序
この小説は西宮東著・『榎凪といっしょ!』の続編です。
一応、前作を読まなくても話が通じるようにはしていますが、過度の前作ネタバレはしない予定なので、バックヤードが知りたいと言う方は前作をどうぞ。
さくり。
人を裂く感覚はあまり手にまとわりつかなかった。
昔自分の手首を切り裂いた感覚とはまた違う、他人の皮膚を切り、肉を裂き、骨を断つ手応え。
直に伝わる感触。
直に伝わる感覚。
直に伝わる感情。
何もかも、真新しい。
脳髄が蕩けそうなほど鮮烈で、脳髄が焼ききれそうなほど悪寒がする。
僕は間違いなく人を殺した。
僕は間違いなく命を奪った。
殺害しつくした。
略奪しつくした。
そう、僕は言い訳の余地もなく、自分以外の他人というやつを殺した。
それがこれから先、僕の人生にどんな影響を与えるかは、この熱気と悪寒にまみれた頭じゃ考えもつかない。
でも今、僕が他人を殺したという事実はかわらない。
罪悪感で首を締めるには十分な事実。
いや、行為と言うべきなのかもしれない。
僕が他人を殺したという行為は未だに誰も知られていない。
当たり前だ。
僕がそう仕組んだんだから。
僕がそう計画したんだから。
誰にも邪魔されないように殺すため。
誰にも知られず首を刈り取るため。
他人に観測されていないなら、これはまだ事実じゃない。行為だ。
行為を嘘で隠して、事実を変えてしまえば良い。
そうすれば、これは僕だけが知っている行為だ。主観的なもので、決して客観的な事実じゃない。
そもそも、僕がなぜ人を殺したのかと言えば、やむにやまれない事情がある。
でも。
でもだからといって、人を殺したことを仕方ないなんて言えない。
人を殺す以外にも、解決方法はあった。
むしろ、人を殺す解決方法の方が多い。
だから仕方ないなんて言えない。
仕方ないなんて言いようがない。
僕は間違えたのだ。
完膚無きまでに間違えたのだ。
間違えようもなく間違えたのだ。
だからこれは贖罪。
これは人を殺した事への購い。
殺された人のために書いた、僕の日記。
殺人鬼の書いた『殺人日記』。
西宮東著『おまけ・続編開始までの経緯(電話編1)』
ジリリリリ……
ガチャ
西宮『あ、椎堂さんのお宅ですか?』
椎堂『間違い電話です』
西宮『椎堂さんのお宅ですよね?』
椎堂『御用のある方はその思いを胸に秘めたまま、墓場まで行ってください』
西宮『椎堂さんはオタクですよね?』
椎堂『違います』
西宮『毎回毎回電話かかってくる度に否定するのやめてくれね?』
椎堂『それは私に何も語るなと?』
西宮『普通に話そうぜ……』
椎堂『というわけでこんばんは、西宮君』
西宮『ようやく挨拶をくれてありがとう、椎堂』
椎堂『それで、一月一日の忙しい夜に何ですか?』
西宮『俺には正月と言う概念は無いから関係ないね』
椎堂『去年、正月だから除夜の鐘をつきに行こうと言った人とは思えないセリフですね』西宮『いや、それ俺じゃないから。確かに同じ人じゃないから』
椎堂『むぅ……』
西宮『で、用事なんだけど……』
椎堂『西宮君は決定的に私の期限を損ねたから、大抵の要求は通らないと思うといいですよ』
西宮『……器量ちいせぇ……』
椎堂『…………』
ガチャ
ツーツーツー