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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と帝国の暗躍
139/198

姿。

誤字、脱字報告に感謝致します。

「やあ、ヨシュア君。なんだか久しぶりに会うね?」


午前の授業が終わり、王城へと向かう王子とその護衛のアーサーが前を歩いていたヨシュアに気付き、声をかける。

皇国から帰国した彼と面と向かって顔を合わせた数は数える程であった。


「アーサー様、お久しぶりです。殿下はこれから公務ですか? いつもお忙しそうで頭が下がります」


ヨシュアは呼びかけに振り向きアーサーに返事しつつ、王子に臣下の礼をする。


「忙しさではお前も私と大して変わらんだろう? あまりにも商会への苦情が酷いなら王家からも働きかけるが?」


礼を解きつつ、エドワード王子も学園を休みがちになっているヨシュアを気遣う言葉をかける。


「そんな、王家にお手数をかけるなんて畏れ多いことでございます。少々バタついてはおりますが、これも仕事のうちですから」


一見、和やかに会話しているようだが、二人の間にはバチバチと火花が散っていた。

王家も商人も聖女フアナの出現により、多忙を極めている。

両者忙しさには慣れているものの、エマに会う時間が減ることにおいては相当なストレスを抱えていた。


異世界で聖女が現れる。

普通に考えれば喜ばしいことだが、この二人にとっては迷惑でしかなかった。

王子は聖女に一目惚れすることもなく、商人は聖女を崇めることもなく、ただ、ただ、忙しい仕事の量を倍増させるだけの人間という認識しかない。

二人の関心はたった一人に向けられているのだから。


「では、自分はこれからエマ様の許へ向かいますので、お二人も道中お気をつけて」


スッと貴族になったばかりとは思えない美しい所作でヨシュアは礼をする。


「…………ああ」


顔を上げれば悔しそうな王子の顔。

今週、ヨシュアが出席できなかった魔物学の授業で殿下がエマ様の隣の席に着いたと情報は入っている。

チクリと小さく牽制するくらいは許されるだろう。

恋のライバルが王子でも、怯むようなヨシュアではない。


そこへ、


「ヨシュア! エマさ……」


「案内しろっ!」


シュンと気配なく、急にエマに付けていた筈のヒューが現れた。

三兄弟とヨシュア以外の人間がいる前で姿を現すなんて緊急の用件に他ならない。

そしてヨシュアは、ヒューの口がエマの【エ】を発した瞬間には被せて答え、走りだす。


「…………瞬発力、パネェ……」


廊下に一人、アーサーが残されて思わず呟く。

急に現れた少年に護衛として身構える前に、ヨシュアに続いて王子も走り出していた。

フットワークの軽さに驚きつつも、二人の想いの重さにやや、いや、しっかりとどん引く。


「っと、護衛をおいていくなんて困った殿下だねえ……」


ふはっと一笑してから、アーサーも見失う前に走り出した二人を追いかける。

一瞬現れた少年の姿はまた、見えなくなっていた。


「……これは、また、説明してもらわないとだな……」


ちょっと聞くのが怖いけどね……と口許に笑みを浮かべたまま、アーサーは冷や汗を拭った。


◆ ◆ ◆


「エマ様!!」


「エマ!?」


ヨシュアと王子は渡り廊下の中程で三兄弟を見つける。

エマはガタガタと震える体を抑えようと自分を抱くようにしゃがみこんでいる。

ウィリアムはずっとぶつぶつと何やら呟いていている。

そんな、妹と弟を庇うように肩を抱いたゲオルグは真っ青な顔で辺りを警戒している。


「何があったのですか?」


「エマ? エマ? 大丈夫か?」


ヨシュアと王子は三人に駆け寄り、声をかけるも明確な答えは返ってこない。


「下で聖女が綿を配ってたんだけど、それを見た途端にこんななっちまったんだ!」


シュンとまた、ヒューが現れて状況を説明する。


「エマ様? エマ様? 僕の声が聞こえますか? 怪我は?」


エマの顔の高さに合わせるように跪き、ヨシュアはエマを呼ぶ。


「……ヨシュア?」


目の前で何度も呼ぶヨシュアに気付いたエマが助けを求めるかのようにドンっと勢いよく抱きついた。


「うわっ!」


ヨシュアは、勢いのまま、尻餅はついたがしっかりと震えるエマを抱き止める。


「どうしよう、ヨシュア。 なんで? なんで? あそこにいるの? ねえ? なんで? 私……死んじゃうの?」


ガタガタと震える声でエマがヨシュアにしがみつく。


「エマ様、大丈夫です。絶対に大丈夫です。僕が守ります」


少しでもエマの震えが止まるように、ヨシュアはしっかりとエマを抱く腕に力を入れる。


「ヒュー、馬車の手配を。ここからなら裏門の方が近いな……そちらにまわしてくれ」


「わ、わかった!」


ヨシュアの指示を聞いてすぐさまヒューがシュンと消える。


「殿下……っとアーサー様は、ゲオルグ様とウィリアム様をお願いいたします」


エマの様子に呆然とする王子と遅れて来たアーサーに声をかける。


「あ、ああ」


「これは……何が起こったんだい? ヨシュア君?」


動揺する三兄弟と恐ろしく冷静なヨシュアを見比べ、アーサーが尋ねる。


「さあ……今は何も分かりません。ですが、こんなに怯えているのです。直ぐに最も安全で安心できる場所へ逃がしてあげなくては……」


父親のレオナルド様の元へ。

母親のメルサ様の元へ。

猫達の、コーメイさんの元へ。


一秒でも早く。



「ヨシュア、なんで? なんで? なんで?」


エマは必死にヨシュアに言葉にできない答えを求める。

この世界のグー◯ル先生であるヨシュアに聞かずにはいられなかった。

ヨシュアでも知らないと分かっているのに、抑えることができなかった。



どうして、聖女は、


聖女フアナは、自分と全く同じ顔をしているのか。


いや、顔だけではない。

染めた髪色も、髪型も、体型も全部全部そっくりだった。





そう、聖女フアナは前世の田中港の姿そのものだったのだから。




めちゃくちゃ久しぶりに連投。

(先週更新なかったけど……)


ピンチさん&シリアスさん

「「今年は頑張ります!」」




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― 新着の感想 ―
怖いのは怖いけども、あれ?あんま可愛くねぇとか言われてましたけどw
え…なにそれ怖い
アラサーの港の容姿が若作りしているのを目撃したのでしょうか?
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