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誤字、脱字報告に感謝いたします。
その頃……スチュワート家の猫達は晩御飯の猫缶絶賛堪能中であった。
あうわうわう。
あうわうわう。
あうわうわう。
「にゃにゃ♡」
やっぱり猫缶は最高にゃ、とかんちゃん。
「にゃんにゃー!」
猫缶も美味しいけど、僕は○ゅーるが食べたいにゃー! と、チョーちゃん。
「うにゃーんにゃ」
「「にゃっにゃーん♡」」
今日はマグロ味だったけど、明日はササミ味が出るにゃ、とリューちゃんが息子達に翌日の晩御飯のメニューを先見して教えてやる。
かんちゃんとチョーちゃんは、楽しみにゃーん、と食後の嗜みであるお顔の毛づくろいをしながら、ササミ味に想いを馳せる。
「みゃ、ぬにゃ?」
つやつやの毛並みの二匹を見て、あら、あなた達太ったんじゃない? と、リューちゃんが顔を洗っていた前脚を止める。
「「うにゃにゃにゃ……ぬにゃ!?」」
そんな訳……とかんちゃんがチョーちゃんを、チョーちゃんがかんちゃんを見て……二匹揃ってカッと目を見開いてから、あるかもにゃ!? と驚いている。
真っ黒でシュッとしたスタイルを誇るかんちゃんのお腹が心なしかもっちりして……見えなくもなかった。
真っ白でもっふもふだが、毛が濡れてしまえば体積半減のほっそりボディを誇っていたチョーちゃんの首にあるチョーカーが、心なしかキツキツになっているように……見えなくもなかった。
「うにゃにゃー?」
ご飯の量はいつも通りだった筈。
ゲオルグとレオナルドが不在のために圧倒的に【遊び】分のカロリー消費が追いついていないのが原因かにゃと、リューちゃんが分析する。
ウィリアムはのんびり本を読むことが多いので、仲良しのリューちゃんは隣でゴロゴロ寝ているからウィリアムが不在でも運動量は変わらない。
定期的に先見の能力を使うので息子達と同じ量を食べていてもカロリーの消費はできているのである。
ゲオルグとレオナルドは早朝から魔物狩りの特訓をするし、かんちゃんもチョーちゃんもそれにも積極的に参加しているので、彼らが不在のここ数日は運動不足気味だった。
「にゃ……」
「にゃ……」
僕、太ったのか……と、かんちゃん。
このままではブタ猫呼ばわりされてしまう。
ブタさんには悪いが、それだけは絶対に嫌だ。
ある日突然ご飯がダイエットフードに変わるのは避けたい。
僕、太ったのか……と、チョーちゃん。
このままではパパさん(座布団)の肋骨が粉々になってしまう。
それはちょっと嫌だ。
「にゃ!」
「にゃ!」
ちょっと庭走ってくる! と、駆け出すかんちゃん。
今日から縄張りの見回り回数増やす! と、チョーちゃんもかんちゃんを追いかける。
「にゃんにゃ……」
仕方ないわねぇ……と、リューちゃんも二匹を追って庭へと向かった。
◆ ◆ ◆
カサカサ!
スチュワート家の敷地内、ウデムシの住処になっている洞窟。
ウデムシ達は晩御飯を食べ終わって寛いでいた。
「にゃーん!」
そこへ猫達が食後の運動のお誘いにやって来た。
カサカサ!
「うにゃーん!」
チョーちゃんがスチュワート家の使用人達はこれから晩御飯を食べるところだからお庭行こう! とウデムシ達をグイグイ洞窟の外へと押し出す。
ウデムシ達はそのフォルムと巨体ゆえにスチュワート家従業員組合(主にマーサ)から人目につかないようにと要望が出され、現在の洞窟に住むようになっていた。
「にゃー? にゃーん!」
洞窟に籠もりっぱなしだと気が滅入るでしょ? たまには歩脚を伸ばしなさいな! と、リューちゃん。
(カサカサ……)
(カサカサ……)
カサカサ!
自分ら好きで洞窟にいるんスけど……。
快適ジメジメ空間最高なんスけど……。
と、ウデムシ達は思ったが、出会ったその日から猫達には逆らうなと本能が警告し続けているので素直に従うしかない。
「にゃ!」
カサカサ!
「にゃにゃ!」
カサカサ!
「うにゃーん!」
カサササーン!
とはいえ、ウデムシ達も体を動かすのは楽しい。
猫達は脚が四本しかないのに動きが素早いので鬼ごっこで捕まえるのは至難の業である。
カサカサ!
カサカサ!
カサカサ!
数の利を活かし、ウデムシ達は連携して鬼になったかんちゃんを囲んでゆく。
「にゃにゃ!?」
「ぬ、にゃ!」
囲まれたにゃ!? と、かんちゃんがキョロキョロと周りを見回す。
あ、あれは猫缶の陣だにゃ! と、チョーちゃん。
カサカサ!
かんちゃんを囲んだウデムシ達はその距離をジリジリと縮めて来る。
「にゃ、にゃにゃい!」
やるな……だが、まだ甘い! と、かんちゃんが天を仰ぐ。
ウデムシなんか飛び越えればいい。
カサカサ!
させるかぁ! と、ウデムシ達も負けずに第一歩脚を天に向かって伸ばして対応する。
が、その時、突然リューちゃんの目がぺかーっと光った。
「「にゃにゃにゃ!?」」
カサカサ!?
何事!? と、かんちゃん、チョーちゃん、ウデムシ達。
「にゃんにゃ、にゃにゃにゃ」
なんか飛んで来る……と、リューちゃん。
「「にゃにゃ?」」
何かって何さ? とかんちゃん、チョーちゃん。
「うにゃにゃ~、にゃ!」
何か分からない何かにゃ! 先見で全てが分かる訳ではないもの! と、リューちゃん。
「にゃにゃんにゃ!」
分からないなら捕まえるにゃ! と、かんちゃんが目を輝かせる。
「にゃーん!」
飛んで来るならもっと見晴らしのいいところに、行くにゃーん! と、チョーちゃん。
カサカサ!
お手伝いします! と、ウデムシ達も乗り気である。
そこへ、遠くの方からドーンと花火のような音が聞こえた。
「にゃ?」
ピンっと耳を立てて音の方向を確認し、かんちゃんが走り出す。
「にゃ?」
飛んでくるっとチョーちゃんもかんちゃんを追う。
「にゃにゃーにゃあ!」
何が飛んで来るか分からないから気をつけなさいと一声鳴いて、リューちゃんも二匹を追いかける。
カサカサー!
ウデムシ達も猫を追う(大群)。
◆ ◆ ◆
「はっはっは! よくやった!」
フアナは縛られたまま歓喜する。
気の進まない計画も、失敗してはこちらの身が危険となる。
王都の人命より、己の命が可愛い。
「あー……撃っちゃいましたか」
そばかすの少年は砲撃の衝撃音にキーンとなる耳を押さえて呟く。
「はっ。見え見えのやせ我慢は見苦しいぞ、少年。これで王都は火の海だ!」
どこからどう見ても悪役な台詞を吐くフアナ。
「あまり大きな声は控えてもらえますか? まだ耳がおかしい……」
少年はぷるぷると首を振って耳の具合を確かめている。
「バカめ! 耳の心配なぞ……分かっているのか? 何も罪のない王都の人々がまさに今、大砲の餌食になっているということを。お前の住む家が、通っている学園が、炎に包まれているかもしれない。ああ、親も、友人も生きてはいないかもな! 生きていたとしても、瓦礫の下で苦しんでいるかもしれない。全てはお前の油断が招いたことだ。お前は失敗したんだよ!」
フアナは少年が負うには、重すぎる呪いの言葉を吐く。
この少年はここで潰しておかないと、後々帝国に害を及ぼす可能性が高い。
自分でも吐き気のするくらい劣悪な言葉をわざと選んでは並び立てる。
「いえ、大砲を撃てと指示したのはフアナ様、貴女ですし、実行したのはそこの……ちっこい人です。僕は関係ないです。もし、王都が火の海になり、大量の善良な罪もない人々が死んだとしたなら、それは指示したフアナ様と、そこのちっこい人が確固たる意志で、お二人の判断と責任のもとで行った結果です。王都には、生まれたばかりの無垢な赤子も、夢を抱いて頑張っている若者も、優しい店主やお針子、面倒見の良い絵描きも、小さな子供達もいたのに、あなた達が意図的に彼らの未来を奪ったのです。はぁ……。なんて残酷な……。こんなこと、僕なら到底耐えられません。あの大砲でどれだけの家族が、恋人が、友人が死に別れることになるか……。なんて、恐ろしい……」
「ふぐっ!」
カウンターがえげつない。
少年に投げた呪いが、数倍となって返ってきた。
メンタル鋼か何か、この少年。
「フ、フアナ様……」
親指大の魔法使いが、少年の呪い返しで良心がボロボロに傷付いた胸を押さえ、不安そうにフアナを見る。
「ば、馬鹿者! さっさと次の大砲を撃たんか!」
船にいた軍人達も捕まっているなら、その後の制圧のためには王都は完膚無きまでに破壊しておかねばならない。
「で、ですが……。ひ、人が、いっぱい……しっ……死ん……」
フアナの部下である魔法使いは皆、研究職でこういった荒事には慣れていない。
人を傷つける覚悟なんて持ってないのだ。
親指大の部下は、少年の言葉に分かりやすく狼狽えている。
「命令だ! やれ! 死ぬのはお前とは関わりのない王国人だ。やらねばこちらがやられるのだ。お前の年老いた親も、妹も、今、お前が撃たねば同じ目に遭うと思え!」
頬を床につけ、縛られたままの姿でフアナは部下を恫喝する。
相変わらず、糸はびくともしない。
しかし、分があるのは間違いなくこちらだった。
人員の殆どが拘束されていたとしても、砲撃準備の整った大砲と、それを撃てる魔法使いがいる。
視界の悪い夜に飛んでくる砲弾を防ぐ術など、王国にはない。
砲撃で崩れた瓦礫の下敷きになった人を救う術も、燃える都を素早く消火する術も、魔法使いのいない王国にはないのだから。
「う、うわぁぁぁ! どっ…………ドーン! ドーン! ドーン! ……」
それも分かった上で、部下の魔法使いは狂ったように叫んだ。
失敗すれば家族の命はないと言われては抗えない。
「いや、一般人にまで無差別で攻撃とか……王国人はそんな酷いことはしませんよ?」
そばかすの少年は、泣きながら魔法で砲撃し続ける親指大の魔法使いに憐憫の眼差しを向ける。
攻撃されているのは少年の国で、攻撃しているのはこちらだというのに、どこからそんな余裕が生まれるのか……フアナは理解できなかった。
◆ ◆ ◆
カサカサ!
暗いのは好きですが、こんなに日が暮れてしまっては何が飛んでくるか見えないです!
走る三匹の猫の後ろを追いかけながらウデムシ達が心配の声を上げる。
「にゃ!」
心配ないにゃ! と、かんちゃん。
「うにゃーん!」
猫は夜目が利くにゃーん! と、チョーちゃん。
「にゃにゃ!」
まあ、見えなくてもなんか勘でイケるでしょ! と、リューちゃん。
カ……サ……?
か……ん……?
ちょっと何言ってるか分からないとウデムシは空を見る。
カサ!?
カサカサ!
なんか来る!?
なんかこっちに来てる……ような気がする!
オワタ討伐の為の修行の成果か、リューちゃんの言う勘が働いてしまうウデムシ。
「にゃっにゃ!」
そうそう、考えちゃ駄目にゃっ感じるにゃ! と、リューちゃんがお馴染みの拳法の達人みたいなことを言う。
「にゃ……にゃう〜!」
でもあれ……ちょっと高すぎて届かないかも〜! と、走りながらチョーちゃん。
さすがの猫達のジャンプ力を持ってしても、飛んで来る物体Xは遙か上空で届きそうにない。
「にゃにゃ! ……にゃ?」
諦めたらそこで試合終了にゃっていつもゲオルグが言ってるにゃ! と、かんちゃん。
そこへ、走っているかんちゃんの前方に障害物が見えてくる。
「にゃ……にゃ、んにゃ……」
こ、これは……にゃ、にゃんて絶妙な位置にトランポリンが……! と、チョーちゃんが驚きの声を上げる。
障害物の正体は、猫が遊ぶおもちゃだとヨシュアが少し前に持って来たトランポリンだった。アーマーボアの革が張られた特別に頑丈なやつ。
そのトランポリンは、チョーちゃんが言うように、飛んでくる物体Xを捕まえるのにびっくりするくらいめちゃくちゃ絶妙な位置に設置してあった。
「にゃあ〜!」
これなら、イケる! と、かんちゃんがトランポリンを使って物体Xを狙い高く飛び上がる。
アーマーボアの革の反発力で、かんちゃんは一気に物体Xが飛んでいる高さに到達する……が、
「にゃ!?」
タイミング良く物体Xの前に飛び上がり、そのままキャッチする寸前で、かんちゃんのおヒゲがビリっと警戒し、鼻がヒクっと動いた。
火薬のにおい。
これ、掴むの良くない!
本能というか勘で瞬時にかんちゃんは物体Xのキャッチを諦め、無音の猫パンチに切り替える。
「にゃにゃっにゃ、にゃんにゃーわん!!」
アタック、ニャンバーワン!! と、かんちゃんの無音の猫パンチもとい、超強力スパイクを物体Xにお見舞いする。
「にゃ!?」
「にゃ!?」
カ、サっカサ〜!!
物体Xは、かんちゃんのアタックでスチュワート家の庭へ真っ逆さまに落下する。
嘘!? と、下にいたチョーちゃんが頭を前脚で抱え伏せる。
コッチに来る!? と、下にいたリューちゃんが頭を前脚で抱え伏せる。
に、にっげろ〜!! と、下にいたウデムシ達が蜘蛛の子を散らすように散り散りに逃げるが、間に合わない。
ドッカーン!!
物体Xは地面に当たった瞬間、大爆発した。
「にゃ、にゃ!」
びっくりしたにゃ、かんちゃんコッチに落とすなら先言って! と、チョーちゃんが文句を言う。
それくらい大きな爆発であった。
王都を火の海にせんと開発された特別な砲弾は着弾した際に爆発するように設計されていた。
普通ならチョーちゃんだって無傷ではいられない。
文句なんて言っている余裕はない。
「にゃにゃっにゃー、にゃにゃ!」
オワッタワーの中に落としたのね、びっくりしたにゃ! と、リューちゃんは安堵のため息を吐く。
アーマーボアのトランポリンの近くに作られたオワタの破片レンガで作った筒状の建物。
通称オワッタワーが煙突のように煙を上げている。
皇国を悩ませたとんでもなく硬い植物魔物でできた塔は、帝国の砲弾にビクともしていない。
「にゃ!」
あれ、掴んでたらちょっとおヒゲ燃えたかも……と着地したかんちゃんがチョーちゃんとリューちゃんに謝りながら、仕方なかったんだよと弁解する。
カサ? ……カサ?
え? おヒゲ燃えるだけ?
ほうぼうに逃げていたウデムシ達がかんちゃんの言葉にドン引きしている。
「にゃ! にゃーん!」
でも! これめちゃくちゃ楽しかった! と、かんちゃんは煙が収まりつつあるオワッタワーを見上げる。
「にゃーん」
もっと飛んで来ないかなーっと砲弾が飛んできた方向に催促する。
「にゃにゃ!」
オワッタワーじゃなかったら危なかったわね! と、リューちゃん。
カサカサ!
頑丈に作ったかいがありました!
と、ウデムシ達は得意気に胸を張る。
「うにゃ、にゃ?」
「にゃっにゃ……」
ところでさっき、一回わんって言わなかった? と、チョーちゃんがかんちゃんを見る。
きっ気のせいにゃ……と、かんちゃんが視線を逸らす。
「にゃ?」
ホントに? と、チョーちゃん。
「にゃ……にゃにゃ……」
ほ、ホントにゃ……とかんちゃん。
そこへ、先程と同じ方向からまた、ドーンと音が聞こえてきた。
しかも、それは一回ではなく……。
「にゃ! にゃにゃ!」
またドーンって聞こえた! いっぱい来るにゃ! と、チョーちゃんが次々に聞こえてくる砲撃の音に耳を澄ませる。
「にゃにゃ。にゃーにゃ!」
あら、たくさん来るわね。
ウデムシ達これで飛ばしてあげるからあなた達も遊びなさい! と、リューちゃんがヨシュアが持ってきたもう一つのシーソーみたいな遊具を示す。
カ……サカサ!?
えっ遊ぶ?……自分らもやるんスか!? と、ウデムシ達。
「にゃん!」
もちろん。狙いは任せなさい! と、リューちゃん。
カサカサ……。
ウデムシ達は猫には逆らえない。
断頭台に上がる気持ちでウデムシ達は順番にシーソーみたいな板の片側へと移動する。
「にゃ、にゃーん?」
今夜は退屈しなくて良かったわね、あなた達? と、リューちゃんがウデムシ達を問答無用で飛ばしながら、かんちゃんとチョーちゃんに行ってこいとトランポリンを指す。
「「うなゃーい!」」
イエーイ! と、かんちゃんが飛び、チョーちゃんもあとに続く。
全ての砲弾はオワッタワーへと落とされ、猫達とウデムシ達は夜中の的当てゲームを楽しんだ。
こうして、王都は猫達とウデムシ達によって火の海を免れるのだが、フアナがそれを知るのは少し後のことであった。
尻アス「ずっとお花畑みたいなところにいたんだ」
ピンチ「え?」
尻アス「そこには色んな人がいて、たまに遠くにある川の向こう側から誰かが呼んでて……」
ピンチ「え?」
尻アス「でも、俺は行くならピンチと行くんだって思って、呼んでる声には耳をかさなかった」
ピンチ「え?」
尻アス「だから、もう、大丈夫なんだ」
ピンチ「え?」
尻アス「昔の弱い俺じゃない。俺は強くなったんだピンチ。そう、どんなギャグにも動じない強い体を手に入れたんだ」
ピンチ「とりあえず、鼻血拭こうか? 尻アス」
尻アス「え?」
ラブコメ貴婦人「恋はスリル&バイオレンス」
コメディー「いや、どっちかってーとホラーっていうかオカルト?」




