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一章:殺人日記 02

 十月三日水曜日。

 凉暮市の外れにある榎凪と僕、そして葵と茜を含めた四人の住む白亜の大豪邸に来客があった。

 日課となっている玄関をしていた僕が、チャイムはなっていなかったがすぐに気付く。

 勘とかそういうものではなく、足音で。

 別に僕が特別感覚が鋭敏なわけではなく、この家に上ってくるためにつかう長い長い階段が足音を響かせる作りなのだ。

 それだけでなく、足音の主はどうやら下駄のようなものを履いているらしく、かなり響きやすかった。

 チャイムの音がなる前に、僕は掃除用具を片付けて玄関に向かう。

 一応、招かれざる客の場合も想定して警戒もする。

 世界最高の魔術師と言われている榎凪だ。島国の田舎とはいえ堂々と山の頂に豪邸を構えていれば当然と言えば当然すぎる可能性だ。

 歩いて玄関までいっているうちにチャイムがなった。


「はーい、今出ます」


 僕は警戒しながらも思わず軽快に挨拶。

 ……僕は警戒もできないアホの子なのだろうか。

 ドアの向こうからは当然のように返事はない。でも、気配、というか存在感は確かにある。

 改めて集中しなおし内開きのドアを開ける限界の距離を保ちながら僕はドアを開けた。


「やぁ、少年マイディアー。久しぶりだな」


 僕は扉を閉めた。

 そして頭の中を整理しようと必死になる。

 ドアの向こう側に立っていたのは一人の女性だ。

 身長は僕より十センチ程高いくらいで160センチあるかないか。髪も瞳も黒く顔立ちも日本人らしい。

 髪が短く中性的な顔立ちの所為で顔だけみると男女判別しにくいが、体の構造が明らかに女性だ。

 ただ、着ているものは男物の着流しで履いているのは鼻緒の黒い下駄。

 男性と女性がその人の中には混在している。

 ひどく倒錯的な感じ。

 それでも僕はその人を女性と断言できる。

 理由なんて簡単なことだ。

 その女性は僕にとって初対面ではなく、自己紹介のときにそう聞いたから。

 自己紹介を受けたのは三年も昔の話だけれど。

 僕は心を沈めて、再度扉を開く。


「やぁ、少年マイディアー。久しぶりだな」


 RPGのキャラクターよろしく同じセリフを同じように言う女性。

 先ほどと違うのは嫌らしい笑みを浮かべていることくらいだ。

 その表情を変えようとも隠そうともせず、腰の上に背筋の乗っていない奇妙な姿勢のまま僕の反応を待っている。

 十秒ほど経ってからようやく我に帰った僕は、カラカラに乾いた喉で言葉を紡ぎ出した。


「あさ……らし……さん?」

「あぁ、君の慈しむべき恩人がわざわざ遠路はるばるやって来たぞ、少年マイディアー


 カランコロンカラン。

 下駄を鳴らして散歩近づく。

 僕の正面三十センチ前。視界一杯に彼女の顔が広がる。

 その距離で彼女は手を上げて、僕の頭の上にポンと軽く置く。


「半年とはいえ、本当に久しぶりだ。身長も少し高くなって……うん、男らしくなって結構結構」


 そんなことを言いながら、僕の頭を撫でて手櫛で髪をすく。

 男らしくなったと口で言いながらも、全くの子供扱いだ。

 でも、榎凪と違い恥ずかしくなるような扱いではなく、和むような感覚。

 子を慈しむ親のように、その触り方は優しく、心を安心させる。


「死ねぇやぁぁぁぁっ!」

「っ!?」


 和やかなムードの中に突如怒号。

 相手は見なくとも分かる。

 僕は勘に任せた咄嗟の判断で目の前の女性の手を引っ張りながら屈んだ。

 直後、頭上に赤い線が通過する。

 僕が黙視した限り、それは槍だった。もちろん刃付きで殺傷力抜群のもの。

 避けなければ僕共々串刺しになるところだった。

 一番危険なのは、外部の敵より槍を平気で投げてくる榎凪なのかもしれないと、心のどこかで僕は認識した。


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