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田中家、転生する。  作者: 猪口
スチュワート家と皇国
103/198

皇国を蝕むモノ。

誤字、脱字報告に感謝致します。

『では、お米一俵。頂いてもよろしいですか?』


メルサがナポリタンをすっかり平らげた天皇と将軍にニコニコと尋ねる。


『…………は?』


『いっ…………一俵!?』


皇国人が一斉に腰を浮かせ、驚く。


『こっ米俵一つに、あの量の支援物資を用意したのか!?』


皇国の空になりかけていた倉庫は、今やスチュワート家の支援物資で溢れている。

たかが一俵の米のために、我々はあそこまで出し渋ったのか?

……いや、先に一俵なら、一俵って伝えて!!


『単位が、違わなくないか?一石の間違いでは?』


一石だとしても釣り合わない気もするが……皇国語を見事に操る彼女も細かい単位を把握していない可能性もあると将軍が確認する。


『……まさか、皇国が食糧難に苦しんでいると言うのにそんなに沢山戴けませんわ。ああ、でも、玄米ではなく白米で一俵。これは譲れませんけど』


ふふふと妖艶な笑みを浮かべるメルサに、天皇も、将軍も言葉を失う。

取り引きとして全く公正ではない。

向こうは、皇国民が半年以上飢えることなく暮らせていける量の食糧。

こちらから渡すのは、米一俵にかつおぶし?


『そ、それだけで……良いのか?』


『もちろん、今後も新米の時期に幾らか都合つけて送っていただきたいですけど……』


気分はふるさと納税だ。

お互いに利がなければ長くは続かないだろう。


『毎年…………』


ズンっと皇国側の表情が暗くなる。


お米を貰う約束は成った。

武士に二言はないので、ここからは遠慮なく気になったことを聞こうとメルサは口を開く。


『ところで、皇国の食糧難についてですが、原因は天候不良ではないのでしょう?皇国に近いバリトゥも他の国からも支援要請は来てませんもの』


『なっ!!』


『それに、皇居までの道のりで見た人の数……いくら王国人が珍しいと言えども多すぎる人数だったのも気になります。まるで、国民全員がエド周辺に集まって来ているような……』


皇国は大きな国ではない。

その国の首都と考えたとしても不自然なほどに人が溢れていた。

大通りより奥を目を凝らしてみれば急拵えの小屋がひしめくように並んでいた。

タスク皇子をはじめ、天皇、将軍を見ても田舎へ食糧を届けないような政策はしないだろうことは明白だ。

それなのに、皇国人の大半が押しやられるように都市部へ集まっているのは何か別の問題があるからだとメルサは考えていた。


『ただの通訳と聞いていたが…………聡いな』


たった一度、街を歩いただけで皇国の問題の核心を突こうとしている。

シュンっと天井裏に控えていた忍者、モモチが現れた。


『陛下、上様!!王国に真実を話しましょう。メルサ様は信用に足るお方。きっと、力になって下さいます!』


『…………モモチ、無理を言うな。これはもう、取り返しのつかない事態なのだ。話したところで、余計な心配をさせるだけ』


『しかしっ!!』


『モモチ、皇国はもう滅びるのだ……』


『『『『くぅーー!!』』』』


将軍の言葉に、側近達が堪えきれずに悔し涙を流す。


「ちょっ!おい!?メルサ?お前何を言ったんだ?どうなってる?なんで皇国人は急に泣き出してるんだ?」


異様な光景に、それまで所在なさげに黙って座っていたオリヴァーが不安そうにメルサを見る。


『…………滅びる?それは聞き捨てなりませんね。まだ、お好み焼きも焼きそばもたこ焼きだって作る予定なのですよ』


お好みソースが作れれば、更に美味しいものが増えるのに。

定期的にお米とかつおぶし。味噌と醤油は作り方を教えてもらわねばならないし、皇国に何があって何がないのかも全部把握して美味しいご飯を網羅するためにも、勝手に滅びて貰っては困るのだ。


『ん?お好み焼き?…………?』


『とにかく、皇国はこれからも末永くスチュワート家と交流してもらわねばなりません!』


どんなにメルサが言葉を尽くそうとも、天皇も将軍も諦めたように首を振る。


「おい!メルサ!無視するな!!何を言っているんだ!おい!」


『うちの外交官も、王国が協力できることは何でも致しますと申しております』


オリヴァーの文句を聞き流し、適当な通訳をして説得する。

ここまで来て、毎年の新米を諦めるなんて嫌だ。


『…………そんなに言うのなら、直接見てくれば良い』


『『『陛下!!?』』』


『『『しかしっ!!』』』


『実物を見れば、わかるだろう』


天皇と将軍が揃って肩を落としたところで、謁見は終了となった。




「どういう事だ!?どこへ行こうと言うのだ?」


「オリヴァー、私が頼んだのです。皇国が滅びる原因を知りたいと……」


「は!!!?皇国が……滅びる!?ちょっ!何の事だ、おい?ちゃんと説明しろ!!滅びる国と国交を結んでも損するだけじゃないか!?」


「……オリヴァー、少し静かにしてもらえます?耳がキーンってなります。ですから、それを今から確認に行くのです」


「お、お、お、お、お前が何も説明しないからだろーーー!」


翌日、早朝から起こされ乗せられた馬車の中で、オリヴァーが叫ぶ。

馬車の周りには30人以上の武士。

一番にメルサのナポリタンを食べたフクシマとカトウを筆頭にものものしい雰囲気の中で、メルサとオリヴァーを乗せた馬車は、海とは反対の方角へ進んでゆく。

途中、30分程度の昼食休憩の後も馬車を走らせ漸く着いたのは日が暮れ始める頃だった。

因みに、昼食はお米が食べられるのではと期待したが、出てきたのは何故かナポリタンだった。

ウメが作り方を覚え早速作ってくれたのだとか……いらんことを。


目の前に櫓と柵で区切られた場所まで来ると、フクシマが合図を送り櫓の見張りに柵を開けさせる。


『ここからは、歩きとなります』


近づくにつれて、ピリピリと痛いほどに緊張を強める武士達も馬を下り森のような繁みへ続く道をメルサとオリヴァーと共に歩く。

流石のオリヴァーも空気を読んで黙っているが、時折メルサを睨んでは、口の動きだけで歩くなんて聞いてないと怒る。


森を抜けた瞬間、眼前に広がった光景を見てメルサが口を開く。


『…………………………オワタ…………』





『これ以上は、近付かないで下さい』


カトウがメルサの前に出て静かに注意する。

目の前には、メルサの背丈の2倍程の植物が一面に広がっていた。

後ろの森と違い、全てが同じ黄色い花を咲かせ一見すればこの世のものとは思えない美しい光景。


「お、おい…………メルサ…………こ……れ……」


オリヴァーもかつて、必要もないのにメルサに張り合うためだけに学園で魔物学上級を修めていた。

群生する背の高い植物に、黄色い花。


「バカな……ぷ、プラントハザード…………?」


珍しい植物系魔物が、皇国の結界の中で繁殖していた。


「黄色い花をつける植物系の魔物は、一つだけです。それが……ここまで侵食してきているなら半年後にはエド近くまで……」


「この魔物……やはり……【オワタ】なのか?」


植物系の魔物。

多くは肉食植物と呼ばれ結界の外に生息しているために、この世界の人間は出くわすことはない。

しかし、極稀に結界内に侵入した魔物が種を運んで来る場合があり、芽吹くことがある。

結界内には、肉食植物の天敵がいないために爆発的に繁殖する。

特に【オワタ】は硬く、伐ることも焼くことも難しい。

人間の住む土地など数年で侵食されてしまう。


『こっここは、南大陸でしょう?なぜ【オワタ】が!?』


王国と皇国は大陸で繋がっている。

【オワタ】は北大陸にしか生息していないはずなのだ。

あれだけ屈強な武士のいる皇国がここまで繁殖を許す結果になったのも南大陸では出現した記録など今まで無かったからだ。

王国でもその存在を知るのは魔物学上級を合格した者だけだろう。


『二年前、皇国で局地的結界ハザードがあり、その時は武士が魔物を倒し、魔法使いが穴を閉じたのですが……その魔物に【オワタ】の種が付いていたと考えられています』


フクシマが拳を握り、絞り出すように言葉を紡ぐ。

あの時、魔物退治の責任者はフクシマだった。

一粒の種を見逃したために、国を潰すことになったのだ、悔やんでも悔やみきれない。


『局地的結界ハザードから出てくる魔物に!?』


そもそも局地的結界ハザードからなぜ魔物が出てくるか、よくわかっていない。

結界に穴が空いたとしても、周りは安全な結界内なのに魔物がどこから来るのか昔からメルサには理解できなかった。

昔からそう言うもので通っていて、何の原理も誰も掴んではいない。

フクシマの言葉でハザードから出てくる魔物が北大陸から来ている可能性に気付き、思わず震える。

深く、検証する必要がありそうだ。


【オワタ】は、半年周期で種を飛ばす。

今、花が咲いているのなら夏には種がエドのすぐ近くまで飛ぶだろう。

このままでは一年後、皇国も皇国人も失くなる。


『…………【オワタ】を倒そうと何度も試みはしましたが、魔法使いも、多くの武士も失い、もうこれ以上、打つ手がありません。大半の田んぼも畑も侵食により、作物の収穫ができなくなりました。王国には、感謝しているのです。不可能といわれた言葉を理解するほど心を砕いてくれ、皇国民が滅びるその時まで、飢えることなく暮らせるだけの食糧支援をしてくれたのですから』


震えるフクシマの肩にポンと手をやり、カトウがメルサに頭を下げる。


『つまり、お米はこれが……最……後…………?』


毎年の新米が……食べられない?

ふらっとメルサがよろめく。


「メルサ!!!」


慌ててオリヴァーが支える。

メルサは気丈とはいえ、女。

目の前に魔物がいては倒れるのも無理はない。


「帰ろう、メルサ。我々に出来ることは……無い」


不本意ながら、メルサはオリヴァーに支えられ、来た道を戻る。


家族みんなの夢が……。

お米が……。

かつおぶしが……。

明太子が……。


きっと、子供達も悲しむだろう。

ごめんなさい、ウィリアム。

ごめんなさい、ゲオルグ。

ごめんなさい、エマ。


…………………………エマ?


あっ!


そうだった。

うちにはエマがいた!


「帰りましょう、オリヴァー!」


「……?いや、いま、私が言ったんだけど帰ろうって」


怪訝な顔でオリヴァーがメルサを見る。

何故か、嫌な予感がした。


『フクシマ様、【オワタ】について何でも教えて下さいませ。王国に持ち帰り対策を立てます』


『へ?』



うちには、可愛い非常識で類い稀な発想力を持った娘がいる。

帰ったら、すぐに田中家家族会議をしなくては!








何とか……皇国滅びの原因までたどり着いた……。

思ったよりメルサ、食い意地張ってるな……。

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― 新着の感想 ―
これにタンザニアバンデッドオオウデムシ君が関係するのか?
オオハンゴンソウ?
描写はセイタカアワダチソウですよね。 ブタクサと違って花粉症にならないのはいいけど、繁殖地を奪還するのは難しい。 オワタorz 性女エマだけが頼りだ。
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