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第十六話 小休止~アップデートなう~

ミーンミンミンミン…



外ではセミがうるさく鳴いている。本格的な夏である。

実はこの前大学も夏休みに入った。1年生の頃に単位を取り過ぎてしまい、今年はわりと暇なのだ。だから「Fantasy World Online」…略してFWOをたくさん遊べていたりする。


で、今はそのFWOがメンテナンスもといアップデートの途中であり、私はクーラーの効いた自室でHPでも眺めながら暇つぶしをしている。


こう見えても体は弱い方のため、空調などの設備は両親に思う存分使って良いとの許しをもらっている。感謝してもしきれない、将来たくさん恩返しする事にしよう。


アップデートの事なのだが、何でも期間限定のイベントエリアが実装されるらしい。夏というし、海とかそんな感じだろうか?リアルではすぐにダウンするため長時間いられないので、こっちで思う存分遊べると嬉しい。


「………?」


そんな事考えているとPCにメールが届いた。このゲームは、PCと同期する事でインしていなくてもフレンドやギルドメンバーとメールやチャットで会話できるのだ。メンテナンス時も使えるので、皆重宝していたりする。


でも誰からだろう?ギルドは入っていないし、フレンドといえばごく少数だが…

そこまで考えて、【先日の事件】の事を思い出す。


「………」


何となく指が唇に触れる…うん、あれは所詮仮想空間の出来事。気にしない気にしない…


「………うぁぁぁ…!!」


…結局耐えきれなかった。ベッドにダイブしイタチの抱き枕を抱き寄せてゴロゴロ転がりまくる。

いやいやいや、何意識してるの私は…!いつの間にそんな乙女になった!?


実はあれから何度か来たアクトの謝罪連絡をスルーしている。あれは不慮の事故だし、別にそこまで怒っていないのだが…怒っていない自分がむかつくので怒っている事にしている。だって、ふ、ふふふファーストキスを奪われたら普通激怒するじゃない?何だか簡単に許しちゃったら負けな気がするじゃない?


「………はぁ」


いつまでもゴロゴロ転がり続けてたら酔って体調崩すのは目に見えているので、PCの前に戻りメールに目を通す。やっぱり差出人はアクトだった。


「………しょうがない」


そろそろ反応してあげるとしよう。これを期に一層気を付けてくれればいいのだが…まぁ無理だろう。運命がそうさせてくれないと勘がささやいている。

来たメールに目を通してみた。


「………イベントエリアを一緒に回ろう、か」


イベントへのお誘いだった。拒否されてもイベントには来るだろうから、意地でも見つけ出して直接謝罪しようという魂胆だろう。こちらにも否はあるし、承諾してこちらからも謝って仲直りしよう。


「………いいよ…っと」


返信すると、速攻で待ち合わせの場所と時間が書かれたメールが届いた。誤字脱字だらけだし、よほど慌てて書いたのだろう。お人好しめ…ここまでだと罪悪感が湧いてくる。


「………もうこんな時間、ご飯食べなきゃ」


気づいたら昼食時だったので、準備をする。食べ終わったらアップデート終了予定の夕方まではレポートでも終わらせておくことにしよう。初イベント…楽しみだ。


「………ん、楽しみ……ふふ」


こうして私は、指摘してくれる人がいなかったせいで、イベントという理由だけでは決して崩れることの無い無表情が小さな笑顔になっていた事に気付かないまま夕方を待ったのであった。

まずい、恋愛タグを付けるべきなのかもしれない、ラブコメの波動を感じる…

はやいとこぶっ壊さないと…

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