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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と帝国の暗躍
143/198

第六回田中家家族会議。

誤字脱字報告に感謝致します。

「言われちゃいましたね、殿下」


三兄弟を学園の裏口に待機していた馬車まで見送り、王城に戻ったエドワード王子にアーサーが気まずい顔で話しかける。


「……ああ」


動揺しているエマを心配し、屋敷までついていこうとした王子にヨシュアが放った一言を思い出す。


「殿下、王家はフアナ様についてもう少しお調べになるべきでした。あの髪色と瞳の色で国王の御落胤だと言われてしまえば、臣民は何も言えません。教会が突如として聖女認定した理由も、認定された上で帝国の正使が連れ帰らなかった説明も何もありませんでした。明らかにおかしい事案なのにです」


国王を追及できる者など王族くらいだというのにその手間を惜しんではいなかったかと。


痛いところを突かれた。

身内の不貞疑惑なんて積極的に首を突っ込みたくはないと、自分も冷たい目で国王を睨んだ程度で済ませてしまった。

ヨシュアの言うとおり臣下は臣下で忖度し、この件に関して強く言及する者はいなかった。


「返す言葉も出なかった。あの時、フアナ嬢が現れた時、何故私も詳しく調べようとしなかったのか……今冷静に考えれば不思議でならないんだ」


面倒なことになったとはたしかに思った。

思ったまま、何もアクションを起こさなかったのは怠慢だった。

ろくに調べもせず、王家はフアナ嬢を保護し学園にまで通えるように手配した。

こんな対応はおかしい間違っていると、どの段階でも声を上げる者は現れずにここまで……エマが酷い噂に心を痛めて倒れるまで放置された。


体の弱い繊細なエマに何があったのだと問うなんて……。



「アーサー」


「はい」


「フアナ嬢について徹底的に調べさせろ。王都へ来る前に住んでいたスカイト領にも人を送れ。教会にもだ。フアナ嬢には気付かれないように監視をつけろ」


もう、遅いかもしれない。

でも、やらないよりはマシだ。

ヨシュアに言われたままをなぞることに反発したくなる気持ちもあるが、ぐっと堪える。

その気持ちはエマを守るのに、必要ない。邪魔なだけだ。


「殿下の仰せのままに」


アーサーはスッと臣下の礼で王子に応え、そのまま退室する。

幼馴染みとして育った王子の苦い表情に気付かないフリをして。


ヨシュアに言われるまで間違いに気付けなかったのは、アーサーも同じだ。

いや、全員だ。

この、王国を動かしてきた優秀な者全員が揃いも揃って間違えた。

そんなことは有り得ないはずなのだ。


まるで操られていたとしか考えられない。


◆ ◆ ◆


「今週は休みなさい」


家族でナポリタンを平らげた後、再び西館に戻り家族会議を開いた。

議題はとにかくどうしよう……だ。

娘を溺愛するレオナルドが何かあってからでは遅い、心配だからと学園は休むようにと伝える。


「にゃーん♪」


学校が休みなら一日中エマと一緒にいられるとコーメイが嬉しそうに鳴く。


「そうね、今の何もわからない状態でその港そっくりの令嬢と鉢合わせするのは避けたいものね」


珍しく教育に厳しいメルサもレオナルドの言葉に頷いた。

状況が掴めていない時に動くのは得策でない。


「で、ですがお母様、お兄様の勉強は大丈夫なのですか?」


学園を休む不安要素はゲオルグの学力である。

自分が大袈裟に怯えたせいで兄の学業に支障が出ては困るとエマがコーメイに再びくるまられながら訊く。


「心配はいりません。ゲオルグには、私がみっちりマンツーマンで教えます。今日から」


かつて学園の才女と謳われたメルサの目が光る。


「きょっ今日から!?」


今日はすでにぐったりするまで勉強したのにとゲオルグが嘆く。


「勉強した時間の分だけ、身に付くのです。一分一秒無駄にはできません」


ゲオルグの勉強を見るためにお茶会に行く予定は全部キャンセルしましょう……とメルサは気合い十分だ。


「ひえ……」


折角休みでも地獄の日々が待っていることになったゲオルグが頭を抱える。

週に一度の古代帝国語の授業ですらあの状態なのに、付きっきりで母からのスパルタ教育は絶望しかない。


「兄様には勉強を頑張ってもらうとして、これからどうするか……ですよね」


話が逸れたのでウィリアムが軌道修正する。

前世の姉そっくりのフアナ嬢は一体何者なのか。


「向こうから何かしてくるにしても、こちらから動くにしてもまずは情報が欲しいわ。なんにも知らないもの」


せめて判断材料となるものが欲しい。


「では、まずはフアナ嬢について調べるのが先決ですね。色々謎も多いですし。でも、まあ、これは多分グー◯ル先生……じゃなくてヨシュアがもう、光の速さでやってくれているはずだから、待ってればいいので……」


「「だな」」


「「そうね」」


基本、面倒なことはヨシュア任せな一家である。

さすがにヨシュアにも家族全員に前世の記憶があることは言っていないので今、家族で話し合える議題は一つ。


「で、そのヨシュアでも見つけられない情報で、フアナ嬢がみな姉にそっくりって点なんですが……僕としては、そこにひとつ疑問というか……腑に落ちないというか……」


ウィリアムが引っ掛かっていることがあるのだとゲオルグとエマを見る。


「ああ」


「え? 何?」


ウィリアムの言葉にゲオルグが頷き、エマが首を傾げる。


「姉様……何って……。見た目がまんまみな姉だったのにですよ? 学園の生徒達は誰もおかしいなんて言ってなかった……。おかしいでしょ? だってみな姉、アラフォーですよ? アラフォー。学園でアラフォーが制服着てるんですよ?」


そう、フアナの姿は少なくとも港の若い頃ではなかった。

学園には魔物学が合格できずに三十歳を超えても在籍している生徒もいなくはないが、それは全て跡取りの令息に限ったことである。

学園に通う令嬢は十代~二十三歳くらいまでだ。


「アラフォー、アラフォーうるさいな……。ウィリアム、それだけ前世の私が若く見えたってことでは?」


「無理があります。何せアラフォーですからね」


コスメオタクな港のアンチエイジングへの情熱がしっかりと効果として現れた結果だとエマが全部言いきる前にウィリアムがぴしゃりと否定する。


「でも、私スーパーでお酒買ったときに年齢確認されたことあるもん。二十歳過ぎないと売れませんって!」


「いやいやいやいや、それはレジの人の視力の問題です。調子に乗らないで下さい姉様」


ロリコンだけにウィリアムは少女判定には厳しい。

アラフォーは決して少女にはなれない。


「十代ですよ? 若い肉体、瑞々しい肌、清らかな心、溌剌とした雰囲気……。所詮アラフォーにはない魅力、アラフォーにはない純粋さ、アラフォーにはな……!」


ウィリアム(ロリコン)が熱弁の途中で、ひやりと冷たい視線に気付く。


「ウィリアム、ケンカなら買うわよ?」


度重なるアラフォーの連呼にエマがキレた。


「エマ、加勢するわ」


現在、絶賛アラフォーのメルサも静かにキレていた。


「にゃ!」


いつでもエマの味方のコーメイ。


「にゃーん!」


推し猫として、言って良いことと悪いことを教えなくてはとリューちゃんまでが加勢する。

ウィリアムはうっかり田中家女性陣を敵に回したことを悟った。


「えっと……あの、僕は客観的事実を……うわっごめんなさい! 投げないで! 姉様、テーブルにあるもの片っ端から投げるのやめて! 落ち着いて! って母様! 辞書は止めて! ちょっ! コーメイさん! 嘘、リューちゃんまで……うわっごっごめんなさいー」


エマがテーブルに置いてあるあれやこれやをウィリアムに向かってきれいなフォームで投げつける。

メルサはどうせならこれなんてどうかしらと分厚い辞書をエマに勧めている。

コーメイとリューちゃんはもふもふの肉球からシャキンと爪を出している。

目が本気だった。

威嚇だけでもう強い。


「お、落ち着けエマ。母様も! ウィリアムも悪気があった訳じゃないんだ。さすがにアラフォーをティーンとは誤魔化しきれないだろ? どう見ても明らかに違ったのは事実……だ……し……?」


辞書が投げられる前にとゲオルグが間に入る……が、一言二言多かった。


「……あら、ヴァイオレット。そうよね失礼極まりないわよね? ……ウデムシ達も呼ぼうかしら?」


「お、おい、それはヤメロ!」


「ごめんな……たっ大変申し訳ございませんでしたぁ!」


「にゃにゃにゃ♪」


スススっとエマの頭にヴァイオレット(雌)までもが上ってきて加勢する。

さらに、ウデムシまで呼ばれたら一国の軍隊を凌ぐ戦力が集結することになる。

青くなるゲオルグとウィリアムとは対象的に、エマが活力を取り戻した姿にコーメイが嬉しそうに鳴く。


「どーしようかなー? ね? コーメイさん!」


「うにゃにゃーん♪」


エマの笑顔のためならウィリアムの一人や二人、秒でお仕置きしてくれそうだ。


「お、おい。ウィリアム早く謝れよ」


「兄様、僕、途中からずっと謝ってます……てか、フアナ嬢が何者でも多分うちの女性陣の方が確実に強いと思う……」


絶対、フアナ嬢の方が怖くない。

かんちゃんに助けてと目で訴えるも、自分、勝てないケンカはしにゃいにゃんとでも言うようにペロペロ顔を洗っていた。

チョーちゃんはレオナルドにブラッシングしてもらって緊迫したこの中でも至福のお昼寝中。


「と、父様! なんとかして下さい」


男性陣営の士気の低さに絶望しながら、ウィリアムが叫ぶ。


「あなた?」


「お父様?」


メルサとエマの視線がレオナルドへと移る。


「まあ……たしかに、学園の若い生徒に混じって港がいたら、目立ってしまうだろうな……」


「父様ぁ……」


「この不利な状況でなんてことを!」


ウィリアムとゲオルグが加勢は嬉しいが、今じゃないと首を振る。


「だって、港は特別可愛いからな」


「へ?」


「ん?」


「あら」


「まあ」


娘溺愛の父親の目は曇りに曇っていた。

それは娘がアラフォーとて変わることはないのだった。


「にゃーん!」


「ほら、コーメイさんも港が一番だって言ってる。ゲオルグ、ウィリアム? 可愛いに年齢は関係ないんだよ?」


「……は、はあ」


「き、キモニメイジテオキマス」


論点はズレているが場は収まった。


「でも、関係ないといっても毎日学園で会っていたら港の大人の魅力は隠しきれないと思うんだ。学生のメルサもすごく素敵だったけど今のメルサはもっと素敵だからね」


「あなた……」


そして、いつものパターン……見つめ合う二人。


「……」


「……」


「……」




家族会議で決まったこと。

今週は学園を休む。


ゲオルグ、ウィリアムが学んだこと。

アラフォー女性を弄ってはいけない。



翌日から三兄弟が学園を休んだ上にメルサが全てのお茶会をキャンセルしたため、エマ瀕死説に信憑性を与えることになってしまうことを家族は知らない。




シリアスさん「王子が唯一の希望」

コメディの旦那「王子は俺の手の内」

ピンチさん「忙しくなりそうだぜ☆」

作者「第六回田中家家族会議……六回?……六回?」


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― 新着の感想 ―
ローズ「あら?私はアラフォー?なのかしら?」 私失敗しないのでの女医の中の人「私、35歳の女子高生やってましたけど?」
[良い点] 歳をとるということは魅力を重ねるということです 決して卑下することではありません [一言] それはそれとして年齢をイジるのは私刑だと知らないことに問題がある だから転生してもロリコンって言…
[一言] ピンチ『コメディ師匠!!!次の仕込みが完了致しました!!!(≧∇≦)ゞ』 コメディ師匠『宜しい!!!(●`ω´●)では手はず通りに』 シリアス『えっ?!?!ちょっ?!?!おまっ!!!王子にア…
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