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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と帝国の暗躍
172/198

行きも怖いし帰りも?

誤字脱字報告に感謝致します。

行きの行程を思えば、帰りは驚くほどにあっさりと何事もなく戻ってきていた。

足早に来た道を引き返し、森の奥の朧げな獣道のようだった道が、しっかりと舗装されたものへと変わり、見覚えのある景色が広がる。


「帰り道も魔物に遭わなくてほっとしましたわ」


舗装された道を見たフランチェスカがキャンプ地までもう少しと気付いて、緊張していた表情を少し緩ませて笑みを見せる。


「え? ああ……まあ、そうですね」


だって、この森にいた魔物は粗方暴走した陛下が倒しちゃったからと、ウィリアムは曖昧な返事をして、苦笑する。

暴走ネズミに噛まれた魔物は、噛まれた者同士で群れを作る習性があり、それが帰り道を安全なものにしていたのだ。

その分、それらにかち合ったウィリアム達は地獄だった訳だが。

そもそも、女の子チームは行きも帰りもコーメイさんが同行しているので、安全は保証されているようなものである。


暴走ネズミが取りこぼした魔物もコーメイさんが尻尾で今も道すがら倒している。


「魔物が出ないにしても、結構な早足で戻っているのに遅れずについてこれるマリオン様とフランチェスカ様は凄いですね」


スタスタと小脇にウィリアムを抱えて歩くゲオルグは隣りを歩く二人の令嬢にやや驚きを隠せない様子だ。

体力的に劣るエマと双子はコーメイの背に乗り、ウィリアムはゲオルグが小脇に抱えて運んでいるのに対し、マリオンとフランチェスカはしっかりと自分の足で歩いていた。

出発前に手を貸そうとする騎士の申し出を断っていたのを見て、ゲオルグは少し心配していたがそれも杞憂だった。


「ふふ、もちろん。鍛えているからね」


マリオンは誇らしげに腰の剣を軽く触って笑う。

剣の鍛錬を欠かしたことはない。


「わ、私もずっとダンスをしておりましたので。実は……体力には自信があります」


フランチェスカは反対に少し恥ずかしそうに答えた。

ダンスブームの真っ只中の王都でダンスの上手い令嬢としてフランチェスカは必ず名前が出る程の実力者なのだ。


「あ、キャンプ地が見えてきたわ、ケイトリン!」


「あ、キャンプ地が見えてきたわね、キャサリン!」


コーメイの背で目線の高くなった双子が前方を指差している。

急いだおかげで日が暮れるまでにキャンプ地に着けそうだった。

しかし、双子の言う通り森の出口に差し掛かっているにしては、静か過ぎる。


「んん?」


その違和感に国王も気付いて顔を顰める。

この時間帯だと、キャンプ地は夕食の準備に取りかかっている筈でガチャガチャと音が聞こえてきてもおかしくはないのだ。


「もしや、何かあったとか……?」


キャンプ地に近づいて、和らいでいた一行の雰囲気が再びピリリと引き締まる。


「陛下、少し下がっていて……あっ! ちょっ! まっ!」


近衛騎士が職務を全うするためにスッと国王警護のために動くも、それよりも先に国王はキャンプ地へと駆け出した。

困ったことにこの国王、何事も自分で確認しなくては気の済まない性分なのだ。


「ああ、もうっ! 陛下なんも反省してねぇ!」


近衛騎士が思わず悪態を吐いて、後を追い駆ける。


「あの、殿下? 私の……じゃなくて、全ての騎士達のためにも陛下のマネだけはしないでくださいね?」


第二王子エドワードの護衛をするアーサーが近衛騎士に同情してチクリと念を押す、というか懇願する。

守られる者にも、守られるなりの動きというものがある。


「しかし……だな、アーサー。守られるだけの王族ではなんというか……ほら、私も……」


アーサーの懇願は理解できるものの、エドワードは颯爽と走る国王の後ろ姿をキラキラした目で見つめているエマの様子に言葉を濁す。

あんな風に自分も見られたいと願わずにはいられなかった。


「ああ、もうっ! 陛下、めっちゃ足速ぇー!」


騎士達は必死で国王を追いかけている。


「殿下、彼らを見てもそんなこと言えますか?」


アーサーが憐れな騎士達を指差す。

ここで引いたら今後の業務に支障が出ることがあるかもしれない。

それだけは避けたい。


「ううっ……」


王国の国王が普通の国王だったなら、万が一先に駆け出したとしても騎士が追い付くくらい簡単なことなのだが、王国の国王は普通ではない。

騎士に劣らないどころか勝る武力を誇る暴れん坊君主なのである。


その血はしっかりと第一王子マクシミリアンにも、第二王子エドワードにも受け継がれている。

二人共身体能力は高く、幼い頃から剣の稽古も欠かさず行っている。


「もう、嫌だ……」


その時、スカイト領狩人の一人が呟いた。

彼らはもう、限界だった。

疲労困憊だった。

狩り場に王族を連れて行くプレッシャーに加え、王の暴走による不測の事態、あとなんとなく受け入れているけど、実際何なのか分からないデカい猫がずっといる……。


国王+スチュワート家+謎の巨猫。

彼らが頭を抱えて青くなるのを誰が責められようか。


その長である隻腕のスカイト領領主も、度重なる心労で森に入る前と後で姿が十は老け込んでいた。


本来なら狩人達も国王を追うべきなのに愕然と立ち尽くしていた。

体がこれ以上のストレスを回避したいと動くことを拒んでいた。


キャンプ地に強力な魔物が現れている可能性はゼロではない。

ある程度は狩人を残していたが、現れた魔物次第ではキャンプ地が血に染まるのに時間はかからないだろう。

あそこにいるのは、課外授業に参加している生徒、甘ちゃんの貴族のお坊っちゃん達ばかりなのだ。

魔物が出現する辺境領では、数人の狩人と彼らの保護者だけで対処できない事態も十分に起こりうる場所だった。


よくもまあ、そんな場所で我先に飛び込んで行くんだもんな、我が国の国王陛下って人は……。


「くぅっ」


スカイト領領主は何かあったときの責任の重さに目眩を覚える。

今度は腕ではなく首が飛んでもおかしくはない。


「大丈夫ですよ」


遠くなっていくイケオジ国王を名残惜しそうに一瞥したあと、エマはするんっとコーメイから降りて、グラリと身体が揺れたスカイト領領主を支えた。


「さすがにこれ以上、大変なことは起きないですって」


なんの根拠もない慰めの一言を放ち、エマは憔悴している隻腕のイケオジを見上げた。

国王がいなくなったので次のイケオジ観察に余念がない。

よくよく考えればスカイト領領主は自領で狩りをしなくてはならないため、王都では中々出会えないレアイケオジ。

このまま王都へ帰るならば、今が見納めなのだ。


「エマ嬢?」


「ふふふ」


そんなレアイケオジがゆっくりとエマへと視線を落として目を合わせてくれたら、まあ顔も緩むってものである。


「……っ!」


その姿は周囲にはいつも通りに曲解され、心労が絶えないスカイト領領主を心配して慰める天使に見えてしまう。

残念だが、見えてしまうものは見えてしまうのだ。


ゴクリ、とスカイト領領主はつばを飲み込む。


「っエマ嬢……」


体の弱い少女が、懸命に背の高い自分の顔を見上げていた。

それは今回、長年狩人を務めている自分なんかよりも慣れない狩り場で、ずっと大変な思いをしたに違いない少女であった。

それなのに、そんなことおくびにも出さずに少女は自分の心配をして、誰もが疲れているこの状況で満面の笑みを浮かべているのだ。


「天使やん!」


心から噴き出したスカイト領領主の叫び。

反論する者なぞ、誰一人いなかった。

いたのは、首が取れそうなほどに深く頷く信者達のみ……。


いや、二人だけ縦ではなく首が横向きに傾いている者が……兄弟がいた。


「なぁ、ウィリアム? あいつ仕事に苦悩するイケオジの表情最高……とか思ってないか?」


心配する声を掛けたのは、もっと近くでイケオジを見るためだよな? とゲオルグが弟に尋ねる。

周りの者の目は節穴。

この世界に来て何度も経験した事象にゲオルグは天を仰ぐ。


「ええ、間違いなく。ただ近くでイケオジを堪能したいがためだけでしょうね。あーもうっ!」


ウィリアムはゲオルグに小脇に抱えられたまま頭を抱える。


「姉様、声を掛けるにしても言い方ってものがあるでしょう!? これ以上大変なことは起きないって! なんて……なんて分かりやすいフラグを立ててるんですか……!」


こんなセリフを吐いて、何も起こらない小説が、漫画が、アニメがどこにあるというんだ。


「あー……。なぁ、あいつやっぱわざとだよな?」


俺も結構疲れてんだけど……国王の暴走に右往左往させられたゲオルグが、ウィリアムの指摘にうんざりした表情を浮かべる。


「にゃ~ん♪」


でも、それがエマにゃ~ん♪ と、コーメイは楽しそうに一声鳴いた。



 ◆ ◆ ◆



ヴゥゥゥン……。

その頃、結界にほど近い、深い森の中で地面が光っていた。

そこには、いつ、誰が、なんのためにこんな場所に設置したのか、王国の者は誰も知らない魔法陣があった。


この世界に現存する魔法陣の中でも最大規模であるにもかかわらず、これまで見つからなかったのは結界の近くという場所のせいだろう。


それは大きさに見合うだけの大量の魔石を使って作られている。

帝国が無限に魔石を採掘できると思っていた頃の遺物で、帝国から王国に移動するための一方通行の魔法陣だった。


ギィィィ……。


魔法陣の光が収まると、これまで何もなかったその場所に大きな檻が置かれていた。

帝国が送った魔物の入った檻である。

送る直前に鍵を解かれたあの檻である。

その頑丈に作られた檻から一匹の魔物が顔を出す。


それは、精神攻撃系の中で最も危険だといわれる魔物だった。


ガサガサ


「!」


そこへ、また一匹森に繁る草をかき分けて魔物が現れた。


命からがらアーバンの矢から逃れた虹色ラクーンだ。


「!」


虹色ラクーンと檻から出て来た魔物。

帝国からすれば幸運、王国にとっては不運となる最悪で最強となる組み合わせの魔物。


「!!」


虹色ラクーンは本能でその魔物が己の力になると悟った。

それは、檻から出た魔物も同じだった。

本能で虹色ラクーンが己の力になると悟っていた。

魔物二匹でニンゲンの国くらい簡単に滅ぼしてしまえる力を手に入れたと。


ぶわぁぁぁぁぁぁ


檻から出た魔物から高々と火柱が立つ。

魔物は虹色ラクーンとの邂逅で己が最強になったことに歓喜する。

あの、忌々しい檻に閉じ込めたニンゲンを燃やし尽くすことができるのだから。


虹色ラクーンも同じであった。

先程、群れを壊滅させたニンゲンを狂わすことができるのだから。


二匹はニンゲンを恨んでいた。


檻の魔物の出す火柱は、衰えるどころかどんどんと強く高く立ち昇り森を覆い始め、虹色ラクーンはその火柱をものともせずに、ちょこんと魔物の背に飛び乗った。


あのニンゲン達のニオイは覚えている……アッチだ。


檻の魔物は、スッと目を細める。


二匹の魔物が向かうのは、結界とは反対方向。

課外授業で使われているキャンプ地であった。





皆様!

あけましておめでとうございます!

今年も何卒、「田中家、転生する。」をよろしくお願いいたします。


ピンチ「おい、シリアス? 初詣行こうぜ」


シリアス「俺なんて神様に祈ってもいいこと何もないんだ」


コメディの旦那「暗いな、シリアス。関係ねぇ、行くぞ!」


ピンチ「シリアス。ほら、おみくじ引こうぜ」


シリアス「俺なんか毎回、凶しかでないし……」


コメディの旦那「すげーな? わしは大吉しか出たことないぞ?」


ピンチ「旦那は黙ってて! ほら……引いたやつ見せてみろよ」


シリアス「………」


ピンチ「ん? どうした? また、凶だったのか?」


シリアス「(ふるふる)」


ピンチ「お? じゃあ大吉?」


シリアス「(ふるふる)」


ピンチ「なんだよー……まさか、大凶とか? き、気にすんなよ。これ以上悪くはならないってことで、大凶もそんなに悪くないって。よ、よし。おみくじ貸してみろ俺がくくってきてやるか……ら? え? 嘘、は、白紙? なにこれ? え? 何も書いて……ないだと?」


シリアス「うわぁーー」


ピンチ「お、おい、まてよ、シリアス! だ、大丈夫だって! ほら、えっと……ちくしょう、なんて声かけていいか分からない!」


コメディの旦那「今年も賑やかだな……。お? ラブコメ貴腐人もきてたのか、振り袖似合ってるな」


ラブコメ貴腐人「腐腐腐、真っ白なシリアスがピンチ色に染まる日が楽しみだわ…」


コメディの旦那「ん? それ何色?」



作者「皆様はおみくじ引きましたか? どうでしたか? 作者は末吉でした。悔しかったのでもう一回引きました。……末吉でした」





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― 新着の感想 ―
おみくじ… 私は厄年のとき別々の神社で3回引いて3回とも凶だったことがありました (初詣、夏に行った旅行先、会社の慰安旅行) 散々な1年でしたが過ぎてしまえばいい思い出…と思いたいʕ´•ᴥ•̥`ʔ
[一言] 我が家のローカルルール「くじ引きは『末吉』が一番!」 <今は亡き父の名が『末吉』の為。
[気になる点] ん?貴腐人は意外と若いのか? 制服姿の港ことフアナ様みたいな アラフォーのコスプレ的エグさかと思いきや… [一言] 振り袖が似合うとなれば、 コレはギリでアラサー迄行ってない説がワンチ…
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