序章-始まり-
深夜2時。
自室で寝ていた私は目を覚ました。なにやら下で物音がする。
2階から顔を覗かせそっと1階を見下ろす。
ーガタンッ
幼い頃両親が離婚し、今は父と2人暮らしだ。
「…パパ?」
薄暗くぼんやりと見えるシルエットに私は問いかけた。
「…。」
その「男」は父ではなかった。
なぜなら、全身にド派手な衣装をまとい、怪しげにほほ笑むそいつの姿はまるで…
そう、まるでサーカスから抜け出してきたピエロのようだ。
月明かりに照らされ、やっとそいつの顔が見えたかと思うと、私は息を呑んだ。
ピエロの格好をしたその男は、まるでおとぎ話に出てくるような美少年だった。
歳はおそらく30代…いや20代というところだろうか。
不覚にもときめいてしまった私は、しばらくその顔を眺めていた。
ピエロ「おい、娘。おまえの父親はどこにいる」
なんて端整な顔立ちだろう…。
色白で、長いまつげ…それに、どこか冷たい切れ長の目。
そこから映し出される瞳は、青く澄んだビー玉みたい。
「はぁ…」
思わずため息が出る。
ピエロ「おい貴様!聞いているのか!」
「はっ、ひゃい!!」
突然の怒声に声が裏返る。
私に聞いているのだろうか。
いや、ここには私しかいないのだから、おそらくそうなのだろう。
「え、えっと…っていうか、あなた誰?
父のお知り合いの方ですか?」
ピエロ「…まぁ、そうだな。
おまえの父親は俺の大事な本を盗みやがった。
それを取り返しに来たってわけだ。」
…父が盗み?
そういえば父がいない。
昨日の夜、友人の元に出かけるといってそれっきりだ。
まさか…まさか、父が泥棒だなんて…。
「すっ、すみませんでした、父が!
ご迷惑おかけしたみたいで…」
あれ?なんで私謝ってるんだろう。
いくら父が盗みに入ったからって他人の家に勝手に入るなんて…!
いくらなんでも非常識!
「あっ、あの!
人の家に勝手にあがりこむのもどうかと思いますけど!
それに、その格好…!」
そうだ。いちばん気になっていたピエロの衣装。
一体この人何者なの?
劇団…サーカス…
うーん…わからない。
ピエロ「俺は、見ての通りピエロだ。」
「え?」
ピエロ「正確には、おまえと同じ人間だ。
おまえの父親が盗み出した本にまじないがかけてあってな、あの本がないと元に戻れない。」
訳がわからない。
この世界に魔法なんてあるわけがない。
「…なに言ってるの?冗談でしょ?」
ピエロ「仕方ない。証明してやろう。」
ー!次の瞬間、
ピエロはふわりと宙を舞った。
「!」
嘘…。
こんな事って…一体どうなっちゃってるの?
ーーー




