キャッチングならニャコム。
誤字、脱字報告に感謝致します。
『あのね。もう一度、言うね? オワタはね? 斬らないといけないのよ。こんなに完膚なきまでにバッキバキに砕いたらね? 後々使えないでしょう? そもそも魔物は有効利用するのが大前提なのよ。王国で魔物を【狩る】と表現するのは資源扱いだからなのね。つまり、この大量に確保できるオワタがこんなに粉々になってしまうとね? 何の使い道もないでしょう? 廃棄するだけの魔物なんてもったいないわけなの。何事もリデュース、リユース、リサイクルってね? 食べられないにしても何かの役に立てないとね? オワタも可哀想でしょう? だから、だから、何が言いたいかと言うとね? 加工できないと、もったいないってことでね?………………』
ウデムシがオワタを砕いて直ぐに作業は中断し、延々とエマの説教が続いている。
『姉様…………ウデムシもできることとできないことがあると思います』
『もう、その辺で許してやれよエマ』
ウィリアムとゲオルグがエマの説教にシュンとなっているウデムシを庇う。
『姉様、ウデムシも頑張ったと思います』
『エマ、ハサミ虫じゃなくてウデ虫だからな?』
綺麗に整列したウデムシ達は兄弟の言葉に頷くようにぎゅっと腕を閉じる。
『でも、兄様、ウィリアム? これだけの量のオワタを廃棄する土地は皇国にはないでしょう? 皇国の土地は少しでも多くの田んぼでお米を作ってもらわないと!』
オワタが侵食した広範囲の土地は田園地帯で、米を作っていた。
それ故に皇国の食糧難は深刻だった。
王国だってどこまで支援できるかは分からないのだ。
作物は天候で左右されることが大きく、安定供給できるほどの技術は前世でだって難しかったのだから。
『なら、他の使い道を考えてみるとか? 姉様の得意分野では?』
ウィリアムがリューちゃんが持って来たオワタの欠片を手に取りエマに渡す。
『でも……これだと、缶詰が、猫缶ができないのよ!!』
『『にゃうぅぅぅぅ』』
エマの言葉に、リューちゃんとかんちゃんが悲しそうに鳴く。
『…………我々は、助かるのか……?』
目の前の砕かれたオワタを見たフクシマが、ポツリと呟く。
いとも簡単にあの、オワタが気持ち悪い虫……いや、ウデムシ殿達によって倒された。
オワタは人が一定距離を破り近付けば葉を飛ばし、攻撃する。
囮と攻撃に分かれ、犠牲を払いながらでしか近付くことは不可能だった。
それなのに何故か、ウデムシは攻撃されることもなくたどり着いた。
そして、ほんの数振りの特別な刀を使って特別な剣豪が繰り出す一太刀以外は何をしてもびくともしなかったのに。
ウデムシ殿達は片手で粉砕してしまった。
『フクシマ様…………俺達は、何を見ているのですか?』
同行した武士達がしきりに目をしばたかせている。
暗闇に一筋の光を見た。
希望の光を。
『我々は…………皇国は…………助かる……の……!!!!』
ばいんっ
ばいんっ
ばいんっ
ばいんっ
フクシマや武士達が自分の目を疑いながらも、喜びに胸を躍らせた瞬間。
オワタの種が飛んだ。
甚大な被害を及ぼす爆弾が。
あれだけの攻撃を受ければ、植物魔物であるオワタも黙っていないということなのだろう。
いつだってそうだ。
希望は直ぐに絶望に変わる。
目の前のオワタはまだ大量に生い茂っているのだ。
種が飛べばまた、皇国は滅びの道を歩ん………………!!
「「「「うにゃ♪」」」」
てしっ
てしっ
てしっ
てしっ
オワタの種目掛けて、四匹の猫が飛んだ。
もじもじもじっと狙いを定めて、助走なしの垂直飛びで、天高く放たれたオワタの種を空中でキャッチしたのだ。
『『『はっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?』』』
これ程驚くことはないだろうと思う度に、問答無用で更新される意味不明な展開に、ついていける武士はいなかった。
「「「「にゃーーーーーん♪」」」」
そして、器用に種をコロコロと転がしながらエマのところへ持っていく。
『わーー! 皆、偉いね!』
「「「「うにゃ!」」」」
こんなの朝飯前にゃと得意そうに猫達はエマに応える。
猫達の柔らかな肉球が掴んだ種が弾ける気配はない。
『うーん…………やっぱりこれは、落下の衝撃が種を弾けさせるきっかけを作るのかな?』
コンコンと硬い蒴果を叩いてみるが反応はない。
「にゃ♪」
丸くコロコロ転がるオワタの蒴果を猫達は気に入ったらしく、ウデムシの砕いた残骸からも見つけてはエマに持ってくる。
『へぇ…………茎は砕けてしまいましたが種は無事のようですね?』
ウィリアムがエマの周りにどんどん積まれていくオワタの蒴果を見上げる。
『かんちゃん!! 気を付けろよー!』
「うにゃ!」
近付く猫達に、容赦なく未だ広範囲に生い茂るオワタが攻撃を繰り出していた。
特にかんちゃんは積極的に絡んで行くので危なっかしい。
そんなゲオルグの心配をよそに、ひょい、ひょいっと攻撃をかわしては蒴果を前足でコロコロと運んでいる。
『オワタの攻撃を……避けているだと?』
フクシマ達を悩ませ続けたオワタの葉の攻撃は全く猫に当たらない。
『猫…………つおい…………』
『…………猫…………? が種を?』
『猫……だよね?』
武士達は理解の及ばない、想像すらしていなかった目の前の光景にただぶつぶつと感想を呟くことしかできなかった。
「にゃ!」
ウデムシが砕いた分の蒴果を採り尽くし、かんちゃんがエマを見る。
『え? もっと拾いたいの?』
長い船旅で体を動かしていなかった猫達がうずうずと遊びたがっている。
「にゃにゃん!」
『飛んで来るのをキャッチするのも楽しいし、葉っぱを避けながら丸いのを取って来るのも楽しいから早くウデムシにオワタを砕いてもらってって?』
「うにゃ! うにゃ♪」
遊びたい、遊びたいと猫達がエマに訴える。
『……ちょっと待ってね? これ、缶詰をね? 作るにはね? 全部砕いちゃったら……』
「にゃう! にゃにゃん!」
『うん、猫缶も食べたいけど、早く遊びたい……とな?』
「にゃ!」
猫達四匹のお願いコールに、エマが断ることができるだろうか?
できるわけがなかった。
『ウデムシもう一度、鶴翼の陣! もう、猫達が好きなようにしてあげて!』
「にゃーん♪ うにゃ!」
こうしてまた、ウデムシによるオワタの殺戮が再開されたのだった。
希望に胸を膨らませる武士達と、対照的にしょんぼり項垂れるエマを慰める家族を見たフクシマが声をかける。
『エマ殿……何か心配事があるのですか?』
ウデムシは驚異的なスピードでオワタを砕き、猫達はルンルンでたま拾いに励んでいる。
時折、ばいんっと飛ぶ蒴果を空中でキャッチしながら。
『フクシマ様……私、オワタを加工しようと思っていたのです……でもウデムシ達は砕くことしかできなくて……』
はぁ……とエマがため息を吐く。
『は? 加工? 魔物ですぞ?』
『皇国は、狩った魔物を有効活用しないのですか?』
『狩る? 魔物とは退治するものです。活用などしません!』
信じられないとフクシマは首を振る。
『え? 魔物……食べないの?』
『は? 魔物を食べるのですか!?』
『『『『『え? 食べないの!?』』』』』
スチュワート家が声を揃えて叫ぶ。
ほとんど前世日本に近い皇国において、初めての異文化コミュニケーションは、魔物を食べないという王国では考えられない文化だった。
キャット空中○回転……。




