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新しい朝

 目覚まし時計のけたたましい音が鳴る。

 重いまぶたを開けて、時間を確認すると、6時ジャスト。

 あれ、何でいつもより一時間も早く目覚ましかけたんだっけ?

 そんな俺の疑問に答えるかのように、何者かのワンパンによって目覚まし時計は床に落ち、無残な姿になる。


「おい、うるさいぞ! ご主人がおきちゃうだろ!」


 顔を上げると、ポン子が腰に手を当て、目覚ましをしかりつける姿が視界に入る。

 あー、そいつは自分の責務を果たしただけで、何も罪はないんだぞ?

 秒針とか飛び出てるけど、元通りになるかなぁ。

 俺が体を起こし殉職した目覚ましを拾おうとすると、


「おはよ、ご主人!」


 と視界目いっぱいにポン子の屈託のない笑顔が広がる。

 近い近い近い!


「はいはい、おはよう」


 と返事しつつ、ポン子をどけて目覚ましを拾う。

 この調子だと他にも被害が出ているかも、とリビングを見渡すと……。

 うん、何も問題はないな。イスが倒れていることや、電話線が引っこ抜かれてることと、テレビのチャンネルから電池がはみ出していること、etc……以外は。

 とりあえずポン子、ちょっと外に出ていようか。片付けているそばから散らかされてはきりがないし。

 俺はリビングの窓の鍵を開け、庭でのマナーを教える。


「いいか、庭に出るときはサンダルを履いて、服は汚さないように……」


 言い終わるよりはやくポン子は、


「そとー!」


 と裸足で庭に着地し、四つんばいになって犬小屋に突撃する。

 そして、ボールとうさぎのぬいぐるみをひっぱり出すと、庭のブロック塀にぶつけて遊び始める。いやいや、ボールはともかくうさぎさんの遊び方はそうじゃないだろ。

 結局やることが増えた。後で着替えと足を拭いてやらないと。


 リビングの片付けで、20分はかかった。他の部屋が同じ有様になってないことを祈るばかりだ。

 さて、朝食の準備をしよう。そういえば、ポン子のご飯はどうするか。いつもどおりドッグフード? いやいや、人の姿をしているポン子にそれをすると、姑に嫌がらせをする鬼嫁みたいな、なんかそんな感じがしていやだ。とりあえず俺と同じでいいか。

 

 食パン2枚をトースターに突っ込み、その間にベーコン焼きと卵焼きを作る。そしてパック入りのサラダと一緒に全部皿に盛り付け、パンにジャム(今日は苺ジャム)を塗って、最後にコップに牛乳ついではい出来上がり。

 ポン子を呼ぼうと思ったが、匂いをかぎつけ、すでに庭から戻ってきていた。


「ごふゅひん、ごふぁん」


 と口にポン子専用の器をくわえて催促する。

 むろん、庭からテーブルまで足跡が続いているのは言うまでもない。


「はいはい、顔と足洗ってお着替えが先な」


 と器を取り上げて風呂場に連れて行く。


「えー!」


 不満そうなポン子を風呂場に押し込み、顔と足だけ、を洗うように念を押してから着替えを取りに行く。全身洗うと間違いなく濡れたまま家中を走り回るからな。


 やはり、早めに起きておいて正解だった。

 ポン子を着替えさせて(俺のジーパンはもう一つ穴あきになった)テーブルに着けたのは、7時過ぎ。ここからもう一波乱あるかも、と考えるとむしろ遅いくらいだ。

 席に着いてからポン子はおとなしくしている。なにかしだす前にさっさと朝食を食べてしまおう。


「いただきます」


 手を合わせ、箸に手をつける。

 一方のポン子はこちらをじーっと見ているだけ。

 なぜ、食べ始めないんだ? やっぱりドッグフードのほうがよかったのだろうか?


「これ、ご主人のといっしょだよ?」


 と不思議そうな顔をするポン子。

 なるほど、自分が食べていいものなのか分からなかったのか。まあ、今まで俺と同じもの食べさせたことなかったしな。


「それ、ポン子の分だから食べて良いよ」


 と言ってフォークをわたしてやる。

 ポン子の顔にぱあっと笑顔が満ちる。

 よしよし、今日もポン子はかわいいなぁ。

 さあ、今フォークの使い方を……。


「いただきます!」


 俺の差し出したフォークはスルーされ、ポン子は皿に顔をうずめて食べ始める。

 ア゛ッー!

 だめだ、ポン子! 人間にはテーブルマナーというものがあってだn……


「これ、おいしい!」


 そうかおいしいか、それはよかった。ならもっと味わって食べれるよう、正しい食べ方をおしe……


「おかわり!」


 朝食におかわりはないの! 

 とはいえ、我慢させるのはかわいそうだ。仕方がないので、ベーコンと卵焼きはポン子にあげることにした。       

 それもぺろりと食べてしまったポン子は至福のときとばかりにほほを緩ませる。

 ジャムだらけの顔で。

 

 食器は台所送り、ポン子は洗面所送りにしてから、テレビをつける。

 動物が人の姿になった、というニュースはない。とすると、ポン子にだけ起こっている現象ということだろうか?

 メールで誰かに聞いてみようか。

 ……いや、なんて聞くんだ?


『おまえんとこのペット、人の姿になってない?』


 とかか? 間違いなく頭が沸いている人扱いされるな。

 どうしたものか。

 こう、ペットを飼ってて、くだらなくても一応は話を聞いてくれるようなやつがいれば……。

 なんて、携帯を眺めていると、ちょうど電話がかかってきた。ディスプレイには、


楠原くすはら 香苗かなえ


 と表示されている。

 いい時にいいやつから電話がかかってきてたものだ。香苗なら幼馴染だし、ペットも飼っている。

 もしかしたら、香苗んとこのモフト(大型犬♂)にも変化があったかもしれないしな。


「あ、よかった、起きてた。おはよ、りょー君」


 電話から元気な声が聞こえてくる。

 朝から活発なやつだ。その辺はポン子といい勝負かもしれない。


「おはよ、香苗。どうした?」


 俺は挨拶を返すと、用件を聞く。

 本当は一刻も早くポン子の変化について相談したいのだが、かけてきた相手の用件を優先するのが礼儀というものだ。ポン子の手前もあるしな。


「今日、学校一緒に行かない? ちょっと相談したいことがあるんだけど」


 それは願ってもないことだ。

 そういえば、香苗と一緒に登校するのは久しぶり、なんて話しをしようとしたところで、


「ご主人、これー」


 と、くしを持ってポン子が洗面所からかけてくる。ああ、ブラッシングね、ちょっと待ってなさい、今電話中だから。


「今の声、だれ?」


 しまった、聞こえてしまったか。


「もしかして……」


 いや、これは違うんです。別に女の子連れ込んでご主人様プレイしてるわけではないんです、本当に。


「ポン子ちゃん?」


 そうです本当に……ってあれ? やけに察しが良いな、香苗。

 ということは、


「もしかしてお前んとこも?」


「そう、うちのモフトもなの。よかったー、身近に同じ境遇の人がいて。こんなこと、うかつに相談したら変な人だと思われちゃうし」


 安堵したような香苗の声。どうやら考えていたことは同じだったようだ。


「じゃあ、りょー君とこにも電話かかってきたんだ?」


 電話? なんのことだろう? 袖を口にくわえて引っ張るポン子を抑えつつ、考えてみる。

 そういえば、電話線抜けてたってことは、電話がなってうるさくてポン子が引っこ抜いた、ってことかもしれない。


「あははー、相変わらずやんちゃだねーポン子ちゃん。ちょっとしつけが甘いんじゃないの?」


 笑いながら失礼なことを言う。俺は常々厳しくしつけを……。


「親バカだなー、りょー君は。それで、電話は市役所の人からで、『変化したペットを連れて、近隣の学校に来るように』ってことだったんだけど」


 少し心配そうな声の香苗。

 なるほど、学校に行けば自然とこの状態について何か説明があると見て良いだろう。

 もしかしたら、何か問題が起こるかもしれない、それが香苗は心配なのだろう。


「わかった、じゃあ20分後くらいに家の前に……」


「んー!」


 言いかけたところでポン子が袖を引っ張って暴れる。もうちょっとだから。こら、ポン子、待て、ウェイト!


「大変そうだねー。ま、うちのモフトはきちんとしつけてるから、おとなしくて楽チンだけどね。じゃああとでねー」


 最後に愛犬自慢してきやがった。親バカなのはどっちだ。

 まあとりあえず、ポン子の問題を一人で悩まずに済むことが分かったのでよしとするか。

 さて、ポン子の髪をとかしてやるか、ってこれ、犬用のじゃないか。いつも使ってるからって、今回はこれじゃとかせないぞ、ポン子。

 やれやれ、支度が済むまでもう少しかかりそうだ。

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