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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と皇国
120/198

スチュワート家の成すがまま。

誤字、脱字報告に感謝致します。

『エマー! 何やってるんだ? そろそろ戻るぞ』


オワタの種の落下地点で、ごそごそしていたエマをゲオルグが呼ぶ。


『何持って…………ってどろどろじゃないですか!? 姉様!?』


第二波で、もともと土まみれだった上に、エマは種を覆っていた物の残骸なんかをコーメイと一緒に掘り起こしていた。


『種は全部回収したから、そんなのほっとけよ……』


妹に付いた土を再び払ってやりながらゲオルグはフクシマ達を見る。

オワタの種が飛ぶ段階に入ってはこれ以上一家を連れて行くことはできないとレオナルドを説得している。


『何言ってるんですか!! 兄様、研究にどうでもいいことなんてないのですよ? そういった見落としが大発見から遠ざけるのです!』


『いや……でも……』


今はそれどころではない。

フクシマ達は頑として意思を曲げる気はなさそうだった。

オワタに辿り着けなければ、オワタを倒すこともできない。



『なりません。直ぐに帰国して頂きます』


『だからね? オワタを倒すにはね、現場に行かないことには……ね?』


『なりません。あなたはオワタがどれ程恐ろしい魔物か理解していないのです。それを観光気分で女、子供を連れて行くなどもっての他です!』


『でもね? ぶっちゃけ、エマがいないことには猫達との細やかな意志疎通がね? そしたら虫達とも……ね?』


『虫? 一体、何の話ですか!? 我々は一家の安全を……』


フクシマの意思は固く、説得は難しそうだった。


『フクシマ様? お待たせしました。出発いたしましょう?』


レオナルドの後ろからひょっこりとエマが顔を出す。

何故か、先ほど見た時より汚れている。


『申し訳ないが、これ以上進むことは許可できません』


何度も何度も言った言葉をフクシマは繰り返す。


『ですがフクシマ様? もうオワタの種は飛んだのです。ここから引き返す道中に当たらないとは限らないのですよ?』


『ですから、早く帰国をと!』


『皇国のオワタの資料、見せて頂きましたが、成長が早く大きいものから種が飛ぶとありました。これから数時間~数日は種の飛距離が長いと推察されます。逆にオワタの近くにいた方が安全ではないですか?』


『は?』


『オワタの種が飛ぶ期間はおよそ一か月。まず、群生している中でも長くて強いオワタが新たな繁殖範囲の外周を、その後繁殖範囲内を埋めるように中距離、近距離しか飛ばせない種が飛び、群生するのですよね』


『あ、ああ……』


『つまり、今、引き返すために通る道は全てオワタの種の落下予定地点になってしまいます。となると、このままオワタの近くへと行く方が安全なのです』


背の高い父レオナルドの後ろからにっこりと、今日の着物の柄について話すかのような気軽さで、小さな少女がオワタの分析を語る。

あり得ない……フクシマの頭は完全に混乱した。


『君は、あの資料を読んだというのか?』


オワタだけではない。

魔物に関する資料はどれも血生臭く、残虐で、救いがない。

女の子に到底読ませられるものではないのだ。

何よりも、オワタの資料は皇国が総力をかけて作り上げた。

その量は膨大。

現場にいた民の生き残り、救助に走った武士、研究者達の考察、とにかく集められる情報を片っ端から全て集めたのだ。


『はい。一通り目を通しております』


『あの量を……一通り……?』


『はい。私、王都の学園で魔物学を選択しているので、とても参考になりました』


膨大な資料を読んだ研究者達の顔には、絶望しかなかったはずだ。

目の前の少女は、アレを読んで何故笑っていられるのだ?


『……姉様は一通り読んだだけでしょうけど。あの後の情報の正確性、分類、重要事項になんもかんも、まとめたの僕ですからね。めっちゃ大変だったんですからね!?』


ウィリアム君がうんざりした顔で話に割って入る。

あの資料をまとめる? あの量を?

まとめる程読んでおきながらも、彼の顔にも絶望は見えない。


『だが、君の言うことが本当ならば、オワタの近くに行っても帰ることは不可能なのでは?』


一瞬、エマの話に納得しかけてしまったが、帰りはオワタが繁り始めている。

そこは最早、人間の通れる場所ではない。


『あら、気付いちゃいました? 実はもう八方塞がりだったりするのですよね』


降ってくる種にやられるか、繁ったオワタにやられるか。


『そ、それならやはり一か八か、引き返す方が!』


『これ、何だと思います?』


エマがどろどろの棒のようなものをかざす。


『?』


『動物の骨……です。オワタの種の落下地点、種を覆っていたものの残骸の下に血や肉片と一緒にありました』


『?』


『動くもの…………オワタにとっての栄養源。もし、種が狙って落ちたとすれば…………あの時、休憩で馬車を停めていなければ、この骨、私達だったかもしれないのです』


『!!!!!!?』


『こっっっわ!! エマ、お前よくそんな、恐ろしいこと思いつくな!?』


『姉様……!? え? え? 僕ら猫に乗って走ったりしたけど……』


『まあ、飛び初めだし、運がよかったかな?』


『こわい! こわいって姉様!!』


何なのだ!?

この少女の分析力は?

フクシマはあり得ないと、首を振る。

次から次へと仮説が出る。

しかし……。


『いや、偶然だろう。そんな話……聞いたこと……』


『いえ、資料番号25600 【民からの進言】の項の79に、種は商人の馬車を直撃したとか、同じ項の453に、飛んでいた種が落下時に狙ったように方向を鹿の群れにずらしたように見えた……というのがありましたよ』


ウィリアムが渡した資料の一文を空で朗読し始める。


『は? 全部覚えてるの? ウィリアム君?』


え? 何この子、可愛い顔して……バケモノ?


『俺にこの記憶力さえ、あれば……』


魔物学合格も楽勝だったのに、とゲオルグが遠い目をする。


『これから馬車は使えないとなると……ここまで来たのならオワタ群生地の方が近いですよね?』


一度行ったことのあるメルサが、フクシマに諦めてさっさと行きましょうと提案する。


『は?』


『フクシマ様、行きますよ?』


ふわっと巨大な白猫に跨がりメルサが馬車の停めてある方向へと進む。


『チョーちゃん、走らずゆっくり戻りますよ?』


『にゃん♪』


『いや、動くと危ないって……え?』


『ですから、なるべくゆっくり戻るのです』


『大丈夫だよ、メルサ。種が飛んで来ても私が守るから』


『……駄目ですよ、あなた。守る余裕があるのなら逃げて下さい』


『逃げる余裕があるのなら、君を守るよ私は』


『…………もうっ、頑固なんだから……』


『メルサ……さっきも言ったけれど綺麗だよ』


レオナルドが白猫に乗ったメルサの横に添う。


『……………………………………………………………………え?』


『フクシマ様、馬車を停めていたとはいえ、僕達の方が人数は多かったはずです。なのにこの骨の動物が狙われたのなら、きっと早い動きが良くなかったとお母様は推測したのです』


仮説の域を出ませんがね、と口からこぼれ落ちる砂をハンカチで拭きながらウィリアム君が三毛猫の背に乗る。


『えっと? ……え?』


なんだかよく分からないが、誤魔化され、言いくるめられ、スチュワート家の思い通りにことが進んで行く。


『え?』


『フクシマ様、出発しないと日が暮れてしまいますよ? 早くオワタを見に行きましょう?』


エマもゲオルグも猫に乗り、ゆっくりと二人の世界に突入したレオナルドとメルサを追う。


『え?』


『………………ん?』


『え?』





一方。

残された武士達は、中々戻ってこないフクシマ達とオワタの恐怖、何よりもスチュワート家の馬車から聞こえてくるカサカサ音に震えていた。


『なっなあ…………ちょっとだけ、馬車の扉、開けてみないか?』


『駄目に決まっているであろう!? 礼儀に反することを言うな!』


『でもさ、ほら、何が入っているか分かったら、ここまで怖くない気がするんだよ』


分からないから怖い。

暗闇も、お化けもそうじゃないか。

武士だろうが、怖いものは怖い。


『フクシマ様が戻るまでの辛抱だろ?』


『もし、戻らなかったら? 馬で行ったんだぞ? もうとっくに帰って来てもいい頃だろ?』


オワタの射程距離内で延々と待つだけでも怖い。

それなのに、どんどん大きく聞こえる気がするカサカサ音。

どう聞いても、一匹とか二匹の音ではなかった。


『あの伯爵が頭に乗せたぐらいの大きさの蜘蛛がいっぱい出てきたらどうする?』


『ひっっ! やめてくれ想像させるなよ!』


カサカサ、カサカサ、カサカサ。


『バカ言うな。あんなにデカイ蜘蛛が何匹もいるわけないだろう?』


『きっと婦人と娘の着物だ。衣擦れの音だよ』


カサカサ、カサカサ、カサカサ。


『『『フクシマ様……早く帰って来て下さい……』』』



カサカサは蜘蛛どころか……。

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― 新着の感想 ―
このくらいのペースのほうが好きなわい、この後サクサク進むようになっていたら泣く……。
[良い点] 巨大蜘蛛所か、世界一気持ち悪いと言われる虫が10匹以上いるんだよなぁ。 田中家、前世よりもスペックが全体的に上がってるんだよね。 今世の人達のベースが良すぎて、色々すごい方に進化したんだ…
[一言] 皇国編が長すぎてしんどいです。 話が進まなすぎ。
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