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一章:殺人日記 07

 ここで僕らの関わった事件――というにはあまりにも規模の大きすぎる出来事について、僕の知っている知識を整理しておこう。

 まずこの出来事、『凉暮市連続殺戮事件』の概略。

 その名前から分かる通り、凉暮市の山の中腹で起こった連続殺戮事件だ。

 連続殺戮。

 連続殺人ではなく、連続殺戮。

 一回目の殺戮では21人。

 二回目の殺戮では19人。

 三回目の殺戮では38人。

 合わせて被害者は78人。

 三度連続した殺戮。

 とても浮き世離れした出来事。

 山中で起こったということから目撃者は今のところ見つかっていない。

 若しくは、目撃者ごと一緒くたに殺されたか。

 どちらにせよ、犯人の手がかりは今のところ皆無。

 これはまだ殆ど捜査が行われていないからでもある。

 これだけの大人数が殺されたのだ。そう開けっ広げに捜査を行うわけにもいかないし、犯行自体が見つかったのが昨日だから仕方ないと言えば仕方ない。

 これが一つ目の謎。

 二つ目が僕らの任された、凶器が何なのか。

 たった78人殺すだけでも十分に狂気の沙汰だが、それだけでは飽き足らず、この犯人はある行動をとっている。

 首切り。

 斬首。

 78人、一人残らず首を切り落としている。

 被害者の秘匿が目的なのはまずない。

 首を切り落とした程度で隠せるとは思わないし、78人の首を切り落とすという手間を考えれば考えにくい。

 そして何より、切り取られた首はこの場に残っている。

 まるでゴミでも扱うように、首が山を成して放置してある。

 約80人もの首。

 狂気の歪なモニュメント。

 それに78人も殺しておいて、秘匿も何もあったものじゃない。

 推理小説に出てくる入れ替えのトリックも考えにくい。

 第一、ああいったものは短時間の間だけ、孤島の中だけ、という条件のものが多い。

 一歩条件の外から出てしまえば、成り立たなくなる。

 話が逸れたが、問題は凶器がなんなのか、だ。

 前述通り、被害者は例外なく首を切り落とされている。

 今のところ、死体の腐敗具合や血液から見るに、おおよそ最初の殺戮から三日程度、だそうだ。

 一人の首を切り落とすのに約一時間程度かかったとすると、全員で約80時間。

 80時間、首を切り続けなければならない事になる。

 二人、三人と犯人を増やしていこうが大差はない。犯人の狂気に大差はない。

 犯人を増やした分、隠蔽に時間がかかる。

 極端な話をしてしまえば、犯人を78人に増やして首を切る時間を78分の一にしたところで、露見しないように隠していたらいくら時間があっても足りない、という話だ。

 そこで目が向けられたのが、魔術と言うわけか。

 そして、魔術と言えばこの近辺に世界最高の魔術師がいる。

 榎凪のところに来るのは当然のことか。

 大雑把に言って何でも切れる『アレ』を作っているのも一つの要因だろう。

 魔術を使うにしろ、『アレ』を作り直して使うにしろ、一番可能性が高いし。

 話題は変わるが、そもそも、78人も殺されておいて、何故、一回目が21人、二日目が19人、三日目が38人と言えるのかと言えば訳はちゃんとある。

 いくら血の乾き具合が分かるとは言っても、この人数だ。流石に個人個人を判別することは難しい。

 正規の鑑定をするにも昨晩見つかったばかりで全員をするのは無理だ。

 それでも、僕らは分かった。

 簡単なことだ。

 犯人が教えてくれた。

 それだけのこと。

 何とも丁寧な事に、死んだ日付別に死体を分けていた。

 挑発か、それとも必然的な理由があったかは分からない。

 でも、僕らにはどうでもいいことだ。


「さぁ、始めよるぞ、セイ」


 僕の隣に立つ女性は言った。


「探偵ごっこの時間だ」


 この場に不釣り合いな晴れやかな笑顔を浮かべて。


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