おしゃべりしようよ、すらいむ
1月30日
勇輝が中学の受験をすると言っていた。
僕にだけ話してくれた。有名な私立らしいけど知らないところだった。
帰りながらすらいむの話を少しだけした。
もしかしたら地球外生命体かもしれないな、と真面目な顔で言っていた。勇輝が言うなら一概には笑い飛ばせない。
体がスライムみたいで、形が変えれて、変えたら喋れる生き物なんて地球にはいないそうだ。
そういえば、きゅいきゅいとしか鳴かないけど形を変えたら喋れてたよな。
日記を書いてごはんを食べたら、試してみよう。
・・・
「きゅい?」
すらいむが掌で伸び縮みした。首を傾げているような仕草だ。
掌は熱いみたいだけど、ティッシュを4つ折りにしたものの上なら乗れる。
我ながら良い案だったよな、と将太は思う。
「だからさ、前にその…本に出てくる人になったとき、お話できてたじゃんか。あの容量で口だけ作ってお話できたりしないの?」
いつまでもきゅいきゅいきゅぴぴじゃ味気ない。
「きゅぷ…」
すらいむはぷるぷると体を震わせる。
「無理なの?」
またぷるぷる。
「じゃあ嫌なの?」
今度は震わせなかった。
「すらいむとお話したいんだけどなぁ…」
「きゅぷ、きゅぴぴ!」
何かを訴えかけるが、将太には伝わらなかった。
「なに?すらいむ」
痺れを切らしたすらいむは、掌から飛び降りた。
そそくさと落ちた服の下へ潜りこむ。
「すらいむ?もしかして見られるのが嫌なの?」
「きゅっぷい!」
「お部屋出てた方がいい?」
「きゅぷ!」
「わかった。10分したら戻るね。」
「すらいむ?そろそろいい?」
ドアを開ける。入った瞬間、前を向く暇もなくこつん、と足になにか当たった。
薄紫のツインテールの幼女、ハトバが杖に絡みつくようなポーズの表紙のライトノベルだった。
「…すらいむ、まさか」
「しょウたさん」
目の前に、イラストの幼女が立っている。
「すキ、ですカ?」
にっこりと微笑んでいる。
好きだよ。ハトバも。すらいむも。
好きだよ。
好きなんだけどさ。
「違うよ、すらいむ…」
・・・
日記の続きには、「失敗」と殴り書きで記されていた。