突然の帰郷。
猫達と再会し、数日が過ぎた早朝のこと。
スチュワート家の屋敷に一台の馬車が停まった。
命からがら這う這うの体で馬車から降りたのは父の弟、王都にいるはずのアーバンであった。
根っからの学者肌で、一族きっての知識人。
スチュワート家特有の金髪と紫の瞳にも隠しきれない疲れが滲んでいる。
朝一で作業していた庭師のイモコに指示され、弟子のジャックが急いでレオナルドを起こしに走った。
ジャックはつい一月前に新しく雇われたばかりで貴族の屋敷に似つかわしくない大声でレオナルドを呼んだ為に家族全員が目を覚まし、アーバンを迎えることとなった。
「アーバン叔父様っ!」
ジャックの声で起こされ、寝衣のまま部屋を出たエマは丁度表の玄関に着いた叔父を見て駆けつける。遅れてゲオルグ、ウィリアムも眠い目を擦りながら、部屋から出て叔父の姿に驚く。
アーバンは父とは違う甘いマスクを、エマを見た途端さらに甘くしてエマを抱き上げる。
「ただいま僕の可愛いスウィーティー。暫く見ないうちに女神を超える美しさだね。ゲオルグもウィリアムも元気そうだね」
スチュワート家の男は基本エマに甘いが、叔父のアーバンは特別に激烈に甘々である。
エマと話す度に口から砂糖が溢れ落ちるのではと心配になるほどで、長旅の疲れよりエマを抱き上げることを優先する子煩悩ならぬ姪煩悩、いや姪狂いであった。
父レオナルドも、急いで寝衣の上にガウンを羽織り部屋から出て来た。突然の弟の帰郷に驚いている。
何せ王都からパレス領まで馬車で丸々15日間、往復となると一ヶ月もかかってしまう。そう易々と来られる距離ではない。
「お久しぶりです。レオナルド兄さん。詳しい話は後でしますが……ところで……猫?でかすぎません?」
エマは言うまでもなくあれからコーメイと毎晩一緒に寝ている。
他の猫もそれぞれの部屋に一匹ずつ。
ジャックが大声を出したので、警戒した猫達も部屋から出て来ていた。
「叔父様!紹介しますわっ三毛猫の諸葛孔明、通称コーメイさん」
「にゃーん」
エマに紹介された猫が挨拶する。
「あとコーメイさんの娘の劉備、リューちゃんとリューちゃんの息子の黒猫の関羽と白猫の張飛。……かんちゃんチョーちゃんです」
「「「にゃーん」」」
さらに紹介された猫が挨拶する。
「よろしく……ってあれ?猫って挨拶とかするんだっけ?」
まあエマが嬉しそうだからいいかと思い直すアーバンにもスチュワートの血が確実に流れている。あまり深く考えない。知識人が聞いてあきれる話である。
取り敢えず……としっかりと着替えて出て来た母メルサの一言により、長旅で埃っぽいアーバンは湯浴みを、エマ達は身繕いをして、いつもより早めの朝食をとり、食堂からリビングに移動し食後のお茶を飲みながらアーバンの話を聞くことになった。
やっと全猫の名前出せた。
大体予測通りの名前ですが。