ニャッキーのテーマからの呪われた血。
誤字脱字報告に感謝致します。
にゃにゃーにゃーん にゃにゃー にゃーん
にゃにゃーにゃーん にゃにゃー にゃーん
その日(メルサに怒られそうになった日)から、全ては変わった。
もともとが体育会系の陣形訓練に加え、ウデムシの腕を中心に猫達が鍛え上げてゆく。
「にゃーんにゃにゃにゃにゃ!(抉り込むように打つべし!)」
「にゃにゃにゃ!!(打つべし!!)」
「にゃにゃにゃ!!(打つべし!!)」
「にゃにゃにゃ!!(打つべし!!)」
四匹の猫達に囲まれ、ひたすら謎の打ち込みに励むウデムシ……。
そこには、隠れて暮らしてきた陰キャの姿はなかった。
エサには生卵が追加され、走り込みに縄跳び……【鍛える】なんて前世でもやったことのなかったタスクを貧弱な知識(〇ッキーとジョ〇)の真似事で乗り切ろうとエマは日々、試行錯誤している。
「姉様……基本が古すぎます」
大〇ーグ〇ール養成ギプスは作れるかとヨシュアに頼む発注書に頭を悩ますエマにウィリアムがツッコミを入れる。
「え? だってウィリアム、あと思いつくっていったらタイヤをロープで腰につないで引っ張るやつくらいなんだけど……」
「それも古いですって!昭和臭が酷い!」
根本的に漫画からの知識に頼りすぎなのだった。
「エマ様ー!ごめんなさい。俺たちがエサ間違えたせいで……」
虫の世話をしてくれるスラムの子供達が謝る。
「良いのよ。これから気をつけてくれれば。それにまだ、望みはあるから……あと一か月でウデムシちゃん達がオワタを切断できるようになれば、きっと怒られないわ」
パレスより気温の低い王都でも夏の気配が感じられるようになってきた。
ウデムシの存在は今のところ王家や騎士団には隠し通せている。
ここまで大きくなってしまえば、誰も同じ虫とは思わないだろうけど。
「俺ら、エマ様達がいなくても、きちんと虫達の面倒みれるから。同じ失敗はしないよ」
「ふふふ。頼もしい限りね」
あと一か月すれば、学園は二か月間の夏休みに入る。
前世より長い夏休みは、王都が本格的に社交シーズンに入るためだ。
本来ならば自領であるパレスに帰省するはずだった一家(社交は無視)は、皇国へ行くことが決まっている。
全てはお米と和食のため。
対外的には、交換留学という体で三兄弟が選ばれたことになっている。
長らく鎖国政策を行っていた皇国に配慮し、オワタ繁殖危機は王家と外交官オリヴァー、スチュワート家だけの秘密だ。
皇国の魔石資源は他国に知られると厄介な事態が起こる可能性もある。
何事も隠せることは隠していた方が無難なのだ。
『エマ様、一緒に虫を見ても構いませんか?』
ニコニコと人当たりの良い笑顔で、青色の髪の少年がエマに声をかける。
『あら、ミゲル。味噌作りは終わったの?』
『はい。と、言いましても今日できるのは洗って水に浸けるところまでですから。今は忍者さん達と一緒にマンショもマルチノもジュリアンも休憩させていただいております』
ヨシュアが商人の意地で探し当て、手に入れてくれた大豆で味噌作りの準備が整い、忍者とタロウズは朝から働いてくれていた。
そう、今日からスチュワート家の味噌作りが始まっているのだ。
『楽しみね』
スチュワート家オリジナル味噌が完成すれば、毎朝のお味噌汁も夢ではない。
『来年には食べ頃になると思いますよ。我々はその頃には滅びているかもしれませんが、祖国の味を皆様が受け継いで下さるのはとても嬉しいです。美味しくできるように心を込めて作りますね』
ミゲル・タロウ・チヂワは皇国の不幸ですら諦めたような受け入れたようなスッキリとした笑顔でエマに笑いかけた。
『そんな顔で笑うのはダメよ、ミゲル。絶対に私達が何とかするから信じて。ほら、ウデムシちゃんも頑張ってるから、ね?』
皇国でも刀鍛冶達が一生懸命に刀を打っている。
少しでも可能性があるならばと国宝刀と同様の斬れ味を目指して。
『エマ様……。あまりご無理はなさらないで下さい。貴女方に皇国の運命を背負わせているようで申し訳ない気持ちになってしまいます。食糧支援だけでも本当に感謝しているのですから』
『ミゲル……』
タロウズは若さ故か襲われてないからか、皆柔軟に猫達を受け入れ毎日の料理修行に励んでいる。
スチュワート家の料理人とも片言の王国語でコミュニケーションを取りながら出汁の取り方やご飯の炊き方の指南もかって出てくれた。
少年達はメイド達にも大人気だとあのマーサですら褒めちぎっている。
こんな良い子達を育てた皇国が失くなって良いわけがない。あと米も。
『何より、こんなに素敵な虫が見れただけでも僕としては一生分の価値があるというものです。……ああ、なんて可愛い頭胸部から腹部のライン……また少し、鋏角が立派になりましたね?おや?四対の歩角も鍛えたのですか?打ち込む時のぐらつきがなくなって安定している気がします』
『さすがミゲル。分かった?分かってくれた?やっぱり足元の支えがなければ力を効率よく作用させるのは難しいかなって。ちょっとまた、エサの配合を変えてみたの。あと朝晩の走り込みも増やしたのよ!』
『なるほど、剣術でも下半身の強化は大切な鍛練ですからね。エマ様、変更したエサの配合、詳しく教えてもらえますか?』
『勿論よ、ミゲル。まずは生卵を一気に丸飲みして……』
『生卵……丸飲み……斬新な……』
皇国を思って不安そうにしていた四人にオワタ対策の要としてウデムシを紹介した時は、いかに柔軟な若者といえどもドン引きしていた三人をよそに、一人だけキラキラと瞳を輝かせていたのがミゲルだった。
エマにとって初めての虫友ができたのだ。
『今度、蚕のエサの配合も教えてもらえますか?』
『それは企業秘密よ、ミゲル』
『企業……?秘密ですか……残念です。あっではまたヴァイオレットを見せて下さりませんか?あの美しい紫の蜘蛛を!』
『ふふふ、ヴァイオレットもミゲルのこと気に入ったみたいだったわ』
ミゲルはよく、休憩時間にエマと虫達の話で盛り上がりすっかり仲良くなっていた。
タロウズに王国風の名前をつけたのはエマだ。
名付けという責任ある行為にもかかわらず、少しも悩まずにエマはヒョイヒョイ決めてしまった。
『姉様そんなサクサク名前決めちゃって良いの?』
『一秒も悩んでなかったな……』
ウィリアムもゲオルグですら、もうちょっと考えてあげてと訴えるもエマの意思は固かった。
『え?イトウといえばマンショだし、ハラといえばマルチノ、ナカウラはジュリアンでチヂワはミゲルに決まってるでしよ?』
何言ってるの当たり前じゃないと再考の余地はなく、何故か皇国から来た四人の少年達は、それぞれ驚くほどしっくりくると気に入った様子だった。
『なあ、何が決まってるかわかるか? ウィリアム』
『全然わかりません。本人達は異常に気に入ってますし……もう、これでいきましょう。姉様には逆らえません。アレキサンダーとかナポレオンとか僕考えてたんですけど……』
『俺もブルースとかジャッキーとか考えてたんだけどな……』
『『ん?』』
ぶつぶつと折角考えた名前を二人で披露しあっていると視線を感じた。
『それは……ないわ……』
エマの冷たい視線だった。
更に奥には、コクンと頷きエマに同意する四人のタロウズがいた。
一志の呪われた血(ネーミングセンス0)は兄と弟に受け継がれてしまった。
はじめの二行伝わるかな……。厳しいな……。
田中家、転生する。発売まで、1ヶ月きっちゃいました。ドキドキ。
書籍化用に書き下ろしたお話も収録されております。
是非とも読んでいただきたいです……(コソッと宣伝)




