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田中家、転生する。  作者: 猪口
王都 三兄弟学園に行く。
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臣民街。

誤字、脱字報告に感謝致します。

臣民街といっても場所によって治安は天と地の差がある。

貴族街に近い場所には富裕層が家を建て、貴族と変わらない生活をしているが、王城から距離が離れる程に治安は悪くなり、一部、スラム化している所すらあるのが現状だ。


三兄弟は現在、その丁度、中間地点辺りを散策している。


「なんか……この辺……落ち着くよな」


んーっとゲオルグが大きく伸びをしながら歩く。

学園に居るときは何かと(主にエマのせいで)注目されがちだった三兄弟だが、臣民街では誰も気にしている様子がない。


王都という都会で、王族、貴族との交流、豪華すぎる屋敷、慣れない生活が続いた為に、この庶民感が居心地がいい。


貴族の子供が庶民に変装しても、なんとなくバレそうなものだが、三兄弟はあり得ないくらい自然に溶け込んでいる。

そもそも前世なんて、過疎化突き進むド田舎のド庶民だったのだから無理もない。


庶民の三兄弟が庶民の格好をした、それだけの話なのである。

夜会のドレスや礼服なんかよりもしっくりと着こなせているのは、喜んで良いのか迷うとこではある。


「美味しそうな匂いがする」


エマがくんくんとにおいを嗅ぐ。雑然としている道端には食べ物の店が立ち並び、大きな肉の塊が回転しながら炙られていたり、道に突き出して作られた釜では、パンの焼ける良いにおいもする。


「……確かに」


いつもならおやつを食べている時間だ。

貴族街から大分歩いたので、そろそろどこかの店で休もうかと思ったゲオルグに、ドンっと後ろから軽い衝撃が来る。


「ん?」


「ごっごめんなさいっ!」


ウィリアムよりも小さな少年がよそ見でもしながら歩いていたのか、ゲオルグにぶつかってきた。

ぺこっと頭を下げて、慌てて走り去っていく。


「大丈夫ー気にすんなー」


ゲオルグが軽く手を上げて応える間に少年は角を曲がって見えなくなった。


「あんなに急いでおつかいですかね?」


ウィリアムが走り去った方向を見て首を傾げる。

エマも同じ方向を見ながら、少し驚いた顔で何やら考えている。


「うーん……漫画、ゲーム、小説だと……このパターンは財布スラれるやつじゃない?」


ゲオルグもウィリアムも何も違和感などないみたいだが、気になって財布ある?と少しズレかけていた帽子に手を当てつつ確認してもらう。


「ありますよ?」


ウィリアムがごそごそとシャツの中を探る。

三兄弟の財布持ちはウィリアムで、見えないようにシャツの下に入れた財布をしっかり首から提げている。

何故かゲオルグとウィリアムはエマに財布を持たせたくないようで、大丈夫と言っても信用してくれない。


「あっ……無いっ……!!」


財布を持っていないゲオルグが青い顔でポケットを探る。


「え?さっきの子?ホントにスリ?え?」


「……財布は僕が持ってますし……何がないんですか?兄様……」


そもそも普段から財布には大した額は入れてないので、スラれたとしても、ここまで青くならないはずだ。

ガックリと肩を落として、力なくゲオルグが答える。


「……魔物……かるた……」


「「うわー……」」


ゲオルグの言葉にエマもウィリアムもショックを隠せない。

魔物かるたは三兄弟の手作りなので、当たり前だがふたつとない一点物だ。

この一年間、一枚一枚エマが魔物の絵を描き、色を塗り、ウィリアムが説明の文を書いた、手間と時間を存分に注いだ大事なかるただ。


完成した分は、ちょっとした空き時間に覚えられるようにゲオルグが肌身離さずいつも持っている。


「盗むなら財布にすればいいのに……」


魔物学初級のテストに暗雲が立ち込める。

ゲオルグは上級まで合格しなければ爵位を継ぐことは出来ない。

終わった……魔物学終わった……とぶつぶつ言いながらゲオルグが座り込む。

多分、盗んだ少年も財布では無いことに今頃がっかりしているだろう。

そこへエマが諦めるのはまだ早い……と肩をポンポンと叩く。


「まだ間に合いますよ!追いかけましょう」


そう言うが、少年は見えない所まで走り去ってしまっている。ゲオルグが諦めた顔でエマを見ると自信たっぷりの笑顔をこちらに向けている。

エマは、長い髪を隠す為の大きな帽子を少しだけ上げてゲオルグに見せる。


「「あっ」」


ゲオルグだけでなく、ウィリアムも声をあげる。


エマの帽子の中には、でかくて、紫色の蜘蛛がいた。

ヴァイオレットである。

その蜘蛛だけがスリに気付いて、ゲオルグがぶつかられた瞬間に透明な糸を吐き、少年に巻き付けていた。

急に帽子の中の蜘蛛が動いたので、エマが慌てて上を見るとチカチカと光に反射した蜘蛛の糸が、走り去る少年へと続いている。


ヴァイオレットが意味もなくこんなことをする筈がない。


当人の少年にも、目の前で起きたゲオルグにも気付かせずに糸は巻き付いたままで多分、今も繋がっている。


よく見なければ……よくよく見なければわからない透明な糸を辿って行くだけで少年を見つけることができそうだ。


「エマナイス!ヴァイオレットありがとう!よしっ追いかけるぞ!」


蜘蛛のアシストに希望を得て、ゲオルグが透明な糸を慎重に掴む。


「兄様、多分この糸、丈夫だからおもいっきり引っ張ったらさっきの子、釣れるかもよ?」


エマも頭の上から伸びる糸を触りながら、少し乱暴だが手っ取り早い方法を提案する。


「いやいや、危ないだろ?あの少年が怪我したら可哀想じゃないか!」


どこに居るのか判らないままに急に引っ張られたら、危ないのは確かだが、スラれた相手の心配までするゲオルグは優しい。


「まあ……インクも見つからない事だし、先に魔物かるたを探しましょう」


手頃な店を見つけては、インクを探したがまだ赤色は見つかっていない。

見つからないインクより、見つけられる魔物かるたが先決……と三兄弟は見えづらい糸を慎重に辿って少年を追いかけることにした。


少年が見えなくなった角を曲がり、薬屋を抜け、細い細い路地を進む。

段々と建物が隙間なくみっちりと並ぶようになり、上へ上へと無計画に増築したアンバランスなものが増えていく。


地震大国日本で生まれ、地震によって命を奪われた田中家の記憶を持つスチュワート三兄弟には、危険極まりない場所としか思えないが、そんな場所でも人の生活する気配がいたるところから感じられる。


「ここ……危なすぎだよね?地震もそうだけど、火事になってもこの細い道だと直ぐ隣に燃え移るし、消火するのも一苦労だよ」


ウィリアムが恐る恐る上を見上げる。

パレスは土地が広く、人口が少ないのでここまで密集している場所はなかった。王都に来てからも行動範囲が貴族街、商店街、学園、王城と贅沢に作られた場所中心だった為に災害の危険を感じることもなかった。

しかし、ここはどこを見ても崩れそうな高い建物がぎゅうぎゅうに詰まっていて、道幅も狭いので心配になってくる。


三兄弟は気付いていないが、そこは既に臣民街の中でも端の位置にあるスラム街で、王都で一番治安が悪い場所だった。

糸を辿る内に知らず知らず、踏み入れてしまっていたのだ。


地震や火事の心配よりも、自分たちの身の安全が脅かされていることに三兄弟は気付いていない。


肝心の糸はそこから更にそのスラム街の中心へと続いており、建物はより高く密集して、まだまだ日の光の当たる時間帯だというのに薄暗い場所へと三兄弟を連れていくことになるのだった。


























また、キャラが増えそうな予感しかない。

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