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一章:殺人日記 03

 

「で、我が家に何か用かな?」


 榎凪が慇懃無礼な口調で対面する水豹さんに問う。

 それを気にしたような風もなく、中性的な顔に嫌らしい笑みを浮かべて榎凪に応じている。


「あぁ、その通りだよ。さすが、希代の魔術師は話が早くていいな」

「用事があるなら、とっとと帰れ」


 榎凪はあくまで水豹さんに攻撃的な態度で応じる。

 さすがにそれはあんまりなので、僕は口を挟んだ。

 水豹さんは僕の恩人にあたる人物だ。

 応じているのが榎凪とはいえ、僕としては心苦しい。


「榎凪」

「ん、なんだ?私を愛し私に愛されているセイ」


 水豹さんに自慢するかのように、わざわざ一語一語にアクセントをつけて喋る榎凪。

 敵愾心と嫉妬心が剥き出しだった。

 隠そうともしていない。


「とりあえず、この体勢どうにかしてもらえません?」

「無・理」


 一言でばっさり切られた。

 因みにこの体勢と言うのは、隣に座った状態で榎凪の胸に抱き抱えられると言うとんでもなく恥ずかしい体勢だ。


「少なくとも、セイと――」


 榎凪は水豹さんを顎で指し、


「これの関係が分かるまではな」


 まるで物でも見るかのように見下す。

 水豹さんはそんな榎凪を見て、破顔大笑した。


「はっはっは、本当に貴様は変わらんなぁ!」


 一瞬なんのことやらさっぱりだった。

 が、疑問を口にするような余地を持たせずに、水豹さんは二の句を次いだ。


「変わらない貴様を見ると、本当に殺したくなるよ」

「黙れ、とっとと帰れ。私はセイとイチャイチャするのに忙しいんだ」


 水豹さんは超然とした嫌らしい笑顔。

 榎凪は敵意剥き出しの厳めしい顔。

 本当に空気が悪い。

 部屋の端にいる茜と葵が入るのを躊躇うくらいに。

 いつまでもこんな重い空気を続けている訳にはいかないので、さっき感じた疑問を口にすることにした。


「あの……」

「うん?」

「どうした、少年マイディアー?」


 一瞬にして視線が僕に集中する。

 切り出しにくいことこの上なかったが、ここで切り出さない訳にはいかないので思い切って口に出した。


「二人って知り合いなん、ですか……?」


 思わず尻すぼみに。

 そんな僕の態度に嫌らしい笑みを崩さずに水豹さんが答えた。


「あぁ、私と榎凪はどうそ――」

「クラスメートだったんだよ、学校時代のな」


 と思いきや、榎凪が無理矢理遮って答えた。


「思えばあの頃は灰色だったなぁー……。それを考えると今がいかに幸せか分かるよ」

「やめろ、榎凪っ!さすがに頬擦りは恥ずかしすぎるっ!」

「えー……」


 口ではそう言いながらも、あっさり僕を解放した。


「たまには恥ずかしがるセイを……っていうのも良いなぁ」


 訂正。

 今後、何かを仕掛けてくる模様。

 用心しておこう。

 転ばぬ先の杖、というやつ。

 その杖で薮をついて蛇を出したことは多々あるが。


「――てるんだ」


 そんな、言ってしまえばグダグダな空気の中に、水豹さんの低い声が聞こえた。


「貴様のその『灰色の学校生活』の所為で、どれだけの人数が迷惑したと思っているんだ?」


 水豹さんは嫌らしい笑みを消して、真剣な表情を露にする。

 僕は一度しか見たことのない、真剣な表情。


「1365人」


 声を区切って、水豹さんは明言した。


「貴様の馬鹿な行いの所為で、1365人の人間が甚大な被害を被った。周辺のことも考えれば、おおよそ10倍に被害を受けた人数は膨らむだろう」


 そんなの、天災のレベルだ。


「幸い、死人はでなかったがな」

「当たり前だ、そうなるように調整したんだからな」


 榎凪は自信ありげに、水豹さんに切り返した。

 そんな榎凪が何をしたか気になり、思わず横から口を挟んだ。


「榎凪、一体何やったんですか……?」

「なぁーに」


 軽々しい口調に恐怖を抱きながらも、榎凪の言葉をしっかり受け止めた。


「私の通っていたドイツの魔術専門学校ろうやを一つ、この世から消しただけさ」


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