国人が外国語を話すのには支障がないらしい。現にタスク皇子の王国語は知らない単語があるだけで、発音などは問題なく通じる。


「はい。そうなんですが、国民性と言いましょうか、元々鎖国している国というのもあり、外国語を勉強すると言う文化が未だに根付いていないようで……必要性もありませんでしたし。昨年の天候不良からの食糧難にやっと危機感を持ったために重い腰を上げたのが数ヶ月前。天才と噂のタスク皇子だからこそあそこまで話せていますが他の者はあと数年はかかるでしょう」


教師自体が皇国語のわかる者がいないのだ。身振り手振りで単語を覚えるしかない。タスク皇子が特別なだけだったのだ。


話し込んでいるうちにマーサがヨシュアのスイーツと紅茶を淹れて持ってきてくれる。

夏に実る果実を使ったタルトとアイスティーだ。


「マーサありがとう!」


礼を言って、早速タルトに舌鼓を打つ。

紅茶も氷がたくさん入って暑い夏にはぴったりだ。


「驚かないですね?」


おやつを美味しく頂く三兄弟にヨシュアとマーサが不思議そうに見ている。

フルーツタルトとアイスティーのどこに驚く要素があるのだろう。


「……あっ!そう言えば、紅茶を氷で冷たくして飲むの(この世界では)初めてかも」


前世で当たり前のようにあった冷蔵庫なんてここにはない。

パレスでは氷は、冬の内に切り出して保管して大事に使っていた。飲み物を冷やすために使うなんて贅沢なことはしたことがない。


「運良く良質な魔石を手に入れる事が出来まして」


ヨシュアがマーサから小さな箱を受け取る。

スイーツの入っていた箱に一緒に入れられていたらしい。

蓋を開けると同時にびゅっーと部屋に冷気が立ち込める。


「この石は、魔法使いの魔法を貯めることができる魔石なんです。王国でも鉱脈が一ヶ所しかない上に取りつくされてしまったのでとても貴重なものです。これは氷魔法を貯めてあるので、これを使ってマーサに氷をつくってもらいました」


わずかに青みを帯びた魔石はどんどん部屋の温度を下げていく。あの短時間で氷ができるのも頷けるほど寒い。

ヨシュアが箱の蓋を閉じると嘘みたいに冷気が収まる。


「え?何それ凄い!魔法みたい!」


「魔法ですからね」


エマが無邪気に喜ぶのをヨシュアが満足そうに頷く。

貧乏が染み付いた三兄弟は、見たことも聞いたこともなかったが、魔石なんてものがこの世界にはあるらしい。ファンタジーだ。


「殆んどの魔石は、結界維持に使われるので、こういった物は珍しいんですよ。王都の昔からある店は、持っているところもあるようです。ロバート様のスライムのゼリーも冷え冷えで美味しかったってエマ様言ってたじゃないですか?」


そう言えば、ゼリーを作るには冷やして固めなくてならない。何も考えずに美味しく頂いたが、あれは、魔法で冷やしたゼリーだったんだ。美味しかったなースライムゼリー……。


「あの美味しそうなエマ様の顔が見たくて、必死に探したんですよこれ。少し、お金はかかりましたけどね」


ぽやぽやと、ゼリーに思いを馳せるエマにヨシュアの呟きは聞こえなかった。


「この魔石、そんなに貴重なものなんですね?似たようなのうちのじい様が持ってて、ほんのり温かい薄いオレンジ色の石だったんですけど、冬場よく『カイロ』だと『腹巻き』に入れてました」


マーサが魔石の入っていた小箱を見ながら呟く。


「ん?マーサ?今、なんて?」


ヨシュアがマーサを訝しげな表情で見る。


「あ、ごめんなさいっ!ヨシュア様の魔石とじい様の『カイロ』が同じなわけないですよね?」


ヨシュアのお金が少しかかるは、大金のはずだ。失礼なことを言ったとマーサが慌てて謝る。


「いえ、そうではなく、かいの?って単語とはららき?でしたっけ?聞きづらくて……」


「え?あの……『カイロ』と『腹巻き』ですよ?」


「かいろ?はいきき?」


「ヨシュア?耳、調子悪すぎじゃない?『カイロ』と『腹巻き』だよ?」


ウィリアムがマーサの言葉を引き継ぐ。


「かろいとはりきり?」


「…………?」


「…………?」


「…………ヨシュア、一回お医者様に診てもらう?」


ヨシュアはどうしてもカイロと腹巻きが聞き取れない。疲れているのかもしれない。心配になってくる。

他の会話はできてるのに、なんでカイロと腹巻きだけ……?……!


「あれ?『カイロ』と『腹巻き』ってにほ……皇国語だっけ?」


よくよく考えると、この世界では2つとも使ったことがない。

なんでマーサが知ってるんだ?

……ん?


「そういえば、マーサ私が松茸食べて倒れたときに言った言葉、何を言ってたかは分からなかったみたいだけど聞き取れてはいたよね?」


記憶を遡ること一年半ちょっと。確かにマーサは、あの時。



『あぁ……せめて一口ビール飲みたかった!』


と呟いた私に向かって、


「そうです皆様一様にそう仰っておりました!なんの呪文ですの?」


と、答えていた。どういうことだ?

単語ではなく、あれは短いとはいえ、文章だ。ヨシュアを見る限りでは数日前に聞いた言葉と同じ言葉だと認識するのは無理なはず。



「……?なんですか……?」


三兄弟とヨシュアの注目を浴び、マーサが首を傾げる。

普通に皇国語が出来るようになりそうな王国人が目の前にいる。

何これ?国王陛下や、外交官、おばあ様、あとヨシュアに盛大なドッキリを仕掛けられているのだろうか?


「少し、話を整理しましょう。マーサのじい様……ですが、カイニョと呼ばれる魔石を持っていたんですよね?」


ヨシュアがこめかみを、マッサージしながら考え始める。


「はっはい。ヨシュア様の魔石とは違って水を凍らせることは出来ないのですが、冬でもほんのり温かい石だったんですけど……」


まさしくカイロだけども、珍しい魔石にそんなお腹暖めるだけの魔法貯めるってどうなんだ?


「……実は、皇国なんですが、魔石の取れる鉱山の宝庫ではないかと商会から報告が上がって来ているんです。王国は、いつ魔法使いが現れても良いように常に魔石を集めています。しかし、近年王国の鉱脈は取りつくされ枯渇状態。一度魔法を貯めた魔石は再利用できません。このままでは魔法使いが現れても結界魔法を魔石に貯めることが出来なくなります」


魔石に貯められなければ、結界は魔法使いの死と共に消えてしまうのだとヨシュアが話を締めくくる。


国王陛下が思わずエマを掴むほどの驚きが、やっと繋がった。

皇国との外交で王国が欲しいのは魔石。貴重な魔石はどの国も手放さない。鉱脈が枯れた王国は、どうしても魔石が欲しいのだ。


「そっそんな貴重な魔石……なんでうちのじい様なんかが持っているんですか?」


事態を把握するにつれ、マーサが混乱し始める。


「マーサが皇国語を聞き取れるってことは、マーサにも皇国人の血が流れているのかも……マーサのじい様が皇国人の可能性が高い。何か他にその、じい様が教えてくれた事ってないの?皇国にまつわることとか?」


ヨシュアがマーサを椅子に座らせ、落ち着かせてから質問する。

暫く、手の甲を唇に当てて考えていたマーサがはっと顔をあげる。


「昔、失くし物した時にじい様が教えてくれた呪い(まじない)があります!失くしたくない物には描けっておまじないの、記号を教えて貰いました!」


おまじない……なんかあったっけ?

皇国の知識なんてないので判別できるのかわからない。頭の中で井◯陽水が歌い出したがこれは日本人だから仕方ないし、踊ってる場合でもない。


ドレスや刺繍のデザインのために紙とペンはいつだってエマの部屋に常備している。マーサの前に置いて尋ねる。


「マーサ、そのおまじないの記号覚えてる?かける?」


「小さい頃は、持ち物全てに描いていましたので」


そう言うと、マーサはゆっくりとペンを握り丁寧に記号を描いていく。



そこには、小野真麻と書かれていた。


パレスからも使用人が数人、スチュワート家と共に来ています。マーサもその一人で、エマを叱れる貴重な存在としてメルサが頼み込んで来て貰いました。

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― 新着の感想 ―
80年前……太平洋戦争でバリトゥ周辺に日本語話者が量産された時期ですね。ゆるーく田中家の時間軸とリンクしているのがおもしろい。 田中家世界では鎖国は400年以上だけど、鎖国開始時期が100年ずれている…
『虫の音』を言語脳で『虫の声』として受け止めるのは、世界でも日本人とポリネシア人だけに見られるらしいですね。これと一緒かな?ただ日本人の子供でも外国で生れて母国語が違うと雑音に感じるみたいで、早すぎる…
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