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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と帝国の暗躍
153/198

タンドリー&フレンドリー。

誤字脱字報告に感謝致します。

「かっっっ辛っ!」


エマの特製カレーを一口食べたウィリアムがあまりの辛さにヒーヒーと水を呷る。


「大丈夫かい? ウィリアム」


アーバンが空になったウィリアムのコップに水を足してやる。


「だから言ったでしょ? こっちの甘口の鍋の方にしなって。子供舌なんだから」


「ウィリアム、こっちは食べてやるから甘口の方よそって来いよ」


「ううう、(前世は)激辛得意だったのに……」


エマが呆れたように注意し、ゲオルグがウィリアムの持っていたカレーを引き受ける。

悔しそうにウィリアムが甘口のカレー鍋へと向かう。


「あの…………皆さんは辛さ、大丈夫ですか?」


スチュワート家のテントには、夕食を一緒にどうかと誘ったエマの友人の令嬢達とアーサーだけでなく、何故か国王陛下とエドワード王子までいた。

王族ってそんなに簡単に専属のコック以外が作った料理食べていいのだろうか?

毒見役とかいないし……。


「エマちゃんの作ったカレー? だっけ? めちゃめちゃ美味しいよ! これは何杯でも食べられるね。中の肉も野菜も柔らかく煮込まれてて……スプーンが止まらないよ」


不安そうな一家の視線を一身に浴びる国王は勢いよくカレーをかっ込んでいる。

まあ、国王陛下がいいなら……いいのだけど。

イケオジの餌付け姿は壊血病の治療院以来だけど、やはり何度見てもいい。

ごはんが進む。

……問題は。


「あの、殿下。お口に合いませんか?」


対照的にエドワード王子はスプーンを握り締めてカレーをじっと見ている。


「い、いや。これをエマが作ったのだと思うと……胸がいっぱいで……」


まさか手料理が食べられるなんて……課外授業参加して良かった、とエドワードは自身の幸運を受け入れるのに無駄に苦労していた。


「毒なんて入ってませんから、安心して食べて下さいね?」


「あれ? 殿下? 召し上がらないのなら代わりに食べましょうか?」


食の進まないエドワードを見てアーサーがカレーに手を伸ばす。


「なっ何を言っているんだアーサー! せっかくのエマの手料理……食べるに決まっているだろう! はむっ! ……!? 辛っ!」


取られる前にと急いでカレーを頬張ったものの、予想以上に辛かった。


「あ、あの、殿下? 辛くない方もありますから無理なさらずに……」


こんなことで不敬罪なんて言われたら大変だとエマが慌てる。


「いやっ、エマ、違う! 大丈夫だ。想像より辛かっただけで……凄く美味しいよ。食べたことない味なのに不思議なくらいとても美味しい。辛いだけでなく複雑な幾重にも色々な? 味がする……?」


「ぶはっ! 殿下、それは褒めているのかどうなのか分かりづら過ぎます!」


しどろもどろの王子にアーサーが堪らずに噴き出す。


「褒めている! 褒めているに決まっているだろう! す、少し辛いがそれがまた、あとを引く旨味がだな!?」


「殿下? 辛いのならあの、甘口の方を持ってきますよ?」


「大丈夫だ! ゲオルグ、座れ。大丈夫だから!」


エマが辛い方を食べているのに、年上の男である自分が甘い方を食べるのはなんか嫌だと、甘口カレーを用意しようと立ち上がるゲオルグを王子が止める。


「ぶはっ! 殿下面白いっ」


冷静沈着な冷たいイメージの強い王子だが、エマが関わる時だけ年相応な表情が見られる。

幼馴染みとして、アーサーはそれが嬉しくて 嬉しくて仕方がない。

青い血の冷血王子なんて噂している貴族たちに見せてやりたいものだと。


そんな様子を二杯目のカレーを頬張りながら国王はほんとにエマちゃんお嫁に来てくれないかな……と眺めている。

口に出さないのはそれをスチュワート伯爵が鬼の形相で見ているからである。

娘を持つ父親の気持ちは痛いほど分かる。

いや、スチュワート伯爵の弟であるアーバン・スチュワート博士も、大分睨んでいた。

姪狂いという噂は本当のようだ。


「兄様、不敬ですよ。エマ様、殿下は辛くて美味しいと言いたいのです」


「辛くて美味しいわよね、ケイトリン?」


「辛くて美味しいわよね、キャサリン」


「あの、甘口の方もとても美味しいです。それにこのお米? 皇国の主食にとてもよく合いますね」


マリオンと双子は辛口、フランチェスカは甘口を食べている。

辛さを調節すればみんな美味しく食べられるカレーはやっぱりすごい。


「さあ、さあ、私の焼いたトリ肉も食べて下さいな。魔除けの粉……香辛料とヨーグルトでしっかり漬け込んだのでこっちも美味しいですよ」


王子を睨むレオナルドとアーバンに止めなさいと小さく声をかけて、メルサが大皿に大量に積まれたトリ肉を勧める。


「……う、うむ」


ゴクリ、と国王がトリ肉に手を伸ばす。

さっきまで飛んでいた割とヤバめのデカさの魔物の肉。

カレーという黄色いソースに入っていればなんとか、料理として見れたがこっちはかなり肉々しい。

しかも今、魔物除けの粉って聞こえたし。


食べたことのない魔物料理。

まだ、無難そうなカレーから、皆手を付けていた。


ちなみにスチュワート一家は貴重な米がなくなる前に食べなくてはとおかわりを見込んで急いでカレーから食べていた。


「で、では……スチュワート夫人。頂こう」


国王が豪快にトリ肉を掴み、思い切って口を開ける様を皆が固唾を飲んで見守る。

どう考えても一番身分の高い国王が毒見役になっていた。


そんな緊張の場面を破ったのは、切羽詰った騎士の声だった。


「へ、陛下! 陛下! 大変です!!!」


緊急の呼び出しに外へ出ると、騎士と、スカイト領領主、その息子、そして少なくない人数の狩人が臨戦態勢でスチュワート家のテントを囲んでいた。


「何があった!?」


物々しい雰囲気に、トリ肉を掴んだままの国王が状況報告しろと叫ぶ。

国王の食事を中断するなんて、相当な事態が起こったに違いなかった。


「ご無事で何よりで御座います! 早く、早くお逃げ下さい! 陛下。危険です、ここは危険なのです!」


隻腕のスカイト領領主が国王の前に跪き、一刻の猶予もないと汗だくになって訴える。


「落ち着け、どうしたと言うのだ?」


無我夢中で訴える領主の肩を、国王はトリ肉を持っていない方の手でガッシリと掴み、落ち着かせる。


ただ、危ないから逃げろではどう逃げて良いか分からない。

今は状況を把握することが一番だと。


「わ、我が領の見張りの狩人が、この辺りで魔物の出現を確認しました!! それは魔物の中でもとても危険な種で……お命が危のう御座います!」


目に見えた時にはもう、遅いのだ。

見張りの狩人がヤツを見たと報告が来た時、このキャンプ地は地獄絵図のようになっているだろうと思っていた。

だが、着いてみれば魔物の腹具合が良かったのか、キャンプ地は平和そのものだった。

奇跡としか思えないが、この幸運が長く続く訳がない。

急いで避難してもらわなければ、とスカイト領、領主は必死だった。


「魔物の出現……しかも、危険なヤツなのか?」


追い詰められたように周囲を警戒するスカイト領の狩人達。

全力で馬を走らせて来たであろう領主の息切れと汗。

後ろに控えている領主の息子は覚悟を決めた顔をしている。

これは、命がけの最低最悪の緊急事態なのだとキャンプ地に緊張が走る。


「は、はい!! 鳥型の魔物で、【ロック鳥】と言います! 目視も難しい遥か天空から滑空して、人を一瞬で空へと攫ってゆくのです! はっ! 皆! 頭を低くして木陰に隠れるんだ! なるべく空から狙われないように………? どうした!? 早く避難をっ!」


スカイト領領主が叫べば叫ぶ程、何故かキャンプ地の生徒達は困惑の表情を浮かべる。

王都の貴族の子供の危機管理能力はこれ程までに低いのかと、領主は怒りを通り越し恐ろしくなってくる。


「………ロック鳥?」


いや、貴族令息だけではない。

ポカンと腑抜けた顔で国王が訊き返してきた。


「っつつ!! はい! 【ロック鳥】です! ヤツに攫まれば、死体であろうとも、ま、まともな姿で弔うこともできません!」


攫った人間を好みの柔らかさになるまで上空から繰り返し落としてから食べるロック鳥。

遺体を回収できたとしても、粉々になった骨片か肉片くらいなのだ。

一国の王をそんな姿にする訳にはいかない。

それなのに、目の前の王はまだポカンとした表情で固まっている。


「ロック…………鳥?」


国王は持っていたトリ肉を見る。


「ロック………鳥?」


国王は振り返って持っていたトリ肉を掲げ、スチュワート家を見る。


「「「「「「ロック鳥」」」」」」


何事かと横一列で国王の後ろに並んでいた一家が大きく頷いて、国王の問いに答える。

だよね? と国王がまた頷き、正面に向き直る。


「あー……。スカイト男爵? コレ、ロック鳥」


領主の眼前に持っていたトリ肉を出し、持ってない方の手で指差す。


「は?」


「コレ、ロック鳥」


「は? ロック…………鳥?」


「ロック鳥」


しばらく国王と領主で【ロック鳥】を交互に連呼するシュール過ぎる光景が続く。


「えっ??? ロック……鳥? え? え? え?」


領主は訳が分からなかった。

国王が何を言いたいのか。

今、この状況で何で肉を持っているのか。

今、この状況で何でその肉を見せてくるのか。

今、この状況で何でその肉を指差しているのか。


「っぶはぁ! ひっ、も、もう駄目だぁ。はっ、ひっ、お腹痛い! ふっふひ……」


笑い上戸のアーサーが肩を震わせ悶ている。


「アーサー、笑うな。失礼だ」


「しっしかし、殿下。ひっこれはっっ! ふっくっふはっ噛み合ってなさ過ぎて……」


「兄様! もうお黙りください!」


こうなったらアーサーは止まらない。

本人もギリギリまで我慢したのだが、王子に怒られても、妹に黙れと言われても王と領主のロック鳥連呼がツボにハマって、もう無理だった。


はぁ、とため息を吐いてエドワード王子が領主の前に進み出る。

国王である父親は少々言葉が足りないところがある。

勢いで事を進めるタイプで、細かいフォローは王妃と兄と自分の役目であった。


「スカイト男爵。多分その見張りの見たロック鳥だが、アーバン・スチュワート博士が矢で射落として、ゲオルグ・スチュワートとウィリアム・スチュワートが回収し、メルサ・スチュワートとエマ・スチュワートが調理した。陛下が持っているのが、その調理されたロック鳥だ」


「は? ロック鳥を矢で射落とす?」


「そうだ」


王子が嚙んで含めるように領主に説明する。


「回収……して……調理……?」


「そうだ」


言葉が中々頭に浸透していかない領主に根気よく王子は頷く。

王子の頷きに合わせて、キャンプ地の面々も皆合わせて頷く。

なんとなく、受け入れてたけどやっぱりオカシイよな? という気持ちを込めて。


「そ、そんな訳あるかぁーーーーーーーー!」


生きてきた中でもダントツ一番のツッコミが領主の口から放たれる。


そのツッコミにだよね、と深く頷いていたのは魔物学と狩人の実技の教師達である。


「いや、昔はうちもロック鳥には手を焼いていたんですよ。しかし、弓の弦にヴァイオレッ…………特殊な糸を使う事で飛距離もぐんっとよくなりましてね? あ、こん……」


「あっ、ロートシルト商会に問い合わせて頂ければ適正価格で購入できるように取り計らいますよ!」


今度、こちらの領にもお譲りしましょうかと言おうとするレオナルドにウィリアムが割って入る。

こういうのを父に任せて放っておくと気付いたらスカイト領の狩人経費を全てうちが工面するはめになることが目に見えていた。


「え? 糸を? 糸だけで……ロック鳥? え?」


「まあ、まあ、せっかくの料理が冷めてしまいますから、ごはん食べましょう? ロック鳥のお肉、まだ、たーーーーっぷりありますから、スカイト領の皆さんも食べて行って下さいね」


混乱した現場にエマが一石を投じる。

と、いうかせっかく百二十秒以内に捌いて湯に浸けた美味しいロック鳥が冷めていくのが勿体なかった。


「ロック…………鳥を? ………食べる?」


「うふふ、とっても美味しいのですよ? はい、あーん」


「へ? あーん……!! モグっ……!!」


エマが普通の精神状態でないスカイト領、領主の口にロック鳥の肉を入れる。


「「「「「!!!!!!!!!?」」」」


エマの奇行に周りにいた全員が驚く。

特に王子は羨まし過ぎて愕然としていた。


「! う、美味い………」


「「「「!!!!!!!?」」」」


誰もが貴族婦女子の地獄の料理の味に期待をしていなかったので食べた領主の感想に更に驚く。


「美味いのか!?」


国王が真剣な顔で領主に尋ねる。

晴れて毒見役をしなくてすんでいた。


「は、はい。鶏に似ていますが、柔らかく、それでいてジューシー。この刺激的な味付けは初めてですが、癖になるというか……」


口にあった肉の味を思い出しながらも、領主は目の前の少女から目が離せなくなっていた。


「あ! またか!? またこのパターンなのか!?」


いち早く気付いたゲオルグが頭を抱える。


「あ! スカイト領の領主。隻腕の背中で語る系イケオジだ! ……姉様、あの緊迫状況でも狙ってたんだ!」


ウィリアムが長年スカイト領を率いてきた、逞しい中年男を枯れ専の姉が放っておく訳がなかったんだとわなわなと震える。

なんて、なんて性能なんだ……枯れ専サー!


「もう、大丈夫ですよ? ここは安全です。お腹がいっぱいになれば気持ちも休まると思います。そうしたら、我がパレス領の魔物狩り用の武器をお見せしましょう。今日幾つか持ってきてますから。辺境同士、助け合いましょう」


エマはそっと隻腕の背中で語る系イケオジの汗をハンカチ(エマシルク)で拭う。

弱ったイケオジも、大好物だし、ごはんを食べるイケオジも大好物だし、寛ぐイケオジも、仕事の話をするイケオジも大好物なのだ。


さらに、辺境への武器販売。

今まで気付かなかったが、中々実入りの良い儲け話ではないか。

ヴァイオレットの糸も、定期的にポロッと落ちる猫達の爪もひげも魔物狩りの武器としてかなり需要がある。

ヨシュアにもいつもお世話になっているし、新しい販路開拓の提案をしてあげようかな。


イケオジ+儲け話で思わずにっこりとエマは満面の笑みを領主に向ける。


「っっ! ……てん……し? はっ! これが本物の、聖女!?……なのか?」


おじさんホイホイは、どんな状況にあっても正常に作動するのであった。




ピンチ「俺に言いたい事ってなんだ? シリアス」

シリアス「コミカライズ「田中家、転生する。」第1巻がついに、7月5日に発売だ」

ピンチ「な!? なんだとー!! 大ニュースじゃないか!」

シリアス「コミカライズ「田中家、転生する。」第1巻がついに、7月5日に発売なんだ」

ピンチ「何で2回言うんだ……はっ大事なことだからか!?」

シリアス&ピンチ「「コミカライズ「田中家、転生する。」第1巻よろしくお願い致します」」


コメディ「いやぁ、めでたいな!」 

ラブコメ貴腐人「あら、あなた? 何か忘れてませんか?」

コメディ「え?」

ラブコメ貴腐人「もう、仕方のない人。ではわたくしから……小説の「田中家、転生する。3」も8月5日に発売決定いたしましたのよ? 小説の「田中家、転生する。3」も8月5日に発売決定したの」

コメディ「そうだったな!! なんか3巻はめちゃめちゃ文字数多くて作者がヒーヒー言ってたやつな!」

ラブコメ貴腐人「お黙りなさい!」


20日後に梅酒飲む作者「皆様、いつも「田中家、転生する。」を読んで頂きありがとうございます。コミカライズ1巻と小説の3巻どうかよろしくおねがい致します」


シリアス「そういえば本編はどうなったかな………」

ピンチ「あっ、こらシリアス! 今日のは……危険!」

シリアス「ぐはぁ! なんじゃこりゃぁあぁぁぁ! ゲホっ、ググ……ガクゥ……」

ピンチ「シリアス? シリアスゥーーーーーーーー!」

シリアス「あとは……頼んだ……ピ……ンチ」

ピンチ「はっ! シリアス、嘘だろ、お前………告知のためだけに生き返らされたのか………?」


30日後に梅酒飲み終わる作者「(コソ)今回3巻のイラスト……猫たちが最強に可愛いので楽しみにして下さい」


コメディ「あとがき長くね?」

ラブコメ貴腐人「お黙りなさい!」


 

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― 新着の感想 ―
よく見たら、ラブコメさんって腐ってらっしゃるのね。⋯どこに腐敗臭が⋯??
そっか、ヨーグルトに浸けるのか、忘れてたー。 オワタの残骸で窯を作ってタンドリーチキンとナンを焼こう! あ、海水がない?
[良い点] 何が恐ろしいって、アーバン叔父さんには……………田中家入ってないのにアレなんですよね………
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