episode1
……今日もまた 地獄が始まる。
生まれて来なきゃ良かった、そう思うのに
あたしには 死ぬ勇気すら
ない。
[ドッ]
叶芽「……」
また殴られた。
痛い。
昔から殴られているけれど どうも慣れない。
慣れてしまえば 痛みなんかきっと感じないのに。
直輝「おい」
叶芽「…何」
[バンッ]
直輝「何、じゃねんだよ」
……痛いっつーの……。
直輝「お前 いつまでそーやってだんまりしてるつもりなんだよ?あぁ?!」
[ドッ]
だって 口ごたえをすれば事態は
悪化するだけじゃない。
そんなことわかってて誰が言い返すのよ。
……なんて 実際言えないけど。
叶芽「……ごめんなさい」
本当は謝りたくなんてない。
だってあたしは悪くないもの。
でも謝らないと この人はあたしを殴り続ける。
直輝「ったく…毎日不自由ねぇ生活させてやってんだから感謝しろよ糞が!」
叶芽「……はい」
いつも同じ台詞。
飽きないのかしら。
…あ。
和実「ん……おはよぉ〜」
直輝「おっ、ナゴ〜おはよう。ユウもな。」
柚里「おはよ、とーさん。カナも。」
叶芽「……」
昔っからナゴ達の前では本性を現さない。
本当クズね……。
直輝「…っと、んじゃあ俺はそろそろ仕事行くかな!」
和実「ふぃっふぇふぁっひゃい!」
柚里「ナゴ、歯磨きながら喋んないでよ汚いなぁ。とーさん、いってらっしゃい。」
直輝「おう!じゃあな〜……未来、カノン、いってきます。」
[バタン]
叶芽「…朝ご飯 昨日の残り。」
柚里「てことはカレー?やったね」
和実「ふぁっふぁあ!ふごごごごご」
[ベシッ]
和実「〜〜〜ッ!!!」
うーわ痛そう。
ユウがナゴの頭をベシッと叩いた。
まぁ汚いしね。
あ、うがいしてる。
和実「……ふぅ、ちょっとぉ!ユウ酷いー!!」
柚里「だって汚いもん」
和実「ひっどい!カナ〜ユウがいじめてくる!」
叶芽「…いいから早くご飯食べて。遅刻するよ。」
和実「はぁい…て、そうだった!カレーだ!いっただっきまーす!」
父からの虐待を受けた後はいつもの賑やかな朝。
こいつらコントでもしてんのか……。
[ピンポーン]
あ、正解?
……じゃなくてただのチャイムの音。
朝からうちに来る人は十中八九……
[ガチャッ]
叶芽「…やっぱりりゅーただ。おはよう。」
龍太「叶芽!お、おはよう!お邪魔しまーっす」
龍太はお隣に住んでる幼馴染。
毎朝我が家に来て少し過ごした後、
みんなで一緒に登校をするのが恒例。
和実「カレーは辛ぇ」
柚里「ナゴって黙れないの?…あ、りゅーたじゃん。」
龍太「おはよ、朝からカレーとは贅沢だなぁ。」
和実「りゅーたも食べる?」
龍太「いや食ってきたしいーよ。でも食いたくなってきたな〜今日の昼はカレーパンでも買うかな。」
賑やかだなぁ……。
和実「っはー!美味しかったぁ!ごちそーさまでしたっ!」
柚里「ご馳走様でした。そろそろ出なきゃね。」
龍太「そだな。んじゃあ……」
叶芽「……」
叶 和 柚 龍「いってきます、お母さん、ミラ姉。」
[ガチャッ……バタン]
そう亡くなった母と姉の遺影に挨拶をして
またあたし達の一日が始まる。