参加者。
誤字・脱字報告に感謝致します!!
正気か、この国王。
課外授業に参加した生徒達は思った。
授業内容を一部変更し、魔物の出現する森へ行こうなんて言い出すのだから。
もう一度言おう。
正気か、この国王。
魔物学と狩人の実技の教師達も思った。
マジか、この国王。
スチュワート伯爵、博士、学園の教師がいるからと言って魔物の出現する森へ行こうなんて言い出すのだから。
いや、自分らは行くこと決定かよ。
もう一度、言おう。
マジか、この国王。
「「……………」」
「ん? 参加希望者はこれだけか?」
つまらなそうに国王が口を尖らせる。
「「!?」」
いや、むしろ誰だよ! 手を挙げた奴!?
こんな無茶振りに参加しようなんて酔狂な自殺願望者は!?
生徒と教師が国王の言葉に驚き、周りを確認すると、そこには当たり前のように手を挙げるゲオルグ・スチュワートの姿があった。
ああ、まぁ、そうか。
とそこは一同、納得する……が。
ん?
なんと、そのゲオルグの隣で弟のウィリアム・スチュワートまで手を挙げていた。
いや、いやいや。
危ないから、お子様が何で手を挙げてる……の?
ん?
んんん?
ちょっと待て、おいおいおいおいっ!
そのゲオルグの隣の弟ウィリアムの隣で手を挙げているのは……エマ嬢!?
ずっと体調を崩して命すら危ぶまれているあの、儚げなエマ嬢??
んんんん?
ってそのエマ嬢の奥にいる令嬢方も手を挙げている!?
いや、いやいやいや……まあ、騎士団長の娘、マリオン嬢なら分かる。
百歩譲ってマリオン嬢ならな。
しかし、そのマリオン嬢の横でノリノリに手を挙げている双子、どうした!?
遊びに行くのではないのだぞ?
そして、その双子の隣にいるフランチェスカ嬢!
そんなにガタガタ震えるくらい嫌なら手を挙げなければいいのに、何をやってるんだ!?
「さすが国王様ね、ケイトリン。生きてる魔物見たかったの私」
「そうね、さすが国王様だわ、キャサリン。私も生きてる魔物見たかったのよ」
双子の領地、海に囲まれたシモンズ領では魔物を見ることは叶わない。
魔物肉でさえも殆ど流通しないので二人とも魔物に興味津々なのである。
「私は将来、騎士団に身を置こうと思っている。近年の騎士は魔物狩りの任務を負うことも多い。経験しておいて損はないだろう」
「マリオン様、私が近くでサポートしますわ。辺境出身ですので魔物知識には自信がありますから♪」
「え、え、え、エマ様達が行かれるのでしたらわ、私もいっ一緒に行きますわ」
将来のためにとマリオン。
辺境出身だからとエマ。
皆が行くのならとフランチェスカ。
「うんうん。今年の課外授業は女の子の参加者もいて華やかだ。しかも、こんなにも授業に積極的で……って、女子はさすがに許可できないよ!?」
奔放な国王とはいえ、そこはしっかりと突っ込む。
学園の男子生徒なら狩人の実技の授業を受けており、最低限魔物から逃げる体力や、身を守る訓練も身につけている。
だが、基礎体力云々も含め令嬢達はそれがない。
「エマ、何を考えているんだ!? 魔物がどんなに危険か分かっているだろう!?」
参加の意を示す右手を挙げたままで、エドワード王子が血相を変えて反対する。
スライムの水鉄砲でできた傷は、エマの右頬にまだ痛々しいくらいに残っている。
「あー……マリオン? 出発前に、もう少し公爵令嬢としての自覚を持ってくれって話、したよね?」
参加の意を示す右手を挙げたままでマリオンの兄アーサーは困ったような苦々しい表情である。
屋敷の者も騎士団長である父も、これまで妹の好きにさせ過ぎたのだ。
本来なら結婚していてもいい年頃なのに、男の格好をして剣の稽古に励み、へたな男よりも何倍も格好良くなってしまい、なかなか婚約者がみつからないとベル家では頭を抱えている。
「「「…………」」」
いや、二人とも手挙げてんのかーい!
殿下もアーサーも行く気満々やないかーい!
と、他の生徒達は揃って同時に思ったが、下手に突っ込んだばかりに巻き込まれて、己も参加することになっては洒落にならないと静かに成り行きを見守る。
「殿下? お言葉ですが魔物狩りに最も必要なのは【知識】です。危険だと分かるからこそ私が行くべきかと……」
エドワード王子に反対されても諦めるエマではない。
魔物の出現する森に入れる機会なんてそんなに多くはないのだ。
たまたま、父、兄に加えてアーバン叔父様か一族の助っ人がいないことにはエマだって狩りの見学はさせてもらえない。
危険は分かっているが、その分具体的な対処法を知っている。
はっきり言わせてもらえば、王子よりも役に立つ自信がある。
「兄様! 私は守られるよりも守りたいのです!」
「そんな、愛されるより愛したいみたいなこと言って……。気持ちはわかるけどマリオン、これは遊びではないんだ。」
しかし、エマの主張は騎士の家系であるベル家のいちいちロマンチックな兄妹の言い合いに殆ど掻き消されてしまった。
女性騎士を目指すマリオンをアーサーは快く思っていないようである。
騎士道が染み付いたアーサーにとって守るべき人の中には、しっかりと妹のマリオンがいるのだから、無理もない。
「遊びでないことくらい分かっております! 私は昨年、狩人の実技【初級】の試験を首席で合格し、今年は魔物学の授業も受けています。充分資格はあると思います!」
「うっ……。でも、ダメだ! 魔物に遭遇すれば何が起こるか予測できないだろう?」
その後もマリオンは食い下がるが、アーサーが首を縦に振ることはなく、結局女の子は魔物の出現する森へ行くことは許可されなかった。
「…………困った」
「困りましたね……」
パレス領領主、レオナルドの呟きに隣にいたパレス領領主代行のアーバンも同意する。
どさくさで女の子達の参加がなくなってしまった。
背後に女の子がいれば、陛下にも彼女達を守らなければとの思いが生まれ下手に魔物を攻撃したりしないだろうと踏んでいたのに。
好戦的な陛下(魔物狩り素人)野放しはふつうに怖い。
問題は……。
「エマが参加しないとなると……」
「こない……でしょうね?」
「こない、だろうなぁ……」
コーメイさん。
国王に脅されたとはいえ、レオナルドが魔物の出現する森へ入るのを承諾したのは、猫の存在が大きかった。
森の中なら隠れ易いし、人目につかないないようにコーメイさんについてきてもらおうと思っていたのだ。
万が一の危険に備えて。
しかし、エマがキャンプ地に残らなくてはならないなら、コーメイも残るだろう。
コーメイの優先順位はエマが一番でその他は割と適当なのである。
「それに、足りないんだよなぁ」
「足りないですね」
レオナルドとアーバンはため息を吐く。
魔物と遭遇した時、何よりも危険なことは魔物の知識のない者がいること。
アーサーの言う予測できない魔物の予測が得意なのは群を抜いてエマである。
つまりは、かなりの戦力ダウンになる。
体力がなかろうとも、剣が使えなくても魔物知識の豊富なエマが一人、いるだけでぐんっと負担が軽くなるのに……。
スカイト領の魔物はパレスにいない種が多く、知識に不安のあるゲオルグはまだ戦力としては半人前。
知識豊富なウィリアムの補佐がないと、安心して目が離せない。
「エマだけは連れて行きたいって言い出せる雰囲気……じゃないよな、アーバン」
「ないですね」
魔物の出現する森への特別実習参加者。
国王(問題児)。
王子(スライムを切った前科者)。
スチュワート家男性陣(ゲオルグ実力半減)。
アーサー(戦力を削いだ)。
魔物学&狩人の実技の教師(頼りにしてるのに二人共不安そうな顔)。
「こういう時に、なんかヤバいもん出たりして……なーんてな」
「あまり怖いこと言わないで下さい」
ハハッと笑うレオナルドに、アーバンが眉間に皺を寄せる。
フラグを立てるのはスチュワート家の専売特許である。
◆ ◆ ◆
「ヤドヴィガ、その子は誰?」
側妃ローズ・アリシア・ロイヤルが公務を終え、自身の宮へ帰ると、ソファで寛ぐ娘のヤドヴィガの隣に見知らぬ少年が座っていた。
「お母様、お帰りなさい! 彼はヒュー君です」
ヤドヴィガは母親の声に嬉しげに読んでいた絵本を閉じて顔を上げる。
「ヒュー……君?」
……誰かしら?
王族の親戚筋にはヤドヴィガに近い年頃の子供はいなかったはずよね、とローズは訝しむ。
乳母の子供は女の子だったと記憶しているし、王城の職員の子供であってもローズの許可なくしてこの宮に入ることはできない。
誰……かしら、この子。
「うわぁ……! すんげぇ美人っ」
見知らぬ少年はというと、首を傾げるローズを見て感嘆の声を漏らしている。
素直な子は嫌いじゃない。
「あなたはだあれ?」
見知らぬ少年にローズは柔らかく笑い、尋ねる。
こういう突拍子もないことを、平然とやってのける一家に心当たりがある。
王国一厳重に警備されているこの宮に容易く侵入できる少年。
不可能を可能にする。
不可能を不可能とも思っていない一家。
……少年が着ている紫の服。
ローズくらいになると、この距離でも分かる。
エマシルクだと。
「あっ! そうそう忘れるところだった」
ポンっと額を打って、見知らぬ少年が膝をつき、頭を下げる。
臣下の礼である。
ローズは目を見開く。
完璧な礼だった。
【マナーの鬼】ヒルダ・サリヴァン公爵であっても、文句のつけようのない、完璧な角度の臣下の礼である。
「顔を上げなさい」
礼に応える形でローズが、声をかける。
「お母様、ヒュー君はお母様のドレスを届けてくれたのです」
ヤドヴィガが、コレよ! っと美しい薔薇の模様が描かれたエマシルクのドレスを抱えて持ってくる。
刺繍ではなく、生地に直接描かれている珍しいドレス。
小さなヤドヴィガの手に余るそのドレスは半分以上ズルズルと床を擦っていた。
エマシルクの価値を知る者が見れば卒倒すること間違いなしだが、この程度ならば傷まないと何度も袖を通したローズは知っている。
そして、目の前の少年も。
「こんにちは、ローズ様! おいらはヒューイ。スラム……じゃなくて、王都にあるスチュワート領に住んでるんだ。それで、ドレスとこれを渡すようにって言われて来たんだよ」
ヒューはポケットからハンカチを取り出す。
これもエマシルクであった。
「たしかに、渡したよ!」
ローズがハンカチを受け取ると、少年ヒューはしゅんっと音とともに消えた。
「! 消えた……」
「すごいねー、ヒュー君消えちゃった!」
おおおっとヤドヴィガが目をぱちぱちと瞬きして、ヒューの消えた辺りの床を触って探っている。
間違いなく、これは……エマちゃん関連ね。
ローズは確信しながら、渡されたハンカチに目を落とす。
「ん? ヨシュア・ロートシルト?」
ハンカチには、びっしりと美しい筆跡で文字が書かれていた。
ローズの予想に反して、あの一家ではない名前が記されており、不審に思うがそのまま読み進めてゆく。
そして……。
「た、大砲!?」
「お母様?」
「ヤドヴィガ、ごめんなさい。もう少しお留守番しててくれる? すぐにビクトリア様にお知らせしなくてはっ」
王国の緊急事態を知らせる内容にローズが宮を飛び出す。
これが真実なら、ローズの手に負えることではない。
ピンチ「シリアス……」
医師「相当危険な状態です」
ピンチ「!? 何とかならないんですか! 先生!?」
医師「これまではコミカライズがスライム編ということでなんとか命を繋いで来ましたが……」
ピンチ「ま、まさ……か?」
医師「コミカライズも、スライム編の終わりが近づいて……」
ピンチ「そんなっ、これからもう、シリアス……出番ないぞ?」
医師「大変申し上げにくいのですが……」
ピンチ「うわあぁぁぁ!」
コメディの旦那「ん? 出番か? 忙しくなりそうだな」
ラブコメ貴腐人「おほほほ。スライム編の後は学園編ですわ♡ めくるめく男子生徒達の学園ライフが待っていますわ」
執筆中にスマホ画面に指が当たって1000文字くらい消えて、半日悲しみに悶苦しんだ作者「バックアップは昨日の深夜ってマジか!?」
皆様、いつも田中家、転生する。を読んで下さり誠にありがとうございます。
活動報告でもお知らせしましたが、
【次に来るライトノベル大賞】にて「田中家、転生する。」ノミネートしていただきました。
残り数日となりました、よろしければ田中家、転生する。に清き一票よろしくお願いします。
投票期間:11月16日(火)〜12月15日23:59
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ピンチ「投票して下さった読者様、ありがとうございます」
シリアス 「ピンチ、俺はもう、ダメだ……。俺の分まで投票を……」
ピンチ「シリアス、一人一日一回なんだよ、なんとか、なんとか生きてくれ! 一緒に投票しようっ!」
ラブコメ貴腐人「一緒に投票しようですと!? もはや、それは夫婦なのでは?」
コメディの旦那「いや、ただの番宣……」




