【15分即興小説】 ピエロ
ショーの幕が上がった。
機械人形のオーケストラが、盛大なファンファーレを鳴らす。
するとステージの上から一本のロープがスルスルと降りてきた。それを滑るように伝って一人のピエロが姿を現す。ピエロは事も無げに、ステージの真ん中に降り立った。その瞬間、ピエロが僕の方を向いて、微笑んだように見えた。
ピエロの手には、5つのボールが握られている。ピエロはそれを宙に放り投げた。ボールは放たれた鳥のようにバラバラに散らばってしまうように思われた。
しかしピエロは落ちてきたボールを受け止めては再び宙に投げ、また次に落ちてきたボールを取っては器用に上に投げた。ボールがステージの上を転がることはなかった。
続いてステージの横から火の輪が出てきた。するとピエロはボールを火の輪の方へ投げた。
その時、ステージの横から、黄金のたてがみを震わせて一頭の雄獅子が飛び出してきた。そのたくましい体を見せつけるかのようだった。
雄獅子はボールを追いかけて、見事に火の輪をくぐった。
オーケストラが祝福の曲を奏でた。
しかし誰も拍手はしない。
誰もいない観客席で、僕は一人手を叩く。
世界に残った最後の人類として。
最後に残ったピエロロボットと、最後のライオンに向けて。
2018/04/22 初稿