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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と帝国の暗躍
152/198

貴族婦女子の地獄(?)のクッキング。

誤字脱字報告に感謝致します。

ガタンッ。


「それは……間違いないのだな?」


狩人からの報告にスカイト領の領主は思わず立ち上がる。


「はい。見た者は魔物の同定には定評のある狩人でしたので……どう、しましょうか、領主?」


緊急の見張りからの報告に狩人達に激震が走った。

夕食にありつこうと食堂に集まっていた彼らは一斉に領主の元へ急ぐ。

一刻を争う事態だった。


「今、森の前には学園の課外授業の参加者がテントを張っております。ま、毎年のことながら国王陛下も一緒に過ごされている筈です」


「ご、護衛の騎士もいると聞いてますがっ! 騎士では……」


「よりによって何故、今日なんだっ! 明日からの課外授業に備えて、今夜は自宅で過ごしている狩人が多い……人手がっ」


「落ち着け。とりあえずすぐに出発するぞ。出られる者は全員呼び出せ、盾を多めに持っていくぞ!」


「「「は、はい!」」」


動揺する狩人達に領主が指示を出す。

魔物の出現が増えているとはいっても森に入らなければ大丈夫だろうと油断した。

我がスカイト領内で、国王陛下に怪我でもさせたとなると大変なことになる。

一介の領主が取れる責任にも限界がある。

ましては今回は第二王子も参加している。


「領主……陛下と殿下、大丈夫ですよね?」


狩人が不安そうにこちらを見る。


「大丈夫でなければ、我々の首が飛ぶだけだ」


スチュワート家が派閥争いに参戦してからは第二王子派の数は着々と増えていると聞く。

王と第二王子が立て続けに魔物に襲われたとなれば陰謀論を唱える者も出てくるかもしれない。


「領主……陛下と殿下……まだ、生きてますかね?」


別の狩人が不安に押しつぶされそうにこちらを見る。

狩人の誰もが頭をかすめた懸念。


「そう、祈るしかないだろう。引率で魔物学と狩人の実技の教師もいるのだ……なんとか……」


分かっている。

気休めだと。


なるべく早く現地に着くこと以外で、我々は神に祈ることしかできないと。


こんなことになるならば、課外授業の受け入れを断るべきだったのだ。

この一年で明らかに魔物が増えた。

それ故に、領の財政は急激に悪化した。


武器は消耗品。

命をかける狩人は安い賃金では雇えない。

狩った後も魔物によっては処理が必要になり、それ専用の業者もタダではない。

魔物の出現が増えれば増えるほど、狩人は疲弊し経費は嵩む。


課外授業を受け入れた領には、支度金が出る。

スカイト領で領民が冬を越すためにそれがどうしても必要だった。


「父様! 話は聞きました!! 俺も行きます!」


「カイト! 何を馬鹿なことを!?」


課外授業のキャンプ地へと馬に跨ったところで、息子のカイトが追い付いた。


「人手はあった方が良いはずです! 大丈夫です。俺もやれます! スチュワート家の長男は俺よりも三つも下ですが、既に魔物狩りに行っていると言っておりました!」


「カイト、よく聞け。辺境の領地は場所ごとに魔物の種類が違う。あんな子供が狩りに出るくらいだ。スチュワート領ではそこまで危険な魔物は出現しないのだろう」


「父様!」


一大事に役に立ちたいと思う息子の気持ちも分かる。

しかし領主の兄弟は皆、魔物狩りで命を落としている。

カイトは一人息子だ。

後を継ぐ唯一の大事な息子。


「私に何かあった時、誰がこの領を守るのだ? お前は、残れ!」


「嫌です! 父様が魔物に腕を食われて帰った日……あんな、あんな思い、二度とごめんです!」


カイトは領主の静止を振り切り、課外授業のキャンプ地へと馬を走らせる。


「カイト! 頼む、待て、お前まで失う訳にはっ!」


「領主、このままではカイト様も……」


「追うぞっ! あいつにはまだ無理だ!」


 ◆ ◆ ◆


一方、スカイト領、領主と狩人達の心配をよそに課外授業キャンプ地は夕食の準備が整いつつあった。

食事の用意をするメイドも周囲を警戒し警護する護衛も生徒も、国王も王子もチラチラとスチュワート家の張るテントを盗み見ている。


………でかい。


誰もが避ける森に一番近い位置をわざわざ選んで建てられたスチュワート家のテント。

野営用とは思えない大きさにも驚くが、何より不思議なのはその大きさのテントの設営に一時間もかかっていなかったことだ。

一片を馬車と連結し、細い支柱と布だけでいとも簡単に組み立てていく様子に皆、目が離せなくなった。

あの支柱だけで、テントが立つのか? いや、折れるだろう?  あの大きな布の重量を支えられる筈がない。


初めは心配そうに見ていた周囲の人間は、設営が進むにつれ驚愕の表情へと変わる。


そもそも、護衛として連れて来ただろう槍と弓を持った二人の男達がポカンと立ち尽くしている間に、スチュワート伯爵と息子のゲオルグがテント設営しているのだから訳が分からない。

そして、王国の頭脳にして至宝とまで謳われたアーバン・スチュワート博士はせっせと水汲みをしている。

オカシイだろう?


更にはテントの手前で伯爵夫人&令嬢が調理(どう考えてもおかしい)している鍋からは嗅いだことのない刺激的な香りがキャンプ地を覆っている。


「ふふふ、ヨシュアが課外授業参加できないからって外国の魔除けの効果がある粉をたくさん持ってきてくれた時は、そんな迷信的なものはいらないって思ったけど……」


エマは鍋をかき混ぜながら笑う。

においがにおいだけに、周囲には良くない薬でも作る魔女さながらな姿に見えていることに気付いていない。


「……スチュワート家の夕飯大丈夫だろうか?」


「普通、令嬢は料理なんてしないものな……なんだ、あのにおい。嗅いだことのない何かができあがってるぞ?」


「お、おい、誰か止めなくて良いのか? さっきの魔物も野菜と炒めて鍋の中で一緒に煮てたぞ?」


「あっ、ちょっ! エマ様があの物体Xを味見してるぞ!? ただでさえ体が弱っているのに……最悪死ぬぞ!?」


王国ではカレーを食べる習慣なんてなかった。

誰もカレーを知らなかった。


「魔除けの粉がまさかターメリックにクミンにコリアンダー、レッドペッパーにオレガノ、パプリカ、ブラックペッパー……各種諸々のスパイスだったとは思いませんでした」


カレー担当のエマの横でメルサが漬け込んだロック鳥の肉を焼いている。


「あのっ。メルサ様、助かりました」


フランチェスカがおずおずとメルサに礼を言う。


「母に体に良いから持っていけと言われたものの、一人で食べ切れそうにないと困っていたのです」


デラクール家の持つ領地の一つに、酪農が盛んな領地があり毎月のように乳製品が届くので家族だけで消費するのも一苦労だった。


「こちらも助かりました、デラクール嬢。まさか大物のロック鳥が狩れるとは思ってなかったので……調味料として使わせてもらったわ」


ジュージューと香ばしい香りにメルサの口元に笑みが溢れる。


「お、おい。スチュワート伯爵夫人……魔物肉に魔物除けの粉を入れてなかったか?」


「入れるどころか……大量投入して漬け込んでたぞ?」


「さらにフランチェスカ様も……基本そのままで食べることしかしないアレを調味料に提供して……誰かとめてくれ! 貴族婦女子の地獄のクッキングを! せめて、せめて一人、何故メイドを連れてこない!?」


周囲のざわめきは全てスチュワート家に向いていたが、本人達は目の前のテント設営や調理に集中していて気付かない。

戦々恐々と周りが見守る中、貴族婦女子の地獄のクッキングは完成し、貴族婦女子の地獄のディナーが始まるのであった。




ピンチ「タッ○ラプト ポッポ○ンガ プピリッ○パロ!」

シリアス「はっ! 俺は一体……」

ピンチ「シリアス! 良かった! 生き返ったんだな!?」

シリアス「ピンチ? 何があったんだ?」

ピンチ「調子に乗りすぎたんだよ! シリアス! これからはもっと慎重に、慎重に生きるんだ!」

シリアス「ピンチ、俺、お前に言っておかなければならない事がある」

ピンチ「!? おい、シリアス! おまっそれ死亡フラグ……!」


20日後に梅酒飲む作者「やべっ、スカイト領の息子さんの名前……カイト・スカイトじゃん……ダサっ……」


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― 新着の感想 ―
次は超ドラゴ〇ボールを集めて-------チョンマゲって言わないといけないのか…
ヨシュア来てなかったかー。じゃあもう一人は誰だー? 魔除けの粉はまさにガラムマサラじゃんw バターチキンカレー?でもバターを単品で食べるのかしら? 考えても考えてもかわされてしまう感がおもしろいー。
[一言] スカイト領主が騒いでる件はロック鳥のことでしょうか、そうだったらシリアス君が危ない!上げてから突き落とされます!! カレーをはじめて食べた人はすごいですよね
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