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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と帝国の暗躍
165/198

火が七日間って困る。

誤字脱字報告に感謝いたします。

ご覧になった方、おられますか?

田中家、転生する。テレビでCMして頂いております。

(宣伝の宣伝)

ヴゥゥゥン。


シモンズ港、帝国船内の一部屋。

床に敷かれた羊皮紙に模様が浮かび上がると、光と共にどこからともなく突如一人の人間が現れた。


浮かび上がった模様の光は急速に弱まり、ヴヴヴヴヴヴ……と途切れ途切れに点滅し、ブツンっと燃料が切れたかのように暗転する。


「チッ。もう、コレも使えないな……」


現れたのは王城にいるはずの聖女フアナだった。


模様は魔石を砕いて描かれた転移魔法陣だ。

十年以上前に考案された技術であり、フアナもその開発に関わった者の中の一人であった。

魔法使いだけでは転移魔法の移動距離は数km程度となるがこの魔石で描かれた魔法陣さえあれば数十km、数百kmの移動が可能となる。


「まあ、いいか。王城に残した【出発】の魔法陣も今頃ただの紙屑だ」


転移魔法陣は一対の模様からなり、原則一方通行。

王城にあるのが【出発】、帝国船の一室に設置してある、現在フアナの足元にあるのが【到着】の魔法陣である。

対で使うものなので寿命も一緒だ。


「貴重な魔法陣がまた一つ……いや、この任務が成功すればいくらでも作れるようになる」


帝国の魔石は底を突きかけていた。

人の住む国で一番広大な国土を誇る帝国は、魔石の鉱脈も多かった。

しかし、この魔法陣をはじめ様々な魔法具の研究開発を進めた結果、次々と魔石は取り尽くされ消費されていった。

この魔法陣だけでも、数百もの魔石が使われているのだから。


「随分遅い到着ですね、フアンさ……っと今は聖女フアナ様でしたっけ?」


イライラとした態度を隠そうともしない男達がフアナを出迎える。

予定では港に着いたその日に合流するはずだった。


「さっさと大砲を撃って帰ろうって話だったのに何をしていたんですか? どれだけ待たせるつもりですか! 一日たった挙げ句、今日はもう、日が暮れるではないですか!」


部屋に待ち受けていた男達は皆、魔法使いだった。

普段は日夜魔法の研究に明け暮れる日々を過ごしていた、他国を攻撃するなんて役とは程遠いデスクワーカー達である。


魔法研究に必要不可欠な魔石を得るために駆り出されたものの、魔物の出現する領地へ結界魔法を施しに行ったことすらない者ばかりだ。


今や帝国は未使用の魔石の残数よりも魔法使いの人数の方が多い。

能力の低い魔法使いは辺境、能力の高い魔法使いは帝都で研究職に就くのが一般的で、魔法使いになって以降、帝都から出たことのない彼らが神経質になるのも仕方がない。


「落ち着け。日が暮れるのを待っていたのだ」


「何故ですか⁉」


フアナは部屋にあるソファにドカッと座り、男達を宥める。

彼らよりも幾分若く見えるフアナだが、指揮権は彼女にあった。


「王国は魔法使いが現われず、三十年以上が過ぎた。魔法技術は三十年前どころか百年前以下だ。つまり、王都といっても夜になれば街灯に火を灯さなくてはならないのだ」


なんと遅れた国ではないかとフアナは嘆かわしいと首を横に振る。


「街灯に光魔法の魔石を使ってないのですか⁉」


帝国では暗くなれば勝手に設置された光魔法を溜めた魔石が辺りを照らしてくれる。

どんな田舎でも。


「水も井戸から汲むしかないし、料理するのも風呂の湯を沸かすのも火を起こし薪を焚べなくてはならない」


「む、昔話の世界だ……」


フアナも噂には聞いていたが、実際に暮してみれば不便極まりなかった。

王城で何をするにもメイドを呼び、顔を洗う用の水を持ってこさせたり、部屋が暗ければランプの用意を頼んだり、帝国では必要のない細々したことがいちいち発生する。

 

顔を洗う水くらい魔法で出せないこともないがそれをしてしまうと、どこから水を持って来たか追求されては困る。


王国では部屋内には常に諸々の世話をするためにメイドが控えているのが当たり前で、結果、 二十四時間監視されている状態だった。

想像以上に身動きが制限されてしまい、一人の時間の確保に苦心することになった。


奴らは来るのが遅いと文句を垂れるが、これでもなんとか時間を見つけてバレずにやってきたのだ。


「はっ。では攻撃は、街灯が灯るのを待つということですか?」


勘の良い魔法使いが、フアナの言わんとする事に気付き、目を見開く。


「ああ、夜になれば勝手に火元が増えてくれるんだ。効率がいいだろう?」


帝国軍部からは破壊は徹底的に行えと言われている。

これから放つ砲弾のいいアシストになるだろう。

街灯は王都中に灯るのだから。


フアナはニヤリと唇の端を上げた。

魔法のない王国には碌な消火設備もない筈。

上手くいけば王都は大砲と街灯の火で七日間は燃え続けるだろう。


 ◆ ◆ ◆


「みたいな、こと、言ってたぞ」


シモンズ港、帝国船の隣の皇国船内。


王国滞在忍者の中でも王国語が一番分かるモモチが、潜入した帝国船の様子をタスク皇子とヨシュアに報告する。


「酷いな……」


「………………」


タスク皇子は顔を顰め、ヨシュアはフム、と考え込む。


「決行は今夜。思っていたよりも、より急を要する展開ですね」


もう太陽は傾き、日が暮れるのも時間の問題であった。

今から避難をと言っても間に合わない。

王都には何万人もの人々が暮らしている。


【帝国が大砲を撃ってくる】なんて……誰も信じない。

他国が攻めてくるなんて誰もこんなこと想定していないのだ。


『拘束しますか?』


モモチに改めて皇国語で報告を聞いた忍者の頭であるハットリ・ハンゾウがタスク皇子に指示を仰ぐ。


『いけるか?』

 

王国と帝国の問題に皇国が関わってよいものか……考えるまでもなかった。


『はっ。魔法使いが全部で四人。水夫が各船に五十。軍人と思わしき者が各船に三十……モモチの報告通りならば可能かと……』


船の大きさに反して人の数は少ない。

帝国に次ぐ大国である王国を攻めるにしては少な過ぎるくらいだ。


『それ程、大砲の威力に自信があるということか……』


ただの一弾たりとも王都に落とす訳にはいかないな……とタスク皇子はヨシュアを見て口を開く。


「ラックル!」


「成程、忍者が帝国軍を拘束……では魔法使いの生け捕りも可能ですか? 良かった。……では四人の魔法使いはこちらの船に連れて来て貰ってもいいですか?」


サン=クロス語便利。


「大丈夫。あ! ヨシュア、アレ使って、いい?」


モモチが皇国へロートシルト商会が献上する箱を指差す。


「ああ、そうだな。下手なロープよりもこっちのほうがいい」


箱の中には、スチュワート家謹製のエマシルクの糸が入っていた。


「荷物軽い、動き、易いから」


拘束するためのロープを持って行けばその分スピードは削られる。

現地調達では強度が分からないため、不安材料が残ることになる。

エマが大事に育てたお蚕様の糸は、糸だけに軽く、糸なのにその辺のロープよりも頑丈なのだ。


『では、行って参ります』


「行ってきまーす」


しゅん……と音と共にハットリとモモチ、部屋内にはいたが姿が見えない忍者達も揃って消える。


「うーん……忍者って便利」


「やらんぞ? ヒュー、一人で我慢しろ」


「残念です」


ヨシュアの一人言に、タスク皇子が釘を刺す。


 ◆ ◆ ◆


一方、スカイト領魔物の出現する森。 


「姉様!」


ウィリアムが姉の手首をガシっと掴み、首を振る。

国王の上衣は全て脱がされ、丁寧に返り血も拭き取られていた。

目を覚ましさえすれば、正気に戻っている筈だ。


「念のためよ、念のため」


「必要ありません」


「ウィリアム、私達が介抱しているのは国王陛下よ。念には念を入れて……」


「姉様、早く陛下のベルトから手を離して下さい」


「そんなっ!」


「陛下のズボンは超高級な革製です。返り血も完全に乾いていますし、血が染み込む心配もありません」


「で、でも! 万が一……」


「万が一も億が一もありません。速やかに、陛下の、ベルトから、手を離しなさい!」


「チッ……」


 ◆ ◆ ◆


一方、スチュワート家王都邸宅。


「平和ですねぇ」


「平和ですねぇ」


マーサはゆっくりと紅茶を飲む。

向かいで一緒に紅茶を飲んでいるのは門番であるエバンじいさんだ。


「でも、マーサさん。なんだか落ち着かない様子ですね? こんなに静かで平和なのに」


エバンじいさんは不思議そうに訊ねる。


「エバンさん、スチュワート家に仕えるものなら覚悟しておいたほうがいいですよ?」


「え?」


「静かなのは、嵐の前の静けさであってこれが永遠に続くことはないのですから」


「え? いや、まさかそんな……」


「断言してもいいです。もう、水面下では騒動は起きているでしょう。今は水の波紋が届いていないだけ」


「え? では何故マーサさんはこんなところでお茶なんか……」


「私はもう、諦めているんです」


ふっとマーサは、空を見上げる。

どうせ、すぐに何か起こるのだ。

静かで平和な暮らしなんて、私には訪れないのだと。


 ◆ ◆ ◆ 


一方、スチュワート家王都邸宅庭。


「にゃーあ」


かんちゃんが暇にゃーあと体を伸ばす。


「うにゃ……」


チョーちゃんがごろーんと転がり、座布団レオナルドが恋しいにゃ……と欠伸する。


一家が不在で残された三匹の猫は退屈そうにダラダラと過ごしていた。


「にゃ!」


リューちゃんの目が光る。


「「にゃ!?」」


それを見た、かんちゃんとチョーちゃんが、だらけていた頭を上げる。

リューちゃんの目が光る時。

それは先見をした時である。


「にゃ?」


何を見たの? とかんちゃんが尋ねる。


「にゃー?」


何か面白いこと起こる? とチョーちゃんが訪ねる。


「にゃーにゃ、にゃあ!」


リューちゃんの答えに、かんちゃんとチョーちゃんの耳がピンっと立つ。


「「にゃっにゃぁー!」」


猫達はご機嫌な様子で空を見上げた。


因みに……。


訳:リューちゃん「今夜のご飯は、猫缶よ!」


訳:かん&チョーちゃん「やったぁー!」


皇国から届けられた猫缶は、ロートシルト商会により無事にスチュワート邸へ届けられ、使用人達総出で無事に数量の確認も終わったため、今夜猫達の晩餐として出されるのである。


リューちゃんの先見は覆らないし、何を先見するかは選べない。









コメディ「それは?」

ピンチ「砂になったシリアスが寂しくないように、花を植えようと思って……」

コメディ「へ、へえ……」

ピンチ「シリアス、綺麗な花が咲くといいな」

ラブコメ貴腐人「ここまでくるとシュール過ぎて、解釈が追いつきませんわ!」


久しぶりに画像投稿する作者「皆様、いつも「田中家、転生する。」を読んでいただき誠にありがとうございます。来月発売の4巻の書影と口絵を一足先に(?)公開します!」


4巻表紙 作者リクエストにより、三つ編み、麦わら帽子のエマとつなぎ姿の一家です。

挿絵(By みてみん)


口絵 猫、蒴果コロコロ

挿絵(By みてみん)


こそっ)4巻なのでってことではないのですが、書き下ろしは4本ありますよ。


皆様、これからも田中家、転生する。をよろしくお願いいたします。





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― 新着の感想 ―
[一言] シリアスの砂に花を植えたらそれはきっと、シリアスの生まれ変わりですw
[一言] 〉静かで平和な暮らしなんて、私には訪れないのだと。 マーサの開き直りがプロの域に到達しようとしている! プロに到達すると「だからこそこの一時を大切に味わう」になり。 プロ中堅になれば「どうせ…
[気になる点] 3巻を、買いました、巻末に○巻にっづくとあるが、又3巻にとは、狙ってます?
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