新年度
どうせ飽きるけれど、描いてしまった。
雪解けに ちから漲る 大地かな。
今年も桃色の季節がやってまいりました。
見るからにピンクです。
咲き乱れるあの木や、挨拶を交わし合う声、さらには風まで。ほら、あの子のスカートの中までピンク色です。
そんな目に優しい季節を迎えて今日から新年度。
3年前に設立された国立HSSA高等学校は、初の三学年が揃います。
そんな僕は二年生。設立されて間も無いというのに、この学校は全世界から生徒が集まって一学年500人、全校1500人、と無駄にマンモス校。
更には全寮制で、辺りの山々まで学校の敷地内というのだから驚きです。
ちなみに、何国立かというと「モロチュ国立HSSA高等学校」なんです。
え?知らないって?僕も先生から聞くまで知らなかったよ。
アジアの何処かとは聞いたけれど、飛行機や電車でグッスリ眠っている間に着いちゃったから詳細はわかりません。
さて、桜並木を超えて大きな校門が見えて参りました。
電車を一両横にしても足りなさそうなほど、大きな校門です。
高さは3Mあるかというほど威圧感のある佇まい。
そんな校門に生徒達はするすると飲み込まれて行きます。
僕も流れに乗って足を踏み入れます。
息が詰まるような校門が視界から外れると、見えてくるのは五階建て、西北南に別れた巨大な校舎。
西は三年生の教室や三年生のその他もろもろ。
北は二年生の教室や二年生のその他もろもろ。
南は一年生の以下同文。
僕は二年生なので右に曲がって北校舎へと向かいます。
長く続く校舎への道のりを一人で歩いて約700M
昇降口で新しいクラスを確認。
今年の僕のクラスはAからJのJ組でした。一番最後のクラスだね。
クラスメイトには去年も一緒だった人がチラホラいます。
それをしっかりと確かめた後、ゆっくりと僕は教室に向かいました。
教室へ入るとまず感じるのが視線です。
誰が来たのかな?どんな奴かな?など、人種のサラダボウルであるこの学校では個性あふれる人がたくさんいます。
気になるものはしょうがないです。皆好奇心に負けて一斉に振り向いてしまうのは仕方ないと思います。
でも、僕に向けられるのは好奇心の目から人を見下す絶対零度の瞳に変わる温度差の激しい視線です。
これも仕方ないでしょう。なにせ僕の父親は革命家と呼ばれた超絶変人変態
「ロリコン」
なのですから。
ボソッと呟いてくれたクラスメイトさんありがとうございます。
お陰で教室に活気が戻って来ました。
皆僕をチラチラ見ながら小声で談笑に勤しんでいます。
ちなみに、世界中から生徒が集まるこの学校では公用語に日本語と英語が使用されています。
全校生徒がバイリンガル、トライリンガルです。僕も受験前に必死こいて覚えました。
先生にここしか受けれないって言われましたからね。
プリントなどの文字は日本語が使われています。理事長が日本人だとかなんとか。
亀のように身を縮めた僕はサッサと自分の席に付きます。
ちなみに、父親のことを説明すると、世界を平定した革命家。戦争の終着点。アインシュタインを超えた男。などなど。
一昔前までは馬鹿にされるような二つ名がゴロゴロとでてきます。
エネルギー革命を起こし、誠実かつ強力な武力で各国を威圧。さりげなく技術を小出しし、自国はさらに上の技術を持つ事で世界を平和へと導いたのだとか。
そして、僕が生まれて直ぐに父親は幼児誘拐暴行強姦猥褻物陳列殺人にて逮捕。
革命家は称号をロリコン伯爵に塗りつぶされましたとさ。
そんな有名人を父親に持つ僕が虐められるのは当然の様な事。
母親だって僕が中学に上がる時「ごめん」と置き手紙を残して消えてしまった。
そんな事を思い出しながらうずくまっているとチャイムが鳴り、同時に先生が教室にいらっしゃいました。
「はい。席に付けー。出席確認するぞー。安賀ー」
教卓に着くなり出席確認を始める名も知らぬ担任さん。
生徒達は慌てて返事をしていきます。
一クラス50人も生徒がいるのですから先生も大変でしょう。
「ロリコ…六井幸太郎」
「はい」
前言撤回です。先生はかなり余裕を持っています。
しかし言い間違えるのも仕方ないでしょう。
なにせあだ名と本名のイントネーションが似ているのですから。
それに、
「若菜沙季」
「はい!」
先生に名前を呼ばれて元気に返事をしたのは天使。
どこからどう見ても天使。まごうことなき天使。
ミニマムな身長に幼女体型。小さな手足とぱっちりお目目に小さなお口。艶やかな黒髪はツインテールにまとめられています。
そんな愛くるしい姿は天使そのもの。
今年も彼女と同じクラスになれたと、昇降口のクラス表を見た時から僕の心はウハウハでした。
…そう、僕も父親と同じロリコンなんです。
「よーし。全員いるな。10分後に始業式だからな、急いで迎えよ。」
先生はそう告げると早々に教室を後にしました。
生徒達はのそのそと西校舎裏にある体育館へと向かいます。
僕はその列の最後尾に陣取って堂々と小さくなりながら着いて行きます。
ちなみに若菜沙季ちゃんは最前列、完全に僕から隔離されています。保護されています。誠に遺憾です。襲ったりしませんとも、父親に誓って。
そういえば、中学からここ三年間の僕への虐めは無視ばかりです。
なぜでしょう?小学校ほど女の子に襲いかからなくなったから?
そりゃぁババアが増えてきましたからね。目が腐ります。
高校生ともなれば天使は若菜ちゃん以外僕は知りません。
ならば身長が180cmを超えたから?
確かに虐めが無視にシフトチェンジした時期と、僕が成長痛に悩まされていた時期がマッチングします。
なんだ、皆僕の図体がデカくなったからビビっているのか。
そんな事を考えていると体育館に着きました。
1500人が並べる巨大体育館です。
クラスメイト達は決められた位置に、「名簿順」に並んでいきます。
そう、名簿順です。
僕の苗字は「六井」つまり「ろ」若菜ちゃんは「わ」五十音順で一つ後ろ。
名簿順で一つ後ろです。去年はそうでした。
クラスメイトが前から順に座っていきます。
僕はウハウハ若菜ちゃんタイムに、心踊らせながら座ります。
そしてチラッと後ろを振り返ると、そこには見知らぬ白人が。
メガネをかけ、やや赤毛の三つ編み少女ババアは、僕が視線を送るとビクッと身を震わせました。
ロリコンの標的にでもされたと思っているのでしょうか、勘違い甚だしいです。
「お前名前は?」
順番を間違えているんじゃないかと思い質問します。
「ろ、ロコレ・ブランです」
涙目になりながら答えてくれた彼女の名前は、確かに僕と若菜ちゃんの間に相応しい名前でした。
仕方ないでしょう。日本人は苗字が先に来て外国人はファーストネームがファーストなのですから。
僕は舌打ちをしながら前を向きました。
軽く絶望に項垂れていると、司会の先生が喋り出し始業式が始まりました。
そして校長先生が壇上へ上がります。
この学校の校長先生は伝えたい事をスパッと話して終わるので、2、3年生の間で少し人気があります。
お話の内容も一風変わっていて、聞き耳を立てている生徒は少なくないと思います。
しかし、今年の校長先生のお話は一風変わったどころではなく、生徒全員が耳をかっぽじって拝聴し涙を流す程でした。
その内容は、
「えー、皆さんおはようございます。突然ですが、今年から皆さんには戦争をしてもらいます。」