さめる。
久しぶりの更新となり、申し訳ございません。
これまでの状況。
ヨシュア、フアナ拘束するが、潜んでいたちっこい魔法使いに大砲撃たれる。
エマ、パパと合流&筋肉堪能中。国王目が覚める。
猫、大砲の弾キャッチして遊ぶ。
ヴァイオレットの糸の効果は王城にも表れていた。
「大変です! 王妃様、殿下が、マクシミリアン殿下がお倒れになりました!」
フアナが拘束された同時期に、第一王子マクシミリアンは気を失った。
精神が体から剥離し、自身を思うように動かせずにいた第一王子の魔法が解けたのだ。
「……うっ」
マクシミリアンが次に目を覚ましたのは自室のベッドの上であった。
「マックス!」
心配する王妃である母の声が聞こえる。
「殿下!」
宰相の声も……。
「あれ?」
自分に起こった変化にマクシミリアンはすぐに気づく。
いつもはくぐもって聞こえていた周りの音が、鮮明に聞こえる。
目を開ければ、一枚薄布を隔てていたようだった視界も鮮明になっている。
「な……に……? え?」
自身の意思で発した声が、自身の耳にそのまま届く。
「マックス、どこか痛いところはないですか? 苦しいところは?」
ベッド脇には心配そうに顔を歪めた王妃。
「え? 母さ……王妃殿下?」
冷静な母のこのような表情を見たのは初めてだった。
「殿下は突然お倒れになったのです」
王妃の後ろに立っている宰相が状況を説明してくれる。
「倒れた……? はっ! 体が自由に、動く?」
ぼ~っとした頭を軽く振ったマクシミリアンは目を見開き己の手を握り、開く。
体が、自分の意思通りに動いた。
「殿下、大丈夫ですか?」
母親である王妃の隣には、王の側妃ローズ・アリシア・ロイヤルがいた。
母と並んで座る姿は珍しい。
父が無理やり側妃にしてから初めてではなかろうか。
あの時の父の行動は早かった。
一目惚れだと言って、どんなに宰相が前例がないと言っても聞かなかった。
父が何故あれほど急いだのか……帝国に留学し、魔法をかけられた後に知ることになる。
各国から集められた【聖女】が帝国でどんな目に遭っていたのかを。
人並外れて美しいローズ様は、当時間違いなく【聖女】候補だった。
それが今、こうして母の隣で笑っていられるのは父が側妃にして守ったからだ。
「……?」
ふと、マクシミリアンは視線を感じた。
それは、異様な視線だった。
第一王子として生まれ、見られることには慣れていたが、そんなものとは違う異質な、これまで感じたことのない種類の視線。
「なっ……何……か?」
母も宰相も、更に後ろにいたらしい騎士団長もじぃーっとマクシミリアンを見つめている。
不躾に見るのを隠す様子もない。
むしろ作法に厳しいはずの母が誰よりも率先して見ていた。
「今、見たわね?」
王妃ビクトリアは、静かに隣に座る側妃に確認する。
「……は、はい」
側妃ローズは、王妃の問いに少々顔を赤らめてから肯定する。
「たしかに、たしかに見ましたぞ!」
宰相も力強く同意している。
「ああ、間違いない。私もしかと見届けました!」
後ろに立っていた騎士団長は身を乗り出してまで、王妃の問いに答えている。
「え? 何?」
マクシミリアンは困惑するしかない。
何故か嬉しそうな母と、ほっと胸を撫で下ろしている宰相と騎士団長。
更には心なしか恥ずかしそうな側妃ローズ。
そこへ、
「マクシミリアンがローズさんの胸を見たわ!」
王妃が歓喜の声を上げる。
「ええ! 母さ……王妃っ殿下なんてことを!? いや、私は断じてそんなっ」
予想外の言葉にマクシミリアンは声を荒らげる。
母は急に何を言い出すのだ?
「いいえ、マックス。誤魔化しても無駄よ! あなた、ローズさんのあの豊満な胸をしっかりと見たわ! 間違いないわ」
「はい、私も見ました。殿下、残念ながら大バレでございます」
「殿下、隠すのはもはや無理です。我々も最近知ることになったのですが……この手のチラ見は全てバレてしまうようです」
母と宰相と騎士団長はにわかに盛り上がる。
「いや、違う、私は……そんなっ」
「「「いや、間違いない!」」」
「うっ!」
思わず言い訳じみた言葉が出たが、王妃も、宰相も、騎士団長も絶対に見逃してはくれそうになかった。
未だかつてこんな連帯感のある三人の姿は見たことがない。
だが、マクシミリアンは一国の王子としてそんなことをする訳がない……いや、したとしても認める訳にはいかない。
たしかに……見てないとは、言えないが……ほんの一瞬だ。
ほんの一瞬……目が、勝手に、吸い寄せられただけで……これは何というか反射であって意図的ではなく……ん? ちょっと待て今、騎士団長なんて言った?
遅れて騎士団長の忠告がマクシミリアンの脳内に届く。
この手のチラ見は全てバレてしまう……だ……と?
そんな馬鹿なっと、マクシミリアンはローズの方へと視線を向ける。
そんなことが可能ならば……ずっとこれまで……?
マクシミリアンと目が合った側妃ローズは火照った頬に手を当てて困ったように笑っていた。
「ぐぅぅっ」
義母とはいえ……なんか可愛いな……こんな柔らかく笑う方だったか?
じゃなくて、え? と、いうことは今までのが全部? 全部? バレて……?
「あ! また、見ましたね? マクシミリアンがローズさんの胸をまたチラ見したわ!」
「か、母様! 声が大きい!」
止めて、なんで、母親に女性の胸をチラ見したことを大声で報告されなくてはならないんだ?
マクシミリアンの顔が、赤くなって、青くなる。
どんな地獄だよココ。
し、仕方ないだろ? そこに胸があるなら見るのが男ってやつだ。
し、仕方ないだろう? これは本能、紛れもない本能のせいだ。
「あの、殿下。お気になさらず……殿下だけではなく、その……皆見ますから……」
頬を染めたローズがおずおずと助け舟を出す。
恥ずかしそうに胸に手を置いているものの、皆見るから気にするなと。
その仕草もめちゃくちゃ可愛い。
「……も、申し訳ございません!」
この程度のチラ見がバレるなら、これまでのも全部バレていることになる。
マクシミリアンはガバッと起き上がって頭を下げる。
王族は簡単に頭を下げてはならない……のだが、謝らずにはいられない。
「あの、だ、大丈夫ですからっ。頭を上げて下さいっ。ほんとに、あの、殿下だけでなく皆さん見ますから……」
おろおろとローズはマクシミリアンに声をかける。
謝ってもらうためにここにいるのではない。
諸々の説明を早くしてもらおうと、後ろにいる宰相と騎士団長にローズは困ったように視線をやる。
「「も、申し訳ございません!」」
が、その視線に勘違いした宰相と騎士団長までもが頭を下げ出した。
世の男ども、よく聞け。
ずっとバレてないと思っているかもしれないが、バレバレだからな……。
「良かった……安心しました」
そんな中、王妃が頭を下げる息子に安堵のため息を溢す。
「え? 今、(息子が変態で)良かったと?」
マクシミリアンは母親の言葉に驚く。
「はい、本当に」
母の言葉に側妃ローズが頷いている。
「え?」
「殿下、やっと正気に戻って何よりです」
宰相が目頭を押さえて喜んでいる。
「え?」
「一時はどうなることかと……」
騎士団長はやれやれと肩を揉み、首を回す。
「え?」
これはもしや……?
「もしかして、私が魔法で操られていたことを……気付いて……?」
王国は魔法使いがいなくなって久しい。
だから、魔法に対する警戒も無に等しい。
王国は魔法大国である帝国から何をされても気付かないし、気付いた時にはもう侵略されているだろう。
マクシミリアンに魔法をかけた魔法使いの女はそう言って笑っていた。
「ええ、もちろんです。既にシモンズ港にも騎士を派遣しています」
王妃ビクトリアは力強く答える。
「なっ!」
王妃の言葉にマクシミリアンはベッドから這い出て、窓へと駆け寄る。
そうだ、なにをぼーっとしていた。
今夜、王都は、王城は火の海と化す。
日没を合図に港から真っ直ぐ大砲の弾が……。
「あれ?」
日が暮れていた。
太陽はすっかり隠れ、街には明かりが灯っている。
意識を失ってから、既に数時間が経過していたらしい。
「王都が……無事?」
狐につままれたような表情でペタンと王子はその場にへたり込む。
予定では王都は今頃火の海、王城は壊滅状態……だった筈。
「マクシミリアン殿下、へたれている場合ではありません。帝国で殿下に何があったのか、帝国が王国に何をするつもりなのか、覚えていることを教えて下さい」
スッと臣下の礼をした姿のまま騎士団長がマクシミリアンに尋ねる。
王国側が持っている情報は、一介の商人の知らせのみ。
今は何よりも情報が欲しい。
「……無理だ」
そんな騎士団長にマクシミリアンはポツリと溢す。
王都が火の海になっていなくても、王国に勝ち目がないことを知っている。
帝国の魔法の恐ろしさを目の当たりにしたあの日、マクシミリアンは絶望したのだ。
王国人の想像を超える規模の魔法が存在する。
敵は海以外からでも侵入できると誰が思うだろう。
「もう、帝国軍が国内に侵入している頃だ。あの危険な魔物と一緒に……」
「殿下?」
父はもう、この世にはいないだろう。
マクシミリアンは涙を流した。
やっと体が自由になった。
やっと、泣ける。
国のために、自分のために、やっと泣ける。
ピンチ「作者、またデータ消したってよ」
シリアス「え? いやバックアップは?」
ピンチ「戻るボタンと間違えて更新ボタン押したらしいぞ」
シリアス「え? こまめな保存は常識だろ?」
作者「立ち直るのに、数日を要した……」
シリアス「え? こまめな保存は常識だろ?」
作者「…………」
ラブコメ貴腐人「落ち込んでいる人に正論は効かないものよ」
ピンチ「でも、さ、……どうすることもできないし……」
ラブコメ貴腐人「こんな時こそ読むのです」
シリアス&ピンチ「え?」
ラブコメ貴腐人「BのLを!」
シリアス&ピンチ「え?」
ラブコメ貴腐人「弱った時を狙うのが腐教のチャンス!」
シリアス&ピンチ「え?」




