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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と帝国の暗躍
156/198

第一王子マクシミリアン・ルイン・ロイヤルの絶望。

誤字、脱字報告に感謝致します。

マクシミリアン・ルイン・ロイヤルを一言で説明するなら、【良くできた男】だった。

母譲りの勤勉さと父譲りの剛健さをあわせもち、誰もが期待せずにはいられないような、次期国王としてどこへ出しても恥ずかしくない王子だと褒めそやされて育った。


……弟が生まれるまでは。


これで、髪さえもう少し黒かったら……。

王族だけに顕現する黒髪。

直接面と向かって言う者は少なかったが、臣下達は陰で惜しい、とため息を溢すのをマクシミリアン自身、知らないわけではない。


弟のエドワードが生まれてから、何をしても最後に余計な一言がついてくる。

妹のヤドヴィガが生まれても変わらなかった。

皮肉なことに王家の血の混じる母ビクトリアの子である自分よりも、王家の血の混じらない側妃ローズの子供達の方が漆黒の王家の色を持っていたのだ。


それでも、マクシミリアンは些末な事を気にするような性分ではない。

たしかに、弟と妹の髪色は父や叔父、幼い頃に亡くなった祖父よりも見事な漆黒だった。

髪が黒いだけで王になれるわけではない。

第一王子として学ぶべきことを学び、鍛えるべき心身を鍛え、王国の未来のために精進してきた。


様々な国へ留学し、各国の政治を学んだ。

そして、同時に魔法使いと接触を図るために暗躍した。

王国は三十年以上魔法使いの不在が続き、結界の揺らぎも頻繁に起こるようになった。

結界の揺らぎは、天候にも悪影響を及ぼすことがある。

農作物が主な収入源であった王国にとって、それは死活問題である。

外貨を稼ぐ術を失った国の末路は悲惨なのだ。

他国を長期的に支援するなんて余裕はどこにもない。

国が大きければ大きいほど、魔物の出現する範囲は広がり対策に頭を悩ますことになるのだから。


数年前からスチュワート家が絹産業の拡充をしたことで、外貨を稼ぐことに成功したお陰で、王国はなんとか持ち堪えている状態であった。

スチュワート家は、辺境の地パレスを治めている。

没落激しい辺境領に頼る今の王国はただただ危うく、綱渡りをしているようなものだった。

せめて、魔法使いを王国に招き結界の修復だけでもしておかなければ、王国の未来はない。


どの国よりも魔法使いを保持する帝国へ何度も足を運んだ。

何度も、何度も、暇を見つけては留学と称して魔法使いに会う機会を探っていた。


突然、その機会はやって来た。

しかし、それはマクシミリアンの切望した出会いではなかった。

こんな事になるのなら、帝国に来るべきではなかった。


深く被っていたフードを下ろした魔法使いの姿に目を離すことができなくなった。

その魔法使いは女だった。

王国の王家の血が混じらなければ絶対に出ないであろう黒に近い茶色の髪。

そして、漆黒の瞳。


「なっ!」 


「マクシミリアン・ルイン・ロイヤル、お前は今日から私の支配下に入る」


髪と瞳の色に動揺したマクシミリアンの僅かな隙を突いて魔法使いは魔法を発動した。

その日から、マクシミリアンの体はマクシミリアンのものではなくなった。

マクシミリアンではない誰かが、マクシミリアンのように食事をして、睡眠を取り、人と会い、マクシミリアンなら絶対に言わない命令を下す。

それを、マクシミリアンは見て、聞くことしかできない。

おぞましい計画を知っても、自由に声も出せず誰にも知らせることができない。


そして、そのおぞましい計画の主犯となるのはマクシミリアンなのである。


どんなに叫んでも、

どんなに喚いても、

どんなに泣いて懇願しても、


マクシミリアンの口から出るのは帝国が王国を侵略するための命令だけだった。


「船を用意しろ(やめてくれ)」


「船に大砲を積め(やめてくれ)」


「砲弾の雨を王都に降らせてやろう(やめてくれ)」


「決行の日は、王が不在の課外授業の時期がいいだろう(やめてくれ)」


自分が守るべき国を自分が壊してしまう。

誰か、止めてくれ。

この私を。

誰か……。

誰か……。

誰か……。


「何か、仰りましたか? マクシミリアン殿下」


執務室で、書類に埋もれていた宰相が顔を上げる。

目の前には先日留学を終え、帝国から帰国したマクシミリアン第一王子が立っていた。


「ああ、明日、シモンズの港に帝国から十数隻の船が着く予定がある」


「帝国から船? しかも十数隻ですか? そんな連絡は受けておりませんが……」


宰相は書類の山から、シモンズ港への入港許可リストを引っ張り出し、確認する。


「ああ、すまない。留学中に仲良くなった帝国貴族達を招いていたのをすっかり忘れていてな。入港の手続きをしていなかったのだ」


マクシミリアン第一王子は、朗らかな笑みを浮かべなんとか融通しておいてくれと言う。

笑顔も、声の抑揚、話し方、どれをとっても第一王子マクシミリアンである。


が、宰相は顔が曇るのを必死で隠す。

王族である第一王子が簡単にすまないなどと言うだろうか。

それに、入港の手続きの融通を頼むのに宰相である自分に言うはずがない。

マクシミリアン殿下は王国の政治体系を全て把握していた。

これまでの彼ならば、入港の手続きをしたいのなら入港管理局へと直接出向くだろう。


「承りました。直ぐに手配致します」


「ああ、頼む」


満足そうに頷き執務室を出るマクシミリアンの背中を見送り、宰相は頭を抱える。


「やはり、ビクトリア王妃の仰っていたことが、正しかったか……」


昨夜、誰もが寝静まった頃。

王妃の命で極秘裏に召集がかけられた。


「マクシミリアンは何者かに操られている」


王妃の言葉は、かもしれない……ではなく、操られていると断定していた。

集められた宰相の自分の他、近衛騎士や大臣達は俄には信じられなかった。


「何を仰っておるのですか?」


「王妃、マクシミリアン殿下は洗脳されていると?」


「洗脳であれば、我々が気づかない訳がないでしょう? 殿下は表情も自然でしたし、笑顔にも違和感はありませんでした」


催眠による洗脳がなされていれば、表情に違和感が現れる。

洗脳は昔から貴族の権力闘争に使われてきた古い手法で、それ故に見破る方法も広く知られている。

表情が乏しくなり、感情の幅がなくなる。

と、思いきや何気ない言葉に敏感に反応し急に激昂し、暴力的になる。

それは、帰国したマクシミリアン殿下にはみられなかった。

 

「マクシミリアンが留学していたのは帝国です。魔法使いが最も多くいる国です」


「はっ! 魅了……魔法ですか?」


王妃の言葉に宰相が目を見開く。

魅了魔法の使える魔法使いなんて、大魔法使いと呼ばれたコニー・ムウ以降現れてはいない。

魔法使いの能力はどんどん弱まっていっているのではなかったのか。


「その可能性が高いでしょう」


「しかし、王妃。我々はマクシミリアン殿下が操られているとは思えません。根拠が母親の勘などでは弱すぎます」


それまで静かに聞いていた近衛隊長が、王妃の勘違いではないかと発言する。

王族の意見に異論を唱えたなら、処罰されても文句は言えない。

しかし、近衛隊長はマクシミリアンが幼い頃から剣術の稽古をつけている。

人を見る目には自信がある。

そうでなければ近衛なんて職が務まるわけがない。

そんな自分が何の違和感も感じないのだから、王妃の言う事を丸々信じるなんてできなかった。


「何百年に一人の魅了魔法の使える魔法使いの仕業なんて可能性が低過ぎます」


宰相も近衛隊長に加勢する。


「帝国は今、世界中から魔法使いを集めていると情報があります。既に数十人の魔法使いがいるとの噂も、皆さんなら耳に入っていると思います。魔法使いが多ければその分魔法の研究は捗ることでしょう」


宰相も、近衛隊長も、集められた大臣達も視線を落とし、王妃の意見に首を横に振る。

王妃が何を言ったとしても、説得は難しいだろう。

それくらい、魅了魔法を使える魔法使いは異質な存在なのである。


「王妃、もう少し様子をみ……」


「マクシミリアンは、ローズさんと対面して会話をしても、一切彼女の胸を見なかったそうよ」


王妃の顔を立ててしばらく経過観察してみましょうと話を締めくくろうとした宰相の言葉を遮り、王妃がとっておきの一言を繰り出した。


「「「え?」」」


その強烈な一言に、俯いていた者は一斉に顔を上げ、そんなバカなっと驚きを隠すこともできなかった。


「ローズさんに直接確認したので間違いないわ」


「「「ええぇぇぇぇえ!?」」」


更に王妃が放った一言で全員が物凄い勢いで立ち上がる。

つまり、ローズ様は我々が胸を事あるごとにチラチラと見ていたことに気付いていたと?

男性陣はウロウロと目を泳がせ始める。


「バレていないなんて思っていたら、大間違いですよ」


「「「ああぁぁぁぁぉぁぁぁ……」」」


王妃の非難めいたため息交じりの衝撃の事実に、皆力なく椅子へと体を埋める。

ええ。絶対にバレていないと思っていましたとも。

いや、無意識であっても視線は勝手に吸い寄せられて行くのだから仕方が無いのだが。


「……その話が本当なら……マクシミリアン殿下はおかしい」


ポツリ、と一人の大臣が呟く。

側妃ローズの胸を見ない男は存在しないと。


「たしかに異常だ」


ああ、と近衛隊長が深く頷く。

そんな人間は魅了魔法をかけられない限り存在できないと。


「直ぐに対策を立てましょう。これから帝国から来た書面の見直しを進めます」


うむぅ、宰相はうなる。

確実な証拠が出てしまえば、対処せざるを得ない。

帝国と敵対するなんて、想像もしたくない。

だが、これは現実なのだ。


側妃ローズの胸を見ないマクシミリアンの存在が、帝国の想定よりも大分早く、王国に事態の重大さを気付かせたのであった。






シリアス「すーーはぁーーー。空気が、旨い」

ピンチ「おっ? シリアス今日は調子良さそうだな?」

シリアス「ああ、なんだか、今日はいい気分なんだ」

ピンチ「そうか、それは良かった。俺もこれから忙しくなりそ……! シリアス!?」

シリアス「やっぱり、見てくれピンチ! 俺、俺、立ってる……」

ピンチ「シリアスが……立った!!」

シリアス「うおおおおぉぉおお! 俺はやったぞぉー!」

ピンチ「ま、待て! シリアス急に走ったら危ない!」

シリアス「あは、アハハハ! 俺、走ってる! 走ってるよピンチ! 自分の足でちゃんと走っっ!!!?」

ズシャァ!!

ピンチ「ほらぁ、急に走るから転けるんだぞ? シリアス」

シリアス「…………」

ピンチ「シリアス?」

シリアス「…………」

ピンチ「シリアス!? え?」

シリアス「…………」

ピンチ「シ、シリアーーーーーーーーース!」


コメディ「お? 出番か?」

ラブコメ貴腐人「暇で、暇で、薄い本が分厚くなってしまいますわ」


コミカライズ田中家、転生する。を読んだ母親になぜウィリアムの前世が魔法使いなのかを説明させられるという地獄を味わった作者「皆様、いつもありがとうございます。季節の変わり目、お体ご自愛下さい。この度、小説田中家、転生する。1〜3巻、全巻が重版決定致しました。もう、夢のような気持ちにさせて頂き、感謝です。これからもよろしくお願い致します」






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損害が大き過ぎて一度しか使えない判別法だ
証拠になる…胸
おっぱい聖別。
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