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田中家、転生する。  作者: 猪口
王都 三兄弟学園に行く。
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当初の目的。

誤字脱字報告に感謝致します。

鍋の中でオートミールが柔らかくなるまで水で煮てから、ミルクを追加し、余っていた塩で味を整える。


料理と呼べる程のものではないが、前世で言うミルク粥のイメージで作ってみた。

子供達が増えたのでその分、水を嵩まししたので少々シャバシャバの粥になったが、塩のおかげで味は悪くない。


「よし、完成」


エマが振り向くと知らぬ間に、子供達がそれぞれカップを持って一列に並んでいる。


「あっこら!お前らっ、このオートミールは兄貴のためのだぞ?炊き出しじゃないんだから」


少年が子供達に注意するが、頑として動かない。みんなお腹が空いているんだ。


「いっぱいあるから大丈夫だよ」


一番前の子供のカップを受け取り、ミルク粥モドキをよそってやる。


「熱いから気を付けてね」


コクコクと頷いた子供達がフーフーしながらミルク粥モドキを食べている間に、匂いにつられたのか、怪我をした男が目を覚ました。


「……あれ?だれ?」


見慣れぬ三兄弟を見つけて首を捻る。


「あっ兄貴ー!」


「ヒュー?なにやってってっ!」


少年が男に抱きつく。


「バカ兄貴!!心配したんだからな!」


ぽかぽかと言う効果音が聞こえてきそうな仕草で男の胸を叩いている。

肝心の男の方は何があったのかよく分からない様で、さして痛くもない攻撃を受けながら少年を宥めている。


「ヒュー、ちょっと落ち着いて、何か知らんが悪かったな?」


「兄貴、死んじゃうかもって!ばかーばかー」


よっぽど不安だったのか男の上に乗ったまま泣き出してしまう。

そう言えば、昨日馬車を止めようと近づきすぎて怪我をしたのだったと思い出す。

不思議と痛みがない。怪我をした足は紫色の何かに被われている。


よしよしと少年の頭を撫でている男にゲオルグがミルク粥モドキを差し出す。


「ご飯、食べられそうですか?」


ごくり……と男の喉がなるが、受け取ろうとしない。


「これは、どこから手に入れた?ヒュー?お前?また、スリなんてしてないだろうな?」


「しっしてないよ!これは、あいつらが金を出してくれたんだ!」


当たらずとも遠からずな男の言葉に少年がびくっと体を震わせるので余計に疑われている。


「冷める前に食べちゃって下さい。考えるのは後でもできますよ」


ゲオルグの言葉に、男は一週間ぶりの食事を断ることができる訳もなくミルク粥モドキを受け取る。


「うまっ!」


一口食べてからは、夢中でミルク粥モドキを口に運ぶ。


「ゆっくりよく噛んで食べて下さい。体がびっくりしちゃいますよ」


子供達におかわりをよそいながらエマが男に声をかけるが聞こえて無さそうだ。

大量に作ったミルク粥モドキが空になる頃、やっと今日の出来事をウィリアムが説明する。


「つまり、ヒュー、お前やっぱりスリしてたんじゃないか」


ゴチンと少年にげんこつをして男が三兄弟に向き直る。


「悪かったな、こいつは俺の弟分なんだが、俺に会うまではスリで生計を立ててたらしく、一度痛い目にあってるのに困るとすぐに手癖が悪くなる」


スラム街に住んでいる男の言葉とは思えない謝罪に三兄弟も笑って気にすることはないと返す。


「それに、怪我の手当てに飯まで用意して貰ってなんと礼を言っていいか……正直、助かったよ。俺は、ハロルドと言う。成り行きでこの辺の子供たちの面倒をみてやってる」


「いえ、たまたま僕らで対処できることだったので、俺はゲオルグ、あっちが弟のエマとウィリアムです」


エマも男の子の格好でいるので、弟ということにする。


「あ、俺はヒューイ。ヒューって呼んでくれ」


げんこつを貰った少年が自分の頭を擦りながらにかっと笑う。

ハロルドが目覚めてやっと笑顔が戻ったようだ。


「それにしても、小さい子供が多いように感じるんですが……」


今日1日、何度かスラムと臣民街を行き来したゲオルグは、不思議に思っていた。ざっと見ても自分やエマよりも小さな子供ばかりで、スラムに入ると大人が見当たらない。唯一いたのが、目の前の痩せた男なのだ。


「最近は、働き口に困ることはないからな。大人になれば、スラム出でも雇ってくれる所が増えたから働ける年になれば、みんなスラム卒業できるんだ」


ここ一年は、クーデターで壊れた建物の解体や修理で力仕事は引く手あまたなのだと、何故か少し誇らしそうにハロルドが説明するが、働ける年なのに働いてないこの男は一体……。


「まあ、昨日は運が悪かったんだ。俺も間抜けに怪我までしてこいつらに心配かけちまった」


少年だけでなく、集まった子供達の頭を乱暴に撫でながら男はしきりに反省する。お腹が満たされ、男の怪我も大丈夫だと安心したのか子供達に睡魔が訪れる。


「お前らも今日はここに泊まっていけ、この時間に外をうろついてもろくなことがないからな」


そのまま、ぽつぽつと男と会話していたが、三兄弟もいつの間にか眠ってしまっていた。柔らかいベッドや温かい布団がなくても、すんなり眠れてしまう三兄弟の神経は図太い。





翌朝、一番に目を覚ましたのはエマだった。

たまたま、穴の空いた天井から朝日が差し込む位置に顔があり、眩しくて起こされたのだ。


「むにゃ……マーサ……眩し……ん?」


いつもの柔らかいベッドの感触じゃないことに違和感を覚え、目を開ける。

隣にゲオルグとウィリアムも並んで雑魚寝している姿を見て、前日のことを思い出す。


「……はれ?」


男の姿が見当たらない。

大きな怪我では無かったにしろ、動き回れるようになるまでもう少しかかるはずなのに。

何処に行ったのかと、エマは軽く伸びをして強ばった体を動かし、立ち上がる。


「いてっ!」


「あっごめん」


そこら中で、子供達が寝ているので一人踏んづけてしまう。


「何やってんの?」


踏んづけられた少年が目を擦りながらエマを見る。


「ハロルドさんがいないなって思って」


「兄貴?あー多分隣で描いてるんじゃねーの?」


「かく?何を?って、ねえ?」


すぅっと吸い込まれるように少年がまた眠ってしまったのでエマは、仕方なく自分で確認しようと部屋を出る。

隣の部屋の入り口からは、さっきまでいた部屋の何倍も光が洩れている。

眩しさに目を細めて部屋を覗く。


「わっ」


隣の部屋は正面の壁が全て崩れ落ちていた。眩しいはずである。

目の前に青空が広がっていた。


「ありゃ?起こしちまったか?」


ハロルドがエマに気付き、振り返る。


「え?なにこれ?すごい!」


ハロルドの後ろの壁一面に鮮やかな色彩で絵が描かれていた。

まるで、植物園にでも迷い込んだのかと錯覚するほどのリアルで繊細なタッチは素人とは到底思えない出来栄えであった。


「ふっふっふっ上手いもんだろう?」


男は自慢気にキャンパスとして使っている壁をエマに見せる。


「はい。本物みたいです!遠近法もズレなく描けてるし、影の付け方にも違和感ないし……何より色が素晴らしいです。こんな鮮やかな色彩、どんな絵の具を使っても出すのは難しいでしょう?」


「ん??あ、ああ」


男がぽかんとエマを見る。

想定外に専門的な褒められ方をして驚いている。

ヒューからは別のスラムに住む子供だと聞いていたが、昨晩の会話内容を思い出す限りきちんと教育を受けて、自分で考える力のある大人のようにも感じる。


「お前、なにもんだ?」


ハロルドは訝しげにエマを見つめる。

ふふふと満足そうにエマもまた、男を見つめ返す。


思っていた通りであった。

ヒュー少年が、兄貴と呼んでいたがその実、ハロルドと少年の年の差は兄弟よりも、親子よりも離れて見える。


頭に蜘蛛を乗せた状態のエマだけが密かに気付いていた。

もしかしたら、蜘蛛がいなくてもその身に備わった能力ででも気付いたかもしれない。


ガリガリに痩せてはいるが、知的なオレンジ色の瞳、ボサボサではあるが瞳よりも少し濃いオレンジの髪色。立ち上がった姿で身長も高いことがわかる。


なかなかのイケオジなのであった。


国王がワイルド系ガチムチイケオジなら、目の前の男は、インテリサブカル系イケオジだろうか。萎びた感じもこれはこれで良い。


「ねえ、描いてるとこ見せて」


色彩豊かな絵は、ヨシュアの店の前にぶちまけられた赤いインクと同じ種類のインクで描かれていて、知らず知らずのうちに目的に辿り着いていたことになるのだが、そんな事よりも目の前のイケオジが真剣に絵を描く姿が見たいとエマは切望するのであった。






枯れセンサーは正常に作動しております。

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