王国は社交シーズン。
誤字、脱字報告に感謝致します。
「フランチェスカ様の今日のドレスお似合いですわね、ケイトリン」
「フランチェスカ様の今日のドレスお似合いですわ、キャサリン」
王城で催される大規模な夜会で双子がドレスを褒める。
柔らかで繊細なレースとしっとり落ち着いたクリーム色のドレスがフランチェスカの女性らしさを引き立てている。
「ありがとうございます。キャサリン様、ケイトリン様、お二人のドレスも素敵ですわ」
双子はお揃いの鮮やかなエメラルドグリーンと透き通るような水色を交互に縞模様にした海を思わせるドレスだった。
「三人とも凄く可愛いよ。見てごらん? 周りの令息達もそわそわしているでしょう?」
給仕から飲み物を受け取り、三人に渡しながらマリオンがキザっぽくウインクする。
「ありがとうございます! マリオン様だってとっても綺麗よね? キャサリン」
「マリオン様、とっても綺麗だわ! ケイトリン」
マリオンは深いワインレッドの体の線に沿ったドレスが、恐ろしく似合っていた。
「「「「ふふふふふ」」」」
四人は目を合わせて笑う。
「本当にエマ様は凄いですわ。このドレスがリメイクなんて誰も思いませんもの」
フランチェスカは見事にクリーム色に染まった自身が纏ったドレスを見る。
「このドレスは東の海の色ですわね、ケイトリン」
「このドレスは東の海の色だわキャサリン」
海の色も色々ねと双子ははしゃいでいる。
「このドレスなんてもともと真っ黒だったのに、見事に赤く染まっているよ」
以前、エマが用意してくれたドレスを一回だけしか着れないなんて残念だと四人が溢した時に、エマがとある仕立て屋を紹介してくれた。
王都の商店街の奥にある小さな仕立て屋。
イケメンの店主と腕の良いお針子の夫婦と、スラムから来ているという小さな子供達が楽しそうに働いていた。
「フランチェスカ様は、クリーム色。双子のお二人はエメラルドグリーンと水色の縞模様を逆の順で。マリオン様は肩のお花の飾りを腰に移動して、色はワインレッドに…………エマ様から伺っております」
雨が降らなければ翌日の夕方には…………と破格のスピードで完璧に仕上げてくれた。
飾りの手直しは仕立て屋で、染色はスラムで行うらしい。
「染色の方はまだ、公には取り扱っておりませんがうちの仕立て屋に言って頂ければいつでも対応致しますので」
エマ様のご学友ならば、多少の無理も引き受けましょう。
子供達もしっかり働いてくれるでしょうと夫婦は仲良く微笑むのだった。
「エマ様にはいつも驚かされるね。夏休暇を皇国で過ごすって聞いたときも驚いたけれど……」
タスク皇子の帰国に同行し、見聞を広げるために留学をする。
マリオンには想像すらしたことがないことを、さらっとやってしまう友人を思い出して苦笑する。
「エマ様は、出会った頃からおかしかったわ、ケイトリン」
「エマ様は、出会った頃からおかしかったわよね、キャサリン」
「まぁ、お二人とも。そんな事…………ありますわね」
「…………だな」
「「「「ふふふ」」」」
王城の夜会で一際美しいドレスを着こなす四人の令嬢達は、柔らかに笑い合う。
連日のドレスの準備と、各国の要人が集う場でのプレッシャーで疲れきっている他の令嬢とは明らかに違う彼女達を、王国内外の紳士達が遠巻きに見ている。
「ほらほら、お喋りはそのくらいで。音楽が鳴り出したよ?」
アーサーが妹の手を取る。
まだ、婚約者のいないマリオンのエスコート役は兄のアーサーだ。
背の高い二人が踊ればそれはそれは目立つ。
「フランチェスカ嬢、私と一曲踊りませんか?」
エドワード王子がフランチェスカにダンスを申し込む。
「で、殿下!?」
「エマからフランチェスカ嬢はダンスが得意だと聞いている。エマの体では踊ることは叶わないが、私とフランチェスカ嬢が踊るのを見てみたいと言われたのだ。エマが…………無事、帰って来るまでに練習をしよう」
「エマ様が私のダンスを!? そんな、初めての授業で少しお話したことを覚えていて下さったなんて…………殿下、お受け致しますわ! エマ様に喜んで頂かなくてはっ」
王子の差し出した手にフランチェスカは自身の手をそっと重ねる。
冷たい表情の王子だが、エマの話をする時だけやや柔らかくなる。
「私達も踊りましょ、ケイトリン♪」
「私達も踊りましょ、キャサリン♪」
双子はお互いに手をとって、ベル兄妹と王子とフランチェスカの後に続く。
王国に招待された各国の要人達は、ダンスをする若者に目を奪われ、ため息を吐く。
背の高い男女ペアの息の合ったダンス。
周囲を圧倒する程のスター性。
女性の深いワインレッドのドレスが、鍛え抜かれた体を美しく華やかに飾る。
王国の第二王子ととある令嬢とのダンス。
リズムを完璧に捉え、どんなに難易度が高くても全く乱れないステップ。
そうそうお目にかかれない、レベルの高い技量を持った二人。
ふわふわと繊細なクリーム色のドレスは、その動きを邪魔することなく軽やかにひらめく。
双子らしき、銀髪褐色肌の少女達のダンス。
とても楽しそうにきゃっきゃと笑いながらくるくるまわっている。
エメラルドグリーンと水色の珍しい模様のドレスが、まるで海の底で二匹の魚がダンスをするような幻覚すら見える。
あと、ぶっちゃけ女の子二人のきゃっきゃうふふって最高。
「…………王国のレベルの高さを見せつけられているようだ」
ポツリと一人の要人が呟く。
国とは即ち人。
背の高い男女のスター性は将来国を動かす職に就いた時、大いに発揮されるだろう。
社交界におけるダンスは最早、作法。
高い教養、それを養育する国力は一朝一夕でできるものではない。
あと、美少女×美少女の眼福たるや…………。
身に纏うドレスの華やかさは流石、パレスの絹の国。
絹の品質もさることながら、あの染色技術はなんだ?
繊細な色使いと絶妙な濃淡。
そして、それらに負けない革新的なデザイン。
農業と絹だけの国との認識を改めざるをえない。
人、作法、技術、美少女。
国に必要な全てを、王国は備えていた。
そして、何よりも…………。
要人達は、こっそりと少し高い場所にある王座を見る。
連日の夜会は王妃と側妃が交互に出席することになっている。
本日、王の隣に座るのは側妃ローズ・アリシア・ロイヤル様。
レモン色の布地に蔦を思わせる緑のビーズが絡まるように配置されたドレス。
なんとも可愛らしいドレスだなと話題になっていた矢先、メイドに声をかけるためか側妃が後ろを向く。
前面の可愛らしいドレスの背は、美しい背中があらわになる大胆なデザインであった。
背中側には殆ど布地はなく、ただ繊細なビーズが背に巻き付くように心許なく隠している。
!?
あまりの妖艶さに皆、言葉を失う。
一体誰だ? 王国の側妃に品がないなんて言った奴は!?
一体誰だ? 王国の側妃が金遣いの荒い悪女だと言ったのは!?
陛下に何やら耳打ちされれば、顔を赤らめて照れる。
メイドへ向けた優しい微笑み。
奇跡のようなダイナマイトボディ。
老若男女全人類があの瞬間叫んだはずだ。
尊い…………と。
側妃の美貌は王の力。
あの女神を娶る王の力たるや、相当なものに違いない。
王国…………恐るべし。
帝国一強の時代の終わりが近付いているのかもしれない。
広大な土地を要する綿花栽培で財を成した帝国は少々キナ臭い噂も聞こえて来ていた。
そろそろ、外交の在り方を少し見直した方が良いのかもしれない。
エマの作ったドレスを着て、エマの友人が踊ったり、照れたりしたことで、各国の王国の評価がうっかり爆上がりしたことを誰も知らない。
6/27(土)電撃マオウ様にて「田中家、転生する。」コミカライズ連載始まりましたーーーーー!!
これからもよろしくお願いいたします!




