ヨシュア焦る。
「エマさん!スチュワート伯爵家の庭はなにやら珍しい植物が多いですね」
「そうなんですか?」
「はい!僕が見たところ東の方の植物ではないでしょうか?」
「お詳しいんですね」
「我が男爵家は植物の輸入販売を生業としておりまして!僕も手伝いをしているので知らず知らず覚えてしまうのです!」
「それは凄いですね!」
「いえいえ!それほどでもありませんが……」
「ふふふ」
「!」
にっこりとエマが笑うと必死で会話していた少年は頬を染めて黙る。
「ああ!エマさん!パレス領は随分暖かいのですね!」
少年が黙った隙にまた別の少年が話かける。
「そうなのですか?」
そう言ってエマが首を傾げる。
「かっ可愛い!」
思わず少年が呟く。
「ふふふ」
エマがにっこりと笑う。
そんな様子をヨシュアは自分が紹介した筈の令嬢そっちのけでゲオルグとウィリアムを巻き込んで遠巻きに見ている。
「何故だ!エマ様!いつもなら虫を見るときにしか見せない天使スマイルをあんな初対面のボンボンに振り撒くなんて!」
ギリギリとゲオルグの腕を掴みながらヨシュアが嘆いている。
「ヨシュア……地味に痛い」
「ゲオルグ様、よいのですか!あの男爵の息子など2分半もエマ様の正面に立っていますよ!」
「お、おう」
「しかもあの侯爵の息子はエマ様から20センチの右隣に!近すぎます!」
「お、おう」
「ああっ僕も虫を見るような目で見られたい!」
「ヨシュア……。ちょっと黙ろうよ」
いつも冷静沈着なヨシュアがエマの変わりように焦り、余裕を無くし、オカシな発言まで飛び出している。
前世の記憶を思い出す前のエマなら誰とも話さず、話しかけてくる少年をいないもののように扱い、その場にしゃがみこんでじっと蟻の行列を見ていた筈である。
そんなエマにヨシュアはなんで蟻は迷子にならないか知ってますか?とか蟻はどれくらい重たいもの運べるか知ってますか?とか話しかければいいと思っていたのだ。
あんなエマをヨシュアは知らない。
近づくことすらままならない……。
「ヨシュア……あそこの本抱えてる女の子紹介してくれたら姉様を助ける方法教えてあげるよ?」
ウィリアムがちょっと悪い顔でヨシュアに話しかけた。
あんな悪い顔したウィリアムもヨシュアは知らなかった。
思い出す前のエマは相当ヤバかった。