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マッパー少女

 どうやら、春になって頭が沸いているやつのほかに、痴女まで出てきてしまったらしい。

 もしかしたら人間は生まれたままの姿でいるべき、とかそういう主張の方かもしれない。

 それはそれで結構なのだが、人ん家の庭でなく、よそでやってくれ。

 ともかく、あられもない姿から目をそらしつつ、ぺたりと座ったままのマッパー少女から後退。手の届くところにいると、なにをされるかわかったものではない。


「ん? どしたご主人、変な動きして?」

 

 なるほど、ご主人様プレイをご希望で? 

 あいにくですが当店ではそのようなサービスは……、ってそんなことよりポン子が心配だ。

 庭を見渡すが姿が見えない。どこ行った?

 変なやつが来て隠れてしまったのだろうか?そんなに臆病な子ではないはずなんだけど。


「ポン子―?」


 呼んでみる。すると、


「はーい、ご主人」


 と目の前のマッパー少女が返事をする。

 

 なぜだ。こいつもポン子って名前なのだろうか。ありえない。

 とりあえずさっくりと無視し、犬小屋まで足を運び、中を覗き込みながらもう一度呼びかけてみる。


「おーい、ポン子―?」


 犬小屋の中にはポン子の姿はなく、帰ってくるのは、


「だからはーいってばー」


 とマッパー少女の返事だけ。

 鎖でつないであったから、どこかへ行くはずは……。

 犬小屋から伸びている鎖を目で追う。すると、行き着く先はなぜか、いつの間にか一緒に犬小屋を覗き込んでいた、マッパー少女の首元。


 どういうことなの? 


 それに、さっきはとっさに目をそらしてまともに見てなかったが、こいつよく見てみると首輪つけてるし。

 しかもそれ、ポン子のと同じやつじゃないか。

 普段は毛の中に隠れて見えないが、真っ赤なベルトに、星のマークのついた留め金、間違いなく俺がポン子につけてあげたやつだ。

 

 いったいなんなのだろう。

 初めて、少女の顔をまじまじと見てみる。

 澄んだ黒い瞳。栗毛色のウルフヘアは、先のほうが白く、サイドの部分は黒。

 なんとなくポン子の毛の配色と似ている気がする。

 そして極めつけは頭部から生えている犬耳。

 ピクピクとかわいらしく動く耳も、ポン子のそれと似ている気がしなくもない。

 もしかして、とありえない答えが頭の中に浮かぶ。

 い、いやでも最近は脳波を感知して勝手に動く付け耳とかもあるらしいし!

 

 俺は、目の前にいるのがただのマッパー少女である証拠(それはそれで問題なのだが)を探すため、観察を続ける。

 身長は、相手が座っているのでよくわからないが、体が俺より二回りくらい小さいから、おそらく150センチくらいだろう。

 スタイルは、この前友人が見せびらかしていた、グラビア雑誌のアイドル顔負けのナイスバディだ。(じっくり見たわけではないので、記憶はあいまい。いや、本当に)

 ポン子は三歳だから、この豊満さはありえな……くはないか?

 犬の年齢は人間の大体五倍ぐらいと考えると、十五歳くらいだ。見えなくはない。

 それに、さっきからパタパタと元気に左右している尻尾も見える。


「もしかして、ほんとに、ポン子?」


 外堀を埋められ、おもわず問いかけてしまう。


「? だからさっきからそういってるよ?」


 と不思議そうにポン子(?)は首を傾げる。

 認めざるを得ないのだろうか、この子が、ポン子だと。

 そんな俺の苦悩とは裏腹に、ポン子(?)は、


「あれ? そういえばさっきからご主人がなにいってるかわかるな、なんでだろ?」


 と今度はのんきに反対側に首を傾げる。

 もしかして、自分の変化に気づいていない、とか?

 それなら、俺の挙動がおかしいのを見て不思議がるのも分かる。

 

 目の前の少女をポン子(仮)とすることで、俺は少し冷静さを取り戻した。

 とともに、現在の状況が非常にまずいことに気付く。


 全裸の少女が首輪をして犬小屋につながれている、この状況をご近所様に見られでもしたら……。


 間違いなくここにはいられなくなる。この子がポン子だと言い訳しても無駄だろう。(俺自身まだ完全に信じているわけではない)

 

 ともかく、急いでポン子を室内に退避させなければ!

 俺はポン子の首輪につないでいた鎖をはずし、室内に入れようと肩をつか……もうとしたところでさっと回避される。

 なぜ?


「お? ご主人、あそんでくれるの? ちょっとまってて、いままるいのとってくるから!」


 どうやら、鎖をはずしたせいで遊ぶのと勘違いしたらしく、四つんばいで小屋まで走ってゆく。

 あぶない!(いろんな意味で)

 案の定、ポン子の体は犬小屋には入りきらず、半分くらい入ったところでじたばたしている。


「なんだこれ? おかしいぞ?」


 そうなんです、おかしいんです。やっと本人(犬?)も気づ……いたわけではないようだ。

ボールをくわえて意気揚々と俺の元へ戻ってくる。


「おまたせご主人! なんかうちがちいさくなっててなかなかとれなくてあし……で……?」


 自分の右手(前足)をじーっと見つめるポン子。ようやく事態を理解したか。


「たいへんだご主人!」


 驚いた顔をしながらポン子は自分の腕を俺に見せる。

 そうなんだ、大変なんだ。よく気付いたな、えらいぞポン子。


「けがぬけた!」


 ちがうから! そこじゃないから!


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