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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と皇国
124/198

ダリウス誰です? ダニエル頑張る!

誤字脱字報告に感謝致します‼️

「ダリウス? …………おまえ、ダリウスじゃないか!?」


ロバートは騎士が去った後、その場で何時間も途方に暮れたが誰も助けに来てはくれなかった。

日が暮れて辺りが暗くなる頃、ロバートは仕方なく近くのみすぼらしい村へと歩いた。

そこで、腰の曲がった老婆に声を掛けられた。


「は? ダリウス? 知らねーよそんなやつ。おい、ババア。私を誰だと思っている? 気安く話しかけんじゃ…………」


「そうかい。そうかい。お腹が空いているんだね? 早く家に帰ろうね、ダリウス」


「…………おい。ババア…………おいっ」


老婆に手を引かれ、みすぼらしい村の中でも群を抜いてボロボロの家に招待される。

手を振りほどくことは簡単だったが、しわしわの骨と皮だけの老婆の手はあまりに脆く壊れそうでされるがままについていった。


腹も空いている。

飯くらいは食べてやってもいいか……。


「ダリウス、さぁたくさんお食べ」


ニコニコ嬉しそうに老婆が、食事を運んで来た。


「こんなもの、食えるか!」


老婆が用意したのは具のないスープに、芋の欠片が一つ、これだけだった。


「そうかい。そうかい。嬉しいかい。全部食べていいんだよ。遠慮はいらないからね? ダリウス」


うひゃひゃひゃと変な笑い声を上げて老婆は奥に消える。


「おい! ババア! 肉はないのか? 魚は? いや、パンは? せめてパン、おーい!」


耳が遠いのかボケているのか、老婆の返事はない。


「こんなもの…………うちの屋敷の犬の餌の方がマシじゃないか!?」


ぐきゅうる。

腹の虫が鳴る。

エマ・スチュワートにスライムゼリーを出した時以来の空腹だった。

思えば、牢では三食しっかり食べることが出来ていた。


「………………くっそまじぃ!」


スープはほぼ湯だし、芋は変なにおいがした。

人間が食べるものじゃない。


「ダリウス、ダリウス、お前の部屋は昔のままにしてあるよ。今日はゆっくり休むと良い」


ひゃっひゃっひゃっと老婆は何が楽しいのか笑い続ける。


「は? 風呂は? 客に風呂に入らず寝ろと言うのか?」


ロバートはあり得んと目を剥く。

こう見えてキレイ好きなのだ。気に入りの石鹸がないとしても我慢してやるから風呂の準備をしろと老婆に聞こえるよう声を張る。


「風呂? 忘れたのかい? この家には風呂なんて無いよ。ランスの領主様が風呂は贅沢品だからと、家にあったら風呂税がかかるだろ? この村で風呂のある家は一軒もないさ」


「風呂がない…………?」


老婆の言葉にロバートはショックを受ける。

ただでさえ、牢では体を拭くことしかできなかったのに。


「じゃ、身を清めるのはどうやっているんだ!?」


そろそろ季節が変わり暑くなってくる。

汗を流せないとなれば地獄ではないか。


「一時間歩いた所に池があるからね。そこで体を拭くのさ」


「は? 池? …………一時間!?」


「おやおや、何もかも忘れてボケてんのかい? 明日、案内してあげるから今日はお休み」


うっひゃひゃひゃと老婆はしわしわの顔をさらにしわしわにしてダリウスの部屋を指差す。


「………………嘘だろ? 私が、こんなボロい寝所で寝れるわけ……」


「そうかい、そうかい。懐かしいかい? ゆっくり寝るといいよ」


部屋には木のベッドが剥き出しで置いてあるだけだった。


「おい、ババア! 枕や布団は? 何もないぞ?」


「それも忘れたのかい? ランスの領主様が枕や布団なんかの寝具は贅沢品だからと、家に寝具があると寝具税がかかるんだよ? 風呂税よりは額が少ないから、この村の村長なら枕くらいは使ってるかもしれないね?」


「………………なんなんだよそのくそ領主!」


ロバートの父である。


「これこれ、忘れたのかい? ランスの領主様の悪口を言っていたのがバレるとむち打ちの刑にされてしまうよ?」


領の経営方針は家庭教師から毎日嫌になるほど教えられてきた。

他の領に比べ、ランス領は様々な税制度を取り入れている。

これは画期的な方法で、領民が払うべき税を誤魔化さないために定期的に軍が見回りもしている。

ランス家は四大公爵家なので軍を持つことを王家から許されている。


「………………何なんだよこの領、地獄じゃないか!」


ロバートが将来継ぐ予定だった領である。



◆ ◆ ◆



「………………断る」


ダニエルは、暗い顔でため息を吐く。

社交シーズンに乗じてやって来た帝国の商人を前に、まだ一度も首を縦に振れないでいる。

噂には聞いていたが、今年の綿の生地の値段は法外なものだった。

最悪なことに、質も悪い。

普段から見慣れているスチュワート家が織る絹と比べると天と地の差があった。


不揃いの布目はごわごわと触り心地が悪く、かといって布目がまともなものは倉庫の奥に忘れられていたやつかと疑いたくなるほど黄ばんでいる。

これならまだ、ヨシュアが手配していた麻布の方がマシというもの。

スラムの子供達を使って作らせていると言っていたが、スチュワート家が皇国に旅立つ前に直接機織りを教えていただけに布目は揃っている。


「ロートシルト商会さん。オタクの主な儲けは絹でしょう? こちらばかりが買うと言うわけにはいきませんがね? 帝国だって綿の品不足の中、こうしてかき集めて来ているのですから。誠意というのを見せてもらいたいですな」


でっぷりと肥えた帝国商人はこちらの足元を見るように半ば脅迫じみたことを言い出す。

絹は贅沢品、綿は生活必需品。

どうしても王国側の方が弱くなってしまう。


「まあ、来年は綿の質も戻ると思いますから、ここはこちらの言い値で買っていただけますね? 商売はもちつもたれつですから」


「………………断る」


「っなっ! あんた自分が何言ってんのか分かってるのか!? 」


「帝国商人の誠意とは粗悪品を高く売り付けることですか? 残念ながら、ロートシルト商会はこの粗悪品をお客様に売るような商売をしてないのですよ。絹は買いたいなら売りますが、綿は買いません。うちの求める品質をこの綿は満たしておりませんので」


「もう、いい! アンタのところとは二度と取り引きはしないからそのつもりでいるんだな!?」


ドシドシと大きな足音を立てて帝国商人はロートシルト商会を後にした。


ダニエルは頭を抱える。


「ダニエル様、大丈夫でしょうか?」


心配そうに店の者が声を掛ける。

ロートシルト商会は、貴族から庶民まで王国民全てがお客様だ。

綿が無くては、特に庶民は着る物に困るだろう。

一年ならなんとかなるが、帝国の商人は断る度に判を押したように二度と絹は買わないと捨て台詞を吐いていた。


「……まあ、あれだ。パレスの絹はうちが独占販売しているからな。王国でも他の領の絹とはそれこそ品質が全く違う。これまでパレスの絹を懇意にしていた帝国貴族様が、他の領の絹で満足するなんてことはないだろう」


帝国商人達は、自分達の儲けに走りすぎてお客様の顔が見えてないのだと、不安そうな顔をする店の者に笑いかける。


「そういうものでしょうか?」


「そういうものだよ」


だよな? ヨシュア?

………………じゃないと、ロートシルト商会の輝かしい未来に少々不安が出てくる。


ダニエルとて好きで帝国商人とケンカしている訳ではない。

先程、誠意と言った商人の言いたいことも分からないでもない。

清濁併せ呑むのが商人でもある。


ヨシュアが皇国出発前に綿の代わりにと用意した麻布。

あれがなければあの粗悪な綿を買っていたかもしれない。


「それにしても、この麻は凄いですね?」


まだ、建物の修復も終わっていないスラムにヨシュアが発注した麻布は、布目も揃い、丁寧な作業で柔らかく仕上がっている。

そして、何よりも。


「こんなに色鮮やかな染色は令嬢のドレス生地でしか見たことがないです」


手間も時間もかけないと難しい鮮やかな染色がなされていた。

中には花の模様や、猫の模様が描かれた不思議な布もある。


「それで、いつも売る綿より安い値段で売れるなんて……ヨシュア様は本当に恐ろしいですね」


社交シーズンだろうが何だろうが、絶対に皇国へ行きますと息子はスチュワート家についていってしまった。

綿の代わりをしっかりと用意してから。

うちの息子は本気を出すと凄かった。

特にエマ嬢が関わると恐怖すら感じるほどに。


「あいつ………王国の庶民がお洒落を楽しむ時代を一瞬で作りやがった……」


安い値段で色とりどりの服。

王国にファストファッションの時代の始まりが訪れることになる。


王国のお話でした。

床で寝ると虫が這ってたりするので、領主の優しさ(?)でベッドは寝具税かかりません。

ハロルドさんのインク活躍中。

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― 新着の感想 ―
スラムが発展して人件費が上がってきたら価格の維持が大変になるという、現実のファストファッションが辿った道をロートシルト商会がどう乗り越えるのか楽しみ♪
染料の値段は考慮されてるんでしょうか? 例え自家栽培だとしても、原材料の希少性とか染料の汎用性、潜在的な需要、価値を考えたらそんなに安くなるかなって…
[気になる点] 清濁飲むとは何ですか? 清濁併せ呑むのことですか?
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