進化するすらいむ
ぷるぷる ぼく わるい すらいむ じゃ ないよう
6月5日
今日は早帰りだったから、早く帰ってきた。
すらいむに早く会いたくて、誰とも遊ばず走って帰ってきた。
雨だったけど傘もささずに。
お母さんが手を洗え、とかうがいしろ、とかうるさかったけどきちんと聞いた。
だってすらいむのことバレちゃだめだから。
僕は部屋に入るといつも豆電球をつける。
いつも帰ってくる位はまだ明るいけど、僕の部屋は窓が小さくて薄暗い。
影とかは真っ黒になって怖いから、豆電球だけでもつけておくんだ。
ただし遅帰りの日や雨の日は別。
本当に真っ暗になるから、蛍光灯を煌々とつける。
次に僕がすることはすらいむへの呼びかけ。
間違って踏んづけたらだめだから、「すらいむ?」って小声で呼んでみる。
一階でテレビを見てるお母さんに聞こえないくらいの小さな声で。
すると、すらいむはいつも「きゅきゅい!」と返事をくれる。
僕は駆け寄って今日あったことを話しながら飴をあげる。
これが、僕の“日課”ってやつ。
今日はまずすらいむに呼びかけてみた。
でも不思議なことに今日は返事がなかった。
不思議に思いつつ電気をつけると、そこには女の人がいた。
***
「…次は星空町で起こったUFO騒ぎのことです…」
「進展が気になりますね。では、VTRを…」
ベテランの男性アナウンサーと近頃人気の美人アナウンサーだ。この町で起こったUFO騒ぎのニュースをやっている。
「えっ!?」
息子が急に大声を出す。
「翔太ーどうしたのー?」
1階から半ば義務的に呼びかける。
「っ…ママ…な、なんでもないよー!」
そう、とワイドショーに戻る。
芸能人の不倫や、最近あったUFO騒ぎ。
きちんと抑えておかないと井戸端会議で遅れてる奥さん、というレッテルを貼られてしまう。
息子や夫はダラダラしてるだけだと思っているようだが、この間いじめにあって転校した海姫ちゃんも、業績を上げていたのに左遷にあった太田川さんの家も、奥さんが少しニュースを知らなかった。
直後に左遷の決定やいじめの発生。
こんなの、もうワイドショーを見ていないとこれからのために良くない。
最近部長に昇格した夫。成績をあげている息子。
愛おしい家族のために、今日もワイドショーを見るのだ。
***
「え、あ、え…?」
何度見てもそこには全裸の女性が立っている。
油か何かでも被ったのか全身ぬとぬとしていて、怪しい卑猥さが漂っていた。
「…しョウた、サん。」
女は口を開く。
合成音声のように歪で、しかし声自体は鈴が鳴るように、いや、鶯が鳴くように……どんな表現でも表せないほど美しいものだった。
「へ、あ、は、はい!」
少年はその妖しい美しさに魅了され、どもっている。
「ワたし、ハ、すらイむです」
女はぎこちなく微笑んだ。
「しょウたサンは、コんなジょセイが、スきなんデしョう?」
手に持っていたのは…
河原で拾ったグラビアのついた漫画雑誌だった。