猫と遊ぶ。
誤字、脱字報告に感謝いたします。
「にゃ?」
「そうそう」
「!?」
「にゃー?」
「うんうん上手だよ!」
「??」
「にゃにゃ?」
「ふふふ」
「!?」
「うにゃ!」
「よしよし」
「???」
広い広いスチュワート家の庭でエマとヴァイオレット、猫四匹。
あと、ウデムシ達が何やら楽しげに遊んでいる。
カサカサカサカサカサカサ。
「ひぃ!」
ヨシュアについてスチュワート家を訪れたカルロスが悲鳴を上げる。
「わっ若旦那!? あれは……一体……?」
巨大な猫、巨大な蜘蛛、巨大な超気持ち悪い虫(群)。
驚愕の波状攻撃にどれから突っ込めば良いのか分からない。
「ちょっ? 若旦那?」
一緒にいたはずのヨシュアは、エマと猫と蜘蛛と超気持ち悪い虫の群れに突き進んでゆく。
「いや、マジかよ……」
若旦那ことヨシュアがエマにゾッコンなのは全商会員が知っているが、よもやあの虫の群れを見ても怯まないなんて信じられなかった。
「エマ様! ご注文の品を届けに来ました」
巨大な虫をかき分けてヨシュアはエマのいるところまで到達する。
「あ、ヨシュア!」
「にゃにゃにゃ!」
「……何を作っているのですか?」
虫の群れに隠れていたが、エマ指示の下、猫達が地面を均している。
「ここに、オワタで塔みたいなの建てようかなって思って」
皇国から帰国時にこっそりと真夜中に運び込まれたオワタの成れの果てを使って、何やら建設するつもりらしい。
エマ現場監督指示のもと、綿密に引かれた設計図(前世建設業のゲオルグ監修)を覗き見ると塔というよりも巨大な筒状の何かのように見えた。
「コーメイさん地面はしっかり固めてね」
「うにゃ!」
しっかりと基礎工事された地盤に、ウデムシが隙間なく並べたオワタの欠片を猫達が肉球で押し込んでいる。
「塔……ですか?」
「そう! これから、ドーナツ状に壁をぐるりと作るつもり。オワタでできた塔、名付けてオワッタワーよ!」
エマがドヤ顔で塔の名前を告げる。
ネーミングセンスの無さは父親のレオナルドからの遺伝だろうか。
「…………なるほど、面白いです。皇国で住宅をオワタで建てた時の応用ですね」
缶詰工場を整備している間にスチュワート家は村を作る勢いだったのでヨシュアの驚きも大きくない。
猫もウデムシもヴァイオレットも慣れたもので、熟練の大工よりも仕事が早い。
ぽにぽにと可愛い音に反してえげつなく地面はオワタの欠片が埋め込まれ、平らになっていった。
塔ができたらお昼寝用のベッドにするんだにゃ。
寝心地良くするために頑張るにゃ! とコーメイさんも精を出す。
カサカサ、カサカサカサカサ。
「ウッ君達もしっかりね?」
カサカサカサカサ!
エマの頭よりも高く積み上げられる予定の壁を作るために、ウデムシ達が大量のオワタの破片を運んでいた。
ヴァイオレットを頭に乗せたエマは遠くまで見渡せるようで、ヨシュアには目視できないウデムシにも指示を飛ばしている。
「皆が頑張ってくれるから思ったより早く完成しそう♪」
学園で死にかけていると噂されているエマは、ご満悦と言わんばかりにニコニコ笑っている。
「エマ様ーーー! このシーソーとトランポリンどこに置きますかぁーー?」
ウデムシの群れに近付きたくないカルロスが大声で叫んで、庭の中まで荷馬車を使って持ってきた商品を指差す。
「あー……シーソーでは無いんだけどね。ウッ君達、アレ両方とも運んできてくれる?」
カサカサカサカサカサカサ!
エマのお願いを聞いてウデムシが数匹、カルロスの方へと向かう。
ほぼほぼ、猫の通訳もなく、意思疎通できるようになっている。
「ひっ! ヒイィィ!」
1メートルを超える虫が迫りくる恐怖にカルロスは悲鳴を上げた。
「カルロス、虫も慣れると可愛いぞ」
「んな訳あるかーい!」
ヨシュアの忠告には断じて同意できなかった。
まず、何で猫も虫も異様にデカいか納得のゆく説明をしてくれ、話はそれからだ。
恐ろしいことに馬2頭ずつで引いた荷を、ウデムシは難なく運んで行った。
◆ ◆ ◆
「うっにゃっーーーーーーーん!」
ロートシルト商会に頼んで作ってもらったトランポリンで黒猫のかんちゃんが空高く跳ねる。
特別製の巨大トランポリンは皇国で美味しく食べたアーマーボアの皮を使っており、猫が遊んでも大丈夫な強度を実現した。
「にゃ!」
「っにゃっち!」
カルロスがシーソーと勘違いしたのはボールを飛ばす装置だった。
見た目はほぼシーソーである。
板の端にボールを置き、リューちゃんがその反対側の板をたしんと勢い良く打てば、反動でボールが天高く飛び上がる仕組みだ。
この板もオワタの破片でコーティングしてあり、強度を増してある。
飛び上がったボールを待ってましたとチョーちゃんがキャッチして遊んでいる。
「楽しい?」
「「「にゃーーーん♪」」」
「皇国から帰ってから運動不足だもんね」
「うにゃ!」
「かんちゃんトランポリンに爪立てたら駄目だよ?」
「うんっにゃ!」
エマの忠告に、かんちゃんが跳ねながら返事をする。
ずっと跳んでいる。
相当気に入ったようだ。
「………………いや、え? え? ナニコレ?」
カルロスが自分の目を疑う。
シーソーもトランポリンもロートシルト商会の技術の粋を集めた特別製だ。
それを猫(?)の遊具だ……と……?
「あれ? あれ?」
久しぶりにスチュワート家のエマに会いたいと、カルロスは半ば無理やりヨシュアにくっついて来ていた。
エマとは三年振りに会うので、大人っぽくなっているかな? なんて楽しみにしていた……が、それどころじゃなかった。
いや、まあ、いくらか身長も伸びたし、あの頃よりも会話が成り立つし、見た目も中身も成長はしていたが……そういうことじゃなかった。
伯爵令嬢が大工仕事。
おかしいだろ?
巨大な猫が四匹。
おかしいよな?
紫のでかい蜘蛛。
おかしいよね?
さっきからウッ君って呼んでるあれは幻の特効薬になるウデムシ群(巨大)?
帝国に何度も頭を下げて輸入させてくれと頼んだ薬になる虫!?
俺が俺の目がおかしいのか?
急に俺が小さくなったのか?
「ちゃんと順番決めて交代で遊ぶのよ? ケンカしないでね」
「にゃーい!」
カサカサカサカサカサカサ!
完璧に意思疎通できている。
目の前の光景に、慣れるとか人類には無理な注文だろう?
「……な、なあ。エマ様? どうなってんですか、コレ! アレも! ソレとどうなってんですか!?」
「ふふふ、カルロス何をアタフタしてるの? 見て、猫達楽しそう♪」
納得の行く説明なんて、してもらえることの方が少ない商売だとは常々諦めて、酸いも甘いも嚙み分けてきたカルロスだったが、今日だけは、今日だけは教えてほしいのであった。
「ふふふ、カルロス見て、ウッ君達もトランポリンで遊んでる! ウッ君達ー! 気を付けて! みんな脚取れやすいから!」
カサカサカサ!
「ふふふ、私もトランポリン跳んでみよっと♪」
「にゃ?」
その賑やかな光景を、見守るコーメイとヨシュア。
不意にヨシュアがコーメイの背に体重を預ける。
重みを感じてコーメイが振り返ると、ヨシュアが震える声で呟いた。
「よかった。エマ様が笑ってる」
コーメイに寄りかかったまま、安堵の涙を隠すように顔を覆う。
よかった。
ずっと心配だった。
心配で、満足に眠れなかった。
もう、あの笑顔が見れなくなってしまうのではないかと。
それ程の、危機だったとヨシュアは感じ取っていた。
「コーメイさん、ありがとうございます。僕の大切なエマ様の笑顔を守ってくれて……」
「うにゃん!」
そんなことヨシュアに言われるまでもないにゃ! と猫は反論する。
「にゃ?」
安心したのか、極度の睡眠不足に脳が強制的指令を出したのか、コーメイのモフモフに誘われたのかヨシュアはそのままの体勢で吸い込まれるように眠りについてしまった。
「うにゃ……」
仕方ないにゃとコーメイは起こさないようにヨシュアを自身の体で包んでやる。
今回はこいつも頑張ったみたいだしと。
「あれ? ヨシュア寝ちゃったの?」
エマが気付いてコーメイに尋ねる。
「にゃーん」
「そっか、じゃあ私もお昼寝する!」
学園をサボって猫と昼寝なんて贅沢極まりないねと嬉しそうにエマは笑うとヨシュアの隣にモフっとコーメイにダイブする。
「うーん、モフモフ♪ これは誰でも寝ちゃうね?」
「にゃ!」
目覚めたヨシュアは、今日が今まで生きてきた中でも最良の日だったと確信することになる。
まだ、事件は始まってないのに、解決した感……。
ラッラブコメ女史が重い腰をついに!
上げ……ない。




