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プラスとマイナス

 休日の朝なんてのは、のんびりダラダラと起きたいものだ。五月も終盤に差し掛かり、暖かくなってきた空気が、布団の中でゆっくりしたい気持ちを加速させる。が、最近の俺はそうもいかない。

 早起きで、朝から活発に動き回る方々がいらっしゃるからだ。放っておいてもそんなに実害はないのだが(せいぜい部屋が散らかる程度)、今日は俺の部屋でがさごそやっているようなので、重いまぶたをこすりながら、音のするほうに視線を向ける。

 栗毛で毛の先っちょが白いウルフヘアの、ナイスバディな犬耳娘と、黒髪ショートの気持ち控えめな猫耳娘の後ろ姿が、ぼんやりと目に映る。


 ポン子とミーちゃんだ。めるくが起こした一騒動の後、ミーちゃんは我が家の住人となっている。まあ、いつまでもあの姿で、学校に住み着いている野良状態、ってわけにはいかないからな。

 それで、その我が家のアイドルとニューフェイスだが、なぜか下着にエプロンというわけの分からない格好で、床にぺたりと座っている。どうやら、何かの本を覗き込んでいるようだ。


「ちがうの、前かがみになって、胸を寄せるの」

「ポン子はこっちの、うしろでうでくんでるやつのほうがいいの!」


 本を見ながら、二人してくねくねと奇怪な動きをしている。

 何をやっているのかはよく分からないが、本から学ぼうとするのは良い事だ。邪魔をするのは悪いし、もう少し二人の様子を見守ろう。


「ん、だいたいこんなかんじなの」

「ポン子もできたよ」


 二人のポーズが完成したようだ。みーちゃんは前かがみになって胸を寄せて、ポン子は両腕を頭の後ろで組んで胸を強調するような……。これは、ただちに二人から本を取り上げなければならない。あれは、ポン子たちの教育上よろしくない本だ。

 おいこら、どっからそんな本見つけてきたんだ!


「あ、ご主人、おはようなの」

「おっはよー、ご主人!」


 ポーズは解かないまま、顔だけこちらに向けるお色気妖獣シスターズ(義理)。はいおはよう、じゃなくて、それはどこから拾ってきたのか聞いてるんだ! 勝手にものを拾ってきちゃダメじゃないか。


「これ、ご主人のベッドのしたにあったよ?」


 ポン子はポーズを解くと、不思議そうな顔をして、ベッドの下を指差す。

 そんな、俺はベッドの下なんてベタな場所に隠したりはしない。いや、そもそもいかがわしい本は、一つも持っていないけれども。それになんだ、この『エプロンだよ!全員集合!』て。こんなマニアックなのを持っているのは、将弘ぐらいのものだ。俺はもっと普通の、って俺はこういうのは持っていないぞ、いや本当に。


「アンジェが昨日、『ベッドの下に面白いものがあるから見てみなさい』って言ってたの」


 なるほど、アンジェの仕業か、それで合点がいったぞ。あと、みーちゃんももうそのポーズやめような。

 それにしても、アンジェは一体何でこんなことを。俺に何の恨みがあるというのだ。


「あ、なんか落ちたよ」


 本にメモが挟まっていたようで、ポン子が拾って渡してくれた。

 俺はポン子を右手で撫でながら、メモの内容を確認する。


『これがあると将弘がウザイから、預かっといてね♥ アンジェ』


 ……なるほどね。つまりこの状況は完全にとばっちりなわけだ。本来ならアンジェに仕返ししたいところだが、後が怖いので将弘にしよう。そう、すべては将弘がウザイのが悪いのだ!


「ところで、もうワン娘を撫でるのはやめたほうがいいの」


 ミーちゃんの指摘でポン子を見ると、体中の力が抜けたようにだらんとし、至福の表情を浮かべている。おおしまった、右手には妖力ヒーリング効果があるんだった。


「よき……かな……」


 意味不明な言葉をつぶやき、ポン子は床に突っ伏した。いい加減めるくにヒーリング効果の加減の仕方を習っておかないとな。これじゃうかつに、ポン子をナデナデできないではないか。


「相変わらずご主人は妖獣たらしなの。ここは人目がないから良いけど、外では少し自重してほしいの。ふしだらな主人をもって、ミーちゃんは恥ずかしいの」


 ジト目で毒を吐くミーちゃん。猫のときはのんびりした感じの優しい子だと思っていたのに。一緒に住んでみないと、分からないこともあるものだ。

 しかし、ふしだらとは聞き捨てならんな。俺は動物(最近は主に妖獣)をかわいがるのが好きなだけだ。どれ、ミーちゃんもナデナデしてげよう。


「きゃー、おやめになってーなの。ミーちゃんは即座に通報するの」


 おいこらやめろ。いたずらで通報したらダメなんだぞ! 俺は笑いながら部屋を出ていったミーちゃんを追い、家中を走り回った。



 こんな感じで、妖獣が増えた我が家はさらににぎやかになった。


「まったく、ご主人は朝から元気なの」


 さっきまで走り回っていたのに、息一つ荒げず、リビングでちびちびとミルクを飲むミーちゃん。


「ポン子もおいかけっこしたかった!」


 朝食のパンにかじりつきながら、ぶーぶー文句を言うポン子。

 騒がしいながらも楽しい我が家。しかし、ここで問題が一つ。俺の両親は、俺とポン子(犬状態)二人と仮定して仕送りをくれている。つまり、ポン子の服代やミーちゃんの生活費等は、含まれていないのだ。

 ということで、今我が家は財政難につき、急遽俺はバイトすることになった。そして今日が初日だ。

 バイトするのは初めてだが、顔見知りがいる(むしろ顔見知りしかいない)ところなので大丈夫だろう。むしろ心配なのは……。


「ねえ、ごはんたべたら、おさらあらわらないとだめなんだよ」

「これ見たらちゃんとやるの」


 俺は支度をしながら、ソファに横になりテレビをつけるミーちゃんと、それをしかりつつも自分もテレビに釘付けなポン子に視線を向ける。

 うーん、最近はだいぶおとなしく留守番できるようになったし、家事も手伝ってくれるようになった二人だが、まだまだ不安だな。

 火の元にはちゃんと注意するんだぞ? あと、戸締りはしっかりして、知らない人が来ても開けないこと、それかr

「わかったわかったの。いってらっしゃいなの」


 すでに関心がテレビに向いているミーちゃんは、こちらを向かず手だけでいってらっしゃいをする。かまってほしいときとそうでないときでの差が激しい子だ。まあ、猫らしいっちゃらしいが。


「ポン子がいるからだいじょぶだよ! あんしんしていってきてね!」


 ポン子はやる気全開。頼もしい限りだ。ただし視線はテレビに向いたまま。

 テレビに子守をさせた弊害がここにきて現れたか。俺は苦笑いしつつ、バイト先へ向かった。



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