OK ヨシュア。
誤字、脱字報告に感謝致します。
「どうだった?」
応接間の様子を見に行ったウィリアムがエマの部屋に首をひねりながら帰って来た。
この屋敷を建てた人間の経歴なんて聞いたこともないが、応接間にはこっそりと中の様子を窺うことの出来る覗き部屋なんかも併設されている。
「なんか……お父様とお母様に陛下と一緒に来た人……外交官らしいんだけど、全員土下座してた」
「「どういう状況よ!?」」
何がどうなったらそんな事態に陥るのか。
エマとゲオルグもウィリアム同様に首をひねる。
「王国としては、どうしても皇国との外交を成功させたいみたいだね。皇国側は食糧不足だから支援要請で外交にも前向きだけど言葉の壁は厚いみたい」
朝起きて寝衣から普段着に着替えていたエマだが、万が一に備え再び寝衣に着替えた。自室のベッドに座ってウィリアムの偵察の報告を吟味する。
「今まで皇国なんて重要視してなかったのに……何かあるのかしら?」
地図にある皇国は、王国の1/10程の広さもなく小さな国だった。他の国同様に魔物の出現範囲が極力狭くなるように、海に面した半島にある。
ずっと鎖国状態で、国交は過去300年遡っても見つからない。
「うちの図書室の本だけじゃ情報が足りない……」
ゲオルグに屋敷の図書室から外国に関する本や地図を持ってきてもらい、片っ端から読みあさっているが思うように進まない。
本から"皇国"の文字を探すのにも時間を取られ、欲しい情報を見つけるのも大変なのだ。スマホがあれば……と思わずにいられない。
「この世界に不満はそんなに感じてなかったけど……スマホ欲しい!」
「グー◯ル先生に検索お願いしたい」
「調べられたら絶対にウィ◯ペディアとかに載って…………?そう言えば、異世界転生なんだからあれは?ステータスのパネルとか出ないの?」
「「!!」」
転生ものあるある、ステータス。
言われてみれば試したことがない。ウィリアムの言葉にエマとゲオルグが顔を見合わせてから、何故今の今まで存在を忘れていたのかと驚く。
「え?ステータス開けたら、魔法も前世のプレイ中にゲットしたアイテムも使えたりする?」
これまで魔法は使えるのか試したことはあるが、ステータスの事は失念していた。呪文的なの叫ぶんじゃなくて、ステータスのパネルで選択するRPG方式だった可能性が浮上する。
もしかしたら、今更ながら転生チート、始まっちゃうかもしれない。
「いやいや、僕らこんな乙女ゲーとかしてないじゃないですか!?」
ウィリアムが冷静になる。
転生に気づいた時に、そこは確認済みなのだった。
「諦めるのは早いよ!武田信玄オトすスマホゲームはやったことあるからね」
西洋的な乙女ゲームは未プレイだが、和テイストの皇国の存在がある今、あのスマホゲーム"戦国乙女ヒストリー ~武将の恋は波乱万丈~"の世界に転生したものの、何かのミスで違う国に転生したという一捻り入れたパターンだったのかもしれない。
武田信玄以外の攻略武将が何故か20歳くらいの若者ばっかりで全くやり込んで無いことが今となっては悔やまれる。
でももし、そうなら最強アイテム"風林火山の旗"で武田軍を召喚できちゃうかもしれない。
……。
……?
あっても使い道ないな……。
いや、"機能充実広めの厠 甲州山"があれば何時、如何なる時でも快適なトイレが……使えて……どうする?
あのスマホゲームだったとしても……大丈夫かな?アイテムとかもいらないかな……。
「まあ、物は試しだし?一回やっとく?」
三兄弟の中で一番ゲーマーのゲオルグがそわそわしながら提案する。
中身は、全員30過ぎた良い大人なのでちょっと恥ずかしい気もするが、異世界漫画も小説もステータスの話が出れば大概使える仕様だった。試さない手はない。
三人で目配せして、意を結して叫ぶ。
「「「ステータス、オープン!!」」」
……。
……。
……。
…………。
うん、わかってた。
そんな都合の良いことなんて、ないって。
三人ともほんのり顔を赤くして視線を逸らす。恥ずかしい。30過ぎて本当になにやってんだ……?
「……何をやっているのですか?」
心の声がそのまま、耳に入って来た。ステータスは開かなかったが、エマの部屋の扉が開き、エマ付きメイドのマーサが冷えきった目でこちらを見ている。
「まっマーサ!!いきなり部屋に入って来ないで!」
思わず、思春期の女子の様な台詞が出る。
あれ?でも今は、思春期の女子だから間違ってないか?
三人だけでも恥ずかしいのにマーサにまで見られていたなんて酷い話だ。
「ノックはしましたよ?国王陛下がいらしているのですから遊ぶにしてもお静かにお願いしますね?」
気合い入れて叫んだために部屋の外にまで聞こえていたらしい。
恥ず……。
と、マーサの後ろからヨシュアがひょっこり現れる。
「エマ様!昨夜、晩餐会で倒れたと聞いて心配していましたが、お元気そうで何よりです!」
お見舞いに大きな花束を抱えたヨシュアがにっこりと笑う。
さっきの叫びは聞かなかったことにしてくれている。空気を読めてこその商人……ありがたい。
「以前、エマ様がカフェのメニューに、季節限定のスイーツがあったら嬉しいって言ってたので試作品を持ってきましたよ」
花束の影に隠れて見えなかったが、スイーツの入った箱も一緒に持っていたヨシュアはマーサに預ける。
「この箱の中に茶葉と淹れ方のメモが入っているので、スイーツと一緒にお願いします」
早々に、マーサの冷たい目から解放され、三兄弟はヨシュアに感謝する。
パレスにある実家の部屋の3倍は広くなったエマの部屋は、おやつを食べるための机と椅子も完備されている。今は本でいっぱいの机の上を片付けておく。
「すごい量の本ですね?何か調べものですか?」
一緒に本を片付けながらヨシュアが尋ねる。
そこでゲオルグとウィリアムは、気付く。
この世界、スマホもグー◯ルもないが、ヨシュアがいたことを。
商人ゆえに、国中を回り、色々な情報を持っているヨシュア。
「ん?どうしました?見つめないで下さいよ?あっエマ様はむしろずっと見つめてて下さい!」
片付けを終え、ヨシュアが二人に迷惑そうな視線を送った後でちゃっかりエマの隣の席に座る。
ヨシュアの事なのできっと豊富な人脈を使って、昨夜の晩餐会で起きたことは把握済みだろう。それでも朝一番で来なかったのは、更に詳しく情報を集めるため。エマのためならなんだってするのがヨシュアだ。
下手をすると、便利さではグー◯ルを超えるかもしれない。
思わず、ゲオルグとウィリアムの口が動く。
「「OK、ヨシュア。皇国について教えて?」」
どうでも良すぎる設定。
田中家は全員auぽい。
多分一志と頼子はガラケー。
航はGALAXY。
港はXPERIA。
ぺぇ太は年代物iPhone(画面バッキバキ)