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第三十八話 暴走する称号者達

お久しぶりです。腹痛に悩まされ何も喉を通らない日が続いたりしましたが、作者は元気です。


皆さんも食中りには気を付けましょう(ゲッソリ)

あぁ…私らしくないミスをした。宙を舞う巨大物体を見ながらそんな事を思った。


よく考えてみてほしい。私があのデカブツを打ち上げたのは真上だ。しかも相手のHPは削り斬る事叶わず、落下してきている。つまり、空中に居る上にスキルの硬直でまともに動く事すらままならない私の未来は見えている。


うん、文字通り丸潰れってやつである。


「………おわた」

「「「て、天災ちゃんがぁぁぁ!!」」」


その事実に気付いた周囲のプレイヤー達も叫ぶ。万事休す、そんな時だった。


「ハーッハハハハハ!!ヒャッハァァァァ!!」


誰かがものすごい勢いで飛び上がるのが遠目に見えた。その人物は落下中のサンドワームへ向かって行き…


「速度とは即ち力!物体は速ければ速い程その保有する力を増す!それは中学生でも物理の授業で習う程の一般常識ぃ!ならばその速度を極めた俺様は即ち最強ぅ!!だがその力を更に増すためにはどうすれば良い?現地点で最高段階にたどり着いた力を更に高めるにはどうすれば良い?速度へ極振りした俺様に備わった単純なパワーは限られている!ならば速度の範囲内で探さねばならない!俺は考えた!そして一つの解を見つけ出した!」


何やらものすごい早口で何かを叫びながらライダーキックの姿勢になる。そして、更に大きく叫んだ。


「それはズバリ『手数』!!速度×数の暴力を喰らえぇぇ!!必殺『オーバーアクセル・アタック:レインシフト』ぉぉぉ!!!」


その時、そのプレイヤーの脚が無数に分かれ増加したかのように見えた。本当に増えたわけではない、そう見えるレベルで素早く連打しているのだ。

まるで特撮かアニメのような攻撃はサンドワームに直撃し…


『ギェェェァァァァ!!!』


その体に無数の足跡を残して横に吹き飛ぶ要領でずれた。それを見た地点で、少なくとも私が潰れる心配がなくなったことを感じた。


「よくやったぁぁぁ!!」

「さすが極振り!俺も負けてらんねぇ!!」


周囲も湧き上がり、全員が何やらバラバラに何かを用意しているのが見えた。

それを見て、私が嫌な予感を禁じ得なかった。


その予感は外れておらず、彼らの暴走はこれでは終わらなかった。









「召喚術は基本自分に見合った規模の召喚獣しか呼び出せない!だが『例外』も存在する!今こそ僕の研究し続けてきた『例外』を結集する時!!」


召喚師サモナーのプレイヤーが何分も前からずっと書き続けてきた巨大な魔方陣の中央に立ち、両手を地面に勢いよく叩きつけ、叫ぶ。


「これが僕の全力ぅ!!『外法召喚』!!サモン『ファーヴニール』!!」


現れたのは巨大な漆黒の竜。明らかにこのレベル帯では召喚出来ないような竜は、サンドワームを視界に入れると咆哮を上げ、邪悪なブレスを叩きつけた。









「歌え!唄え!我が意に添い完璧な演奏を!!」


紳士然としたスーツに身を纏った男性は、指揮棒を片手に無駄にキレの良い動きで指揮をする。その前には数多の『無人の楽器』が指揮通りの完璧な演奏を奏でていた。

それらは全て別々の強化効果のあるスキルを使用していた。一人のプレイヤーがかける効果としては破格のバフが、レイドパーティ全体へとかかる。

これには『奏者は完全に無防備』『スキル持続時間が大きく削れる』というデメリットを背負っていたが、この状況ではあまり関係は無かった。


「『たった独りの協奏曲 (ワンマンコンサート)』…さぁ、一瞬の永夜はこれからだ」


ちなみに今は昼間、しかも日照りの強い砂漠である。









「ビーガガガ…『バスターモード』起動」


何故かロボですごく目立つそのプレイヤーは、更にロボットらしく『変形』という荒業をして見せた。

足は4本に分かれ、腕は棒状になって伸び、それらは地面に突き刺さり体を固定する。体部分は大きく変わり、どうやって収納してたんだと言いたくなるような巨大な砲身へと変わった。その上に頭部が変わらずチョコンと乗っているのがすごくシュールだが。


「チャージ…『チャージスキップ』起動 発射準備完了」


その状態でチャージを始めたが、途中で面倒くさくなったのか、いきなり最大チャージになった。なんてインチキ。


「戦略兵器形態『レーヴァストバスター』―――発射!!」


巨大な光の牙が、空間を切り裂いた。










「やれやれ…ここまで盛り上がると、こちらも奥の手を出さざるを得ないではないですか」


まさに魔法使いと一目で分かるローブに身を包んだプレイヤー…ピタゴラスは、既にとある詠唱を済ませていた。

最初に放った『エリアエクスプロージョン』は現地点の彼にとって最大級の魔法と言える物。だが、それとは別に『奥の手』を持っていた。


魔法は基本的にクラスのレベルの上昇によって入手る。購入出来る物もあるが、習得に必要レベルが設定される物はほとんどである。

だが彼は『それを飛び越えて格上の魔法を行使する』という方法を編み出していた。

無論制約も馬鹿げている物が多く、おいそれと撃てるものではない(例:最高級の杖を使い捨てる)。だが、それに見合った成果は上げられると言っても良い。

何故なら…


「さて、死ぬ物狂いで耐えてみてください。『メテオ・ストライク』」


現に彼は『魔法の頂点』とも言える有名な魔法をも一時的に行使しているのだから。









「ハハハハハハ!!!盛り上がってきたぁ!!!」


ほとんとすべてのプレイヤーが隠し持っていた奥の手を切るお祭り状態に、このレイド戦を企画した元凶であるクロトは歓喜の声を上げる。


無論、彼も奥の手を隠し持っている。こんなお祭り状態が大好きな彼がここで切らないはずもなく…


「サンドワームぅ!これから貴様が見るのは『地獄』だ!今まで王者として居座ってきた貴様には感じたことがないであろう絶望ってやつを見せてやる!!」


その手に握られていたのは、真っ黒な魔剣『イビルカリバー』。かの有名な聖剣『エクスカリバー』の対となる伝説級武器レジェントウェポンである。

これを入手するのに相当なドラマもあったらしいが、ここでは語らないでおこう。


そんな魔剣はその刀身を更に邪悪に黒く染め、巨大な魔力による模擬刀身が出来ていた。

まるで、いつぞやの大規模戦で彼の妹が放った一撃のように。


「邪黒剣『イビルカリバー』…ぶっ飛ばせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


大きく咆哮を上げると共に、その魔剣を振りぬいた。









「…………」


称号者達が自らの全力をぶつけている様子を、絶賛落下中のハクアは無表情で見つめていた。

硬直は解けたものの、落下中に出来る事なんてたかが知れているからだ。


「………ウェポンチェンジ」


だが彼女は動いた。スキル宣言と共に両手に握っていた双巨剣は消え、代わりに片手には白い片手剣が握られていた。


「……………」


そのまま目を閉じ、何かに集中するように構える。

先ほどの連撃は、間違いなく彼女にとって『切り札のひとつ』だった。だが、切り札が一つしかないとは言っていない。


もう一つの、よほどの事が無い限り使わないとした『切り札』を持っていた。それは彼女の持つ『第六感』により『クリティカルヒットを数えきれないほど連続で発動』した、いわば運営がお遊びで設定した条件に必然にあてはまり覚えてしまったスキル。


ここで一応言っておくが、彼女はゲーム好きであり、お祭り騒ぎが好きなクロトの妹である。

即ち、この状況で使わないなんて、彼女のゲーム精神が許さなかった。


「………『断空』」


ポツリと呟き剣を振るう。それは、言うならば『無すら断つ剣技』。

その斬撃は、空を割った。









それは第三者から見れば地獄絵図だった。



地面から影の手のような物が這い出し

世界樹とも見紛う巨樹が突如生え

どう見ても上位精霊らしき4色がせめぎ合い

極太ビームが空を貫き

壮大なBGMが鳴り響き

漆黒の竜が暴れまわり

ミサイルが飛び回り

巨大なエネルギーで出来た槍が飛来し

雷雲から絶え間なく落雷が発生し

隕石が降り注ぎ

漆黒の斬撃が宙を(雷雲ごと)裂き

空にはまるで次元を切り裂いたかのような裂け目が現れ




それを見た通りすがりのプレイヤーはスクショ(写真を撮る事)する事も忘れて唖然と眺め、この事件の遠因となっている運営は頭を抱えたとのことだった。



後におふざけ半分で『神々の黄昏 (ラグナロク)』とも言われたこの事件は、後の世代まで語り継がれることになる。


描写してないだけで他にもたくさんのえげつない攻撃が放たれています。

例えば聖母さんの「回復魔法をダメージに変換する呪い」とか(震え声)

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