両手にバラ(トゲつき)
午後の授業は、平穏に過ぎ去った。まるで激動の昼休みなど、なかったかのようだ。しかし、左手の傷のうずきが、あれは現実であったと教えてくれる(決して中二病ではない)。
とまあ、モノローグ的にたそがれながら一人で歩いているのには、わけがある。
ミーちゃんの様子を見に行くのに、香苗と将弘も誘ったのに、二人とも来なかったのだ。将弘容疑者はミーちゃんの太ももを故意に触った疑いでアンジェに、香苗容疑者は今日の昼練をサボった罪で部員たちに、それぞれ連行された。二人とも自業自得なので、仕方ないんだけどな。
しかし、少し寂しさを感じでしまうのは、ポン子が妖獣になってから、単独行動なんてしてなかったから、かもしれない。いや、少しだけで、別にたいしたことはないんだけれども。
そんな誰に見られているわけでもなしに、強がっているうちに、保健室までたどり着いた。
ミーちゃんはまだ寝ているかもしれないので、そっと戸を開ける。
さーて、二人ともおとなしくしてるかn
「ミーちゃんはのどが渇いたの。だからお水を飲みに行きたいの!」
「だめ! ご主人がくるまで、ここからうごいちゃだめ!」
あー、なんとなく分かってはいたが。やっぱりけんかになってたか。
「じゃあ、お水を持ってきてほしいの。ミルクでもいいの」
「そのあいだに、にげるつもりかもしれないからだめ!」
ふとんから出ようとする、押し戻すという動作を繰り返している二人。これはガチのけんかになる前に、仲裁しないと。
「あ、ちょうどいいところに来たの。この子がいじめるの、助けてほしいの」
「えっ、あっ、ご主人! ち、ちがうよ! ポン子はいいこにしてたよ!」
こちらを向くや、ポン子は首を振り全力で否定する。そんなに一生懸命にならなくても、わかってるって。
「ご主人? じゃあ、この子が言ってた、ミーちゃんを助けてくれたヒーローさんって、あなたなの?」
ミーちゃんは布団から飛び起きると、じーっと俺の顔を覗き込む。
いやあ、ヒーローさんだなんて。照れるなあ。別に当然のことをしたまでだよ、うん。
「カッコいいの。さすがヒーローさんなの」
そんな、嬉しい言葉を俺にかけつつ、ミーちゃんは左腕に抱きつく。
まったく、猫ってのは甘えるのがうまいなぁ。ミーちゃんはアンジェとは違って、身長はポン子と同じくらいだ。そして、体系はかなりスレンダーな感じだが、おっとりとした感じや、あどけなさ残る口調が、アンジェとは一味違った魅力を引き出している。
うむ、妖艶系のアンジェ、元気系のポン子、おっとり系のミーちゃんで、きちんと住み分けが出来ているな!(意味不明)
「ご主人にくっつかないで!」
ポン子が右腕にしがみついて引っ張る。まさに両手に花とはこのこと。俺は今、男なら誰もがあこがれるような状況にあり、将弘が見たら羨望と嫉妬の眼差しで見られることまちg
「ひとりじめはずるいの! まったく、ワンころはこれだから困るの」
「うるさい! ご主人はポン子のごしゅじんなのー!」
あの、さすがに、両側からそんなに強く引っ張られると痛いんですが。
「離れるのー!」
「私のー!」
ストップ、ストーォップ!
はい一度ブレイクタイム! 何か飲み物買ってきてあげるから、いったん二人とも離れるの! って俺にもうつっちゃたじゃないか。
それぞれのご所望の飲み物を買ってきて、一息つく。ポン子はオレンジジュース、ミーちゃんは天然水(軟水)。二人ともおいしそうに飲んでいたが、ポン子のほうがちょっかいを出す。
「そんなのただの水なのに、どこがおいしいの?」
するとミーちゃんは鼻で笑いながら、
「ふふん、まあ水道水と天然水の違いなんて、お子様には分からないの」
と挑発する。
あれ? さっきポン子のことワンころとか言ってたし、ミーちゃんってもしかして意外と腹黒? 温厚でおっとりした姿の裏には、どす黒い何かが潜んでいる……のかもしれない。
とにかく、このままだと再び火花が散る羽目になるので、話題を変えよう。
だいぶ落ち着いたみたいだし、昼の出来事のいきさつを話してくれないか、ミーちゃん?
「わかったの」
こくりとうなずくと、ミーちゃんはぽつぽつと話し始める。
「あそこは、ミーちゃんのお気にのお昼寝スポットなの。それなのに、あの人たちが来てどけって言うから、嫌だって言ったの」
ミーちゃんの話が始まったので、さすがにポン子もおとなしくなる。
その後何があって、ああいう状態になったのか、ここからが重要なところだからな。
いったいどうして、ミーちゃんがあんなふうに囲まれたのか。なかなかミーちゃんは話 してくれない。
どうしたんだろうか。何か言いづらいことがあるのだろうか?
しばらく、ミーちゃんと俺たちは、真剣に見つめ合っていたが、外ですずめの声がすると、ミーちゃんの視線はそちらのほうへ向く。
あ、あれ? もしかして、それだけ?
「? それだけなの」
首を傾げるミーちゃん。じゃあほんとに、どけって言われてどかなかったから、囲んで耳引っ張ったりしていじめたってのか?
どんだけ情けない連中なんだ、あいつら。そりゃ、ミーちゃんがキレた理由も分かる。
「あんな連中、ミーちゃんにかかれば屁でもないの」
得意げに胸をそらすミーちゃん。しかしすぐにしょぼくれた顔になる。
「……嘘なの。本当はすごく怖かったの。だからずっとしゃがんでたの。そしたら急に意識が遠のいて、気がついたらここだったの」
とても嘘をついているようには見えない。ってことは、男子生徒相手に無双したことは、、覚えていないのか。
「そうなの。それに、あなたにケガさせちゃったことも。本当にごめんなさいなの」
本当に悪いと思っているのは、表情からも耳の垂れ具合からも分かる。
大丈夫だよ、そんなにひどくないし。もう気にしなくて良いって。
それに、暴走してた間意識がなかったってことは、もしかすると操られていたという可能性もある。そうすると犯人は一人に絞られるのだが。
なにか、意識を失う前に、変な事とかなかったか、ミーちゃん。
「そういえば、声みたいなのが聞こえたの。ガキっぽい感じだったの」
妖獣を操る力、ガキっぽい声。やっぱり犯人はあいつしかいない。
ミーちゃんがいじめられているのを見て、助けてあげようと思ったのだろう。少々過激ではあったが。
そうなると、やはりめるくの人間に対する感情は、悪化していると見て良いだろう。何か行動を起こされる前に、説得しなければ。
ありがとうミーちゃん、話を聞いたおかげで、次にやるべきことが決まったよ。
それじゃあ俺はそろそろ行くから。ちゃんとゆっくり休んでくれよ?
「もう行っちゃうの? 寂しいの」
しおれるミーちゃん。確かに色々あったから不安だろうし、じゃあ今日はうちに泊まってくか?
「いきなりおうちに誘うなんて、大胆なの」
ミーちゃんは赤くなったほほに両手を当て、くねくねする。
「きょうはポン子とまっすぐかえるんだよねぇ? ご主人?」
ポン子さん、爪を立てて肩をつかまないでください、痛いです。
「ふふふ、冗談なの。ミーちゃんは強いから、もう一人で大丈夫なの」
ポン子の鬼の形相を見て、ミーちゃんはやれやれといった感じでフォローしてくれた。
「それじゃ、また明日なの」
笑顔で手を振るミーちゃんに、俺は少し躊躇した。めるくの行動いかんによっては、明日会えるかどうかはわからない。だけど、そんなこと言って心配させるわけにもいかないからな。俺は何も言わず、笑顔でお別れの挨拶を返すことにした。
「うん、また明日な」




