ケーキ食べたい。
どんなにウィリアムが悪い顔をしていようともヨシュアは迷うことなく分厚い本を抱えた女の子を紹介した。
本日のお茶会最年少の6歳のマリーナ嬢はこの辺では珍しい薄い桃色の髪に桃色の瞳をしていた。
「なんの本持ってるの?」
ウィリアムが話しかけると物怖じしない質なのかハキハキと女の子は答えている。
「これはね、魔法使いの本なんですよ。ウィリアム様は魔法使いに会ったことありますか?」
子供に人気の魔法使いのシリーズの一冊らしい。
「魔法使い?知り合いにはいないなぁ……。どんな内容?」
「あのね、あのね、」
女の子は好きな本の話に夢中である。
「あの……。ウィリアム様早いとこ教えて貰えませんか?」
一刻も早くエマを引き離したいヨシュアは気が気ではない。
「ああ……。あっそうだ!マリーナ嬢ケーキはいかが?うちのケーキは絶品なんだよ!」
「ケーキですか?わたしはチョコレートの味が好きです!」
「ヨシュア……ちょっとケーキ取りに行ってきてもらっていいかな?」
「え??いやいや……ウィリアム様ケーキよりももっと大事な話があるでしょう!」
「一番大きい皿に全種類盛ってきてね~」
「……」
ウィリアムがヨシュアにウィンクするのを見て合点がいったゲオルグが自分も手伝う……と一緒にケーキのある机に向かった。
その頃エマはお腹が空いていた。
ただ、ただケーキが食べたかった。
じりじりと数ミリ単位でケーキへ移動しているが入れ替わり立ち代わり話しかけられるために未だにたどり着けないでいる。
何せ、今日のお茶会での会話内容は母に制限されている。
エマに許されたのは、はいorいいえと挨拶と相槌のみである。
間違っても虫の話はするな、食べ物にがっつくなと目だけが笑ってない笑顔で母に言い含められている。
困ったらにっこり笑って誤魔化しなさいと……。
しかしにっこり笑う度に人が増えているような気がしてならない。
「エマさまはあまり宝飾品をつけておられませんね!お誕生日はいつですか?私にプレゼントさせてください!」
「ふふふ」
前世の友達の子供位の少年達に囲まれ確かにモテているはずなのだが、港(大人)の発想でこの子達も親に色々言われて頑張って喋らないといけないんだろうなぁなんて思っていると大量のケーキが目の前を移動していく。
ヨシュアとゲオルグが両手にケーキを盛った皿を運んでいる。
ヨシュアが、チラッとこちらを見て不安そうな顔をしている。
……ヨシュアはゲオルグ兄様と違って貧弱だからケーキが重たいのかしら?
あれだけの量のケーキを持ってるなんてヨシュア……甘いものそんな好きだったかしら?
しかも全種類揃ってるわ!
「ヨシュア!ケーキ重たそうね!半分持つわ!(だから一口ずつ頂戴ね)」
こうしてヨシュア念願の天使スマイルと共にエマはヨシュアと並んでウィリアムの机に向かった。
「ああっエマさん……」
「誰だあの男は!」
「貴族じゃないよな」
「良いとこだったのに……」
天使のスマイルと引き換えに数人の敵を作ることになったが……。それはまた別の話。