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青い目  作者: 黒糖パン
10/25

相思相愛

「着きました!」

 電車を降りてそうそう、ユリは元気いっぱいにそう言った。

 巧真の家から電車で数駅。ここからは徒歩で十分くらいの場所にあるので、目的の場所はそこまで遠くない。

「タクシーに乗りましょうよ」

「そんなお金はない」

 交通費は安いが、巧真には愛子ちゃんグッズを買わなければならないという義務があった。

 二人は歩道を並んで歩く。冬なのに、今日は穏やかな天気だった。もう少しで頂点に立つ太陽が枯れた木に精力を注いでいる。時折吹く風は、春のような温かさを含んでいた。白い野良猫が二人の前を横切り、路地裏に入っていった。路地裏からは、たくさんの子猫の鳴き声が聞こえてくる。

 世界は綻んでしまった。しかし、現時点では世界に大きな変化は起きていない。まだ、世界は平和だ。

いつ世界は崩壊し始めるのだろう?

ふと巧真は思った。

 青い目の化け物によって、教室が一つ壊され、生徒が虐殺された。そして、これからもっと大勢の人が犠牲になり、多くの建物が壊されるだろう。

 握手会会場に着いたのは一時を少し過ぎた時だった。

 建物の前はたくさんの人でごった返していて、中には愛子ちゃんのコスプレをしている人(男も含む)もいた。

今日行われるのは握手会だけではない。握手会はイベントのほんの一部で、他にも『魔法少女はいない』と同制作会社の『平日だけど、今日は寝よう』のイベントが行われている。なので、この人の多さも納得できた。

「それにしても、よく知ってたな」

 普段から愛子ちゃん関連のイベントはチェックしていた巧真だったが、その巧真さえ知らかった情報をユリが知っていたのだ。

「だって私、『魔法少女はいない』の大ファンですから」

「そうだったのか!? 何で言ってくれないんだよ! 水臭いなあ」

 衝撃の事実を知り、巧真のテンションは跳ね上がる。数少ない女性のファンが近くにいたなんて、感動以外の何ものでもなかった。

「ユリはどの話が好きなんだ?」

 急に饒舌になった巧真に軽く引きながら、ユリは自分なりの『魔法少女はいない』を語り始める。

「私は、愛子ちゃんが人造人間に改造されたところですかね。愛子ちゃんの泣き叫ぶところでは泣いてしまいましたが、博士との最終決戦で自分の手を飛ばし、博士を倒したところは笑いました」

「あれは面白かったよな」

 巧真は今にも鼻歌を歌い出しそうだった。

「巧真さんは?」

 ユリの問いに巧真は少し考える。『魔法少女はいない』の中には数多くの名場面があるのだが、その中で巧真にとってどれが一番なのだろうか。すぐに答えは出た。

「俺は……やっぱり、愛子ちゃんが自分の身を挺して友達を守ったところかな」

「怪人パトラッシュに友達を殺されそうになったところですね?」

「そうそう。結局、友達を救った時に大怪我を負ったせいで捕まって、人造人間にされたわけだけど」

「『それでも、勇気がある行動に感動した』」

「ああ」

「『自分もああなりたい』」

「……そう……だな」

 なれるのだろうか。他人を守るために自己犠牲するような人になれるのだろうか? わからなかった。ユリと誓った、偽善であっても多くの人を救うということが愛子ちゃんと同じ行為だとは、到底思えなかった。

 ユリはさっきの意味深な物言いとはうって変わって、楽しそうに微笑む。

「私も好きです。あの話」

「そうか……気が合うな」

「相思相愛ですから」

「もうやめて……」


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