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ポン子、大地に立つ(二本足で)

 状況をいまいち理解していないポン子を、なんとか室内に押し込んで、リビングに待機させる。

 床にぺたんと座って、不思議そうに腕(元前足)を動かしてみたり、体をねじって尻尾を眺めたりしているポン子。

 うん、とりあえずしばらくはおとなしくしてそうだ。いまのうちに服を取りにいこう。

 全裸の女の子を連れ込んだ、なんて家族に知れたら大問題だが、あいにく両親は動物学者として海外で生態保護活動をしているし、姉さんは今年から大学で寮生活だし。

 カーテンも閉めてきたから外から見えないし、と安心して二階に上がり、姉さんの部屋に入る。

 すまんな、姉さん。俺の大事なポン子に少し服を分けてくれ。

 

 姉さんの身長は確か、160センチくらいだったから、大丈夫だ。

 問題は胸囲のほうだ。

 ポン子と姉さんには驚異の格差があるからな、ブラジャーを借りるのは無理か。(姉さんに聞かれたらたぶん殺される)

 後は、尻尾が出せるように、スカートと、それにあわせた適当な服を……と見繕いながら、ポン子の変化の原因を少し考えてみる。

 やはりあの光のせいだろうか、ってかそれしか考えられないし。


 宇宙人の新技術? それとも魔法か?


 まあ、どうあっても常識の範囲内で考えて答えが出るようなもんではないだろう。今日はもう遅いし、明日だ明日。

 姉さんの部屋の時計を見ると、もう11時だ。1時間近く気絶してたってことか。

 ポン子ももうおねむの時間だろうし、さっさと服を着せて今日はもう寝よう。

 

 リビングに戻ってみると、ポン子はソファーに置いてあった四角いクッションを口にくわえて、振り回して遊んでいた。

 おとなしくしてなきゃダメじゃないか、やんちゃさんめ。


「あ、ご主人もどってきた! それなに?」


 遊んでいたクッションをほっぽると、駆け寄ってくるポン子。どうやらすぐに二足歩行にもなれたようだ。

 さすが、わが愛犬。俺も鼻が高いぞ!

 つい、いつもの調子で頭を撫でてしまう。なんだか腕が少し熱い気がする。相手がポン子とはいえ、少し恥ずかしかったからかもしれない。

 ポン子のほうは、いつも通り目を細め、嬉しそうに耳をピクピクさせている。

 うむ、そのかわいさ、人型になっても衰えることなし。もはやポン子のかわいさは国宝級であり、なにげない動作一つとってみてもその破壊力が人々に与える影響は……っといけない、脱線してしまった。早く服を着せないと。


「これはポン子の服だよ。そのまんまだと寒いだろ?」


 と、姉さんから(勝手に)借りた服をわたす。

 ポン子は興味心身で受け取ったが、少し顔を近づけた途端、


「やだ!」


 と言って服を放り投げる。

 いやいや、俺だって犬(今は人間っぽいが)に服を着せる行為はいやなんだよ?

 でもそのままじゃ風邪引いちゃうだろ?

 拾ってもう一度服をわたすが、


「これは、あいかのにおいがするからやだ」


 やはり床に放る。

 なるほど、確かに散歩サボったり、お気に入りのぬいぐるみ取り上げて、届かないところに置いたりしてたもんな、愛花姉さんは。


「だけど今は非常事態なんだ、新しいのは明日買ってやるから、な?」


 説得を試みるが、ポン子は激しく首を横に振りながら、


「ぜったいやだ!」


 と喚くやいなや、リビングを出て階段をかけ上がる。

 こら、家の中を走っちゃダメじゃないか!

 あわてて、俺も後を追う。お前も走ってるじゃん、とか考えてはいけない。

 

 二階には俺の部屋、姉さんの部屋に和室と物置状態になった部屋がある。

 ポン子はすでにどこかの部屋に入ってしまっていて、姿が見えない。

 ドアを開ける音がしなかったから(そもそも開け方を知らないだろう)開けっ放しになっている、俺の部屋か姉さんの部屋のどちらかだ。んで、後者はありえないから、俺の部屋か。

 

 電気をつけて部屋の中を見渡す。ベッドの上の掛け布団が盛り上がっている。

 そして、少し隙間を空けて、そこから顔を覗かせるポン子。怒られないか心配しているような顔だ。

 そんな顔してもダメだぞ。俺はいつもポン子のことを厳しくしつけてきたんだ。そんな潤んだ瞳で見つめたって、上目遣いしたって、俺は、絶対に、折れ、たり、は、しな……。


 仕方がないので俺の服を着せることにする。

 俺はスカートなんて持っていないから(むしろ持っていたらまずい)ジーパンをポン子用に改造することにする。まあ、縫い物なんかできるわけもなく、ベルト通しからしりの部分に切れ目を入れただけだけどな。尻尾を通してから切った部分を安全ピンで留めればなんとかなるだろう。下着は……今日はあきらめるしかないか。

 掛け布団から顔を覗かせていたポン子をベッドから下ろし、改造したジーパンと、タンスから適当にひっぱり出したシャツをわたす。


「ご主人のにおいがする~」


 と今度は素直に受け取り、わたした服に顔をうずめるポン子。

 そういうのは恥ずかしいからさっさと着るんだ。


 とはいったものの、一人で服など着たことないポン子は大苦戦。

 ズボンをはこうとしてすっころんだり、シャツからなかなか顔が出ずもごもごしていたり。

 俺も手伝いつつ数分の奮闘後、袖と裾をまくって、最後にジーパンの後ろをピンで留めてやって、ようやく完成。

 まあ、何はともあれ、これでひと段落……とはいかないな。まだ首輪つけっぱなしだ。

 

 服を着るのが新鮮なのだろう、ポン子はシャツを引っ張って中を見たり、ズボンから出した尻尾を振ってみたりしている。

 今のうちだ。俺はポン子の首輪に手をかけた。


「どしたの? ご主人」


 楽しそうにしながらポン子は顔をこちらに向ける。


「いや、ちょっと首輪を取ろうと……」


 言い終わる前に、ポン子は飛びずさり、


「ぜったいだめ!」


 と怒鳴る。またはじまったか。

 ポン子にはわからないかもしれないが、人間の姿で、首輪をつけているのはひじょーにまずいんだよ。

 まあ、案の定聞く耳持たずで、ポン子は吠える。


「これはご主人がポン子にくれたんだから、もうポン子のだ! ぜったいにあげない!」


 あー、いや取り上げようとしたわけじゃなくて。日本語って難しいなぁ。

 


 しばらくすったもんだを続けた後、ポン子はベッドに飛び乗ると、髪の毛を逆立て、半泣きになって威嚇をする。あーあー、目じりに涙いっぱいためちゃてまぁ。大事にしてくれるのは嬉しいんだが、さてどうしたものか。

 さっきからポン子の行動を見ると、ずいぶんと子供っぽいし、その性格を利用すればもしや?


「あー、残念だなぁ。それ、腕についていたほうがかわいいくて好きなのになぁ」


 腕ならとりあえず問題ないだろう、ということで、顔をそらしながら言ってみる。そして横目で反応をうかがう。

 表情が少し緩んだ。効果ありだ!


「ほんと?」


 涙をぬぐいながら、聞いてくるポン子。もう一押しだ。


「ほんとほんと。取ったりしないから、大丈夫。腕につけよう、な?」


 笑顔で語りかける。すると、ポン子はうなずいて、おとなしくなる。

 よ~しよしよし、いや~、最初からこうすればよかったんですねぇ~(某動物好きのおじいさん風)

 

 落ち着いたポン子の首輪をはずし、腕用に穴を一つ開けてから、左腕につけてやる。

 しげしげと見つめた後、ポン子は得意げに左腕を掲げる。

 おー似合ってる似合ってる(パチパチ)

 さて、騒いだからポン子ものどが渇いただろう。


「今飲み物とってきてやるからな」


 とポン子に背を向けるや、ぽふっと布団に倒れこむ音がしたので、振り返る。無防備な寝顔をさらして気持ちよさそうに眠っているポン子。

 まあ、慣れない体であれだけ騒げば疲れて当然だろう。布団をそっと掛けてやり、


「おやすみ」


 と小さく声をかける。俺の寝る場所がなくなったが、ソファーで寝ればいいか。

 さて、明日は少し早めに起きなきゃな。どうせ朝も色々と忙しくなりそうだし。俺は枕元に置いてある目覚まし時計を持って、電気を消してそっと部屋を出た。


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