2.竜の契約印
「今、何とおっしゃいましたか?」
皆が、寝静まった夜。
コッソリと会いに来てくれメイドに己の決意を伝えた。
彼女は想像していた通りの反応を示した。
「生きるよりも死を選ぶと言ったのよ。どうせ結婚したとしてもまた牢屋に入れられるのが落ち。私のお願いを聞いてくれる者もいなくなる。なら、結婚する前に死ぬわ」
「シーラ姫様。それは、いけません」
メイドは言い聞かせるように私の両手を掴んでそう言った。
「何故?」
「生きていれば何か変わるかもしれないじゃありませんか。その可能性を自ら断ち切るなど姫としての威厳はどこに行ったのですか」
メイドの瞳は真剣そのものだった。
その気持ちは痛いほど分かる。
しかし…。
「えぇ。そうね。けど、もう自分を偽れない。私も何度も何度も同じ事を思ったわ。いつか父が自分が行っていることの愚かさに目を覚ましてくれることや兄が父の影響から逃れてくれることを。けどね、そんな事は起こらない。あの人達は私が死んだとしてと涙1つ流さない」
むしろ、後悔に顔を歪めるだろう。
家の中で唯一、後継者を産む道具が無くなって。
「シーラ姫様…。分かりました。そこまで心が決まっている貴女様をお止めする事など無理なのでしょうね。私も最後までお手伝いさせて頂きます」
「ありがとう。頼んだわ」
メイドには結婚式の前日にナイフを牢屋まで持ってくる仕事を頼んだ。
父は私が自殺しないようにと、牢屋には何も自分を殺せるような道具は一切置かなかった。
「それではそろそろ見張りが来ますので行きます。おやすみなさいませ」
「えぇ。貴女もゆっくり休んで」
メイドが出ていくと、牢屋はシンッと静まり返った。
「はぁー…」
ゴロンと床に横になると切れて短くなった服の裾から太股の内側に何かマークの様な物が見えた。
チラリと捲って見ると、それはまるで身体に刻まれているかのようにその存在を強調している。
この印は唯一、自分の体の中でお気に入りだった。
蛇のようなその模様は気持ち悪くもあるが、力強く根付いている。
これをまだ父には見られたことは無かった。
全く私について関心が無いからだ。
しかし、夏のある時に兄の二の腕に似たような感じの模様が付いていたのを見たことがあった。
我が一族の家紋なのだろう。
しっかりとそこを隠すと眠りについた。